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これから俺が作ろうとしているものは、少しの間かもしれないが、真に俺のアドバンテージたり得るものだ。


魔石粉しかり、司書NPCから齎されたこの情報は、トッププレイヤーたちが知らないことが裏付けしてくれているように、もし一部で知られていても秘匿されており、十分にアドバンテージになると思われる。


それに、各属性の魔石粉の作り方や配合比率はグレンとセシリアさんに教えてしまっており、アドバンテージはこれだけになる。


気張っていこう!!



共同生産場に移動した俺は、なけなしの500Gを支払い五時間個室を借りる。


疲れたら少し休憩することもあるだろうが、ここからは集中力との勝負でもある。


まずは、羽ペンの作成だ。


これは図書館で見つけたレシピがあるので、手順通りに従って作成していく。


新たに取得した【細工】スキルの補正も借りつつ、[レッサーイーグルの羽根]を加工していく。


といっても、羽柄と呼ばれる羽根の下棒部分を五分の一ほどを斜めに切り落とし、その先端に小さな切れ目を入れたら完成した。


手元で羽根が光り、それが収まるとアイテム名を確認する。


[レッサーイーグルの羽根ペン]と、身も蓋もないアイテム名だったが、これは生産アイテムの仕様上仕方のないものだ。


生産アイテム名は、プレイヤーが独自に変更できるのだが、デフォルトのままだとこのように、元となった素材に由来された味気ないものとなる。


それが嫌なら自分で気にいる名称をつけるしかないのだ。


その他にも、製作者はフレーバーテキストを自由に書き加えられるが、今はいいか。



評価は手順が簡単だったこともあり〔C-〕、なかなかではないだろうか。


ただ、序盤のアイテムらしく耐久度が著しく低いので、同じ手順で十本になるように量産した。


こういう生産アイテムは評価が同じでもストレージ内で重ならないのが不便だな。


β情報で量産品?はスタック可能だとか見た気もするが、俺に関連するアイテムだと魔石粉や魔法のインクなんかはスタック可能だ。


閑話休題。


ようやく全ての準備が整った!


作業台の上に今回必要なアイテムを取り出していき…そこではたと気づいた。



「作業しにくそうだな…」



今からするのは長時間座ってする類の作業であり、ここの備え付けの作業台は立って行うこと前提の作りなのか、椅子を持ってきても少々位置が高いのだ。



ということで、まだ二十分ほどしか使用してない共同生産場を後に、とある場所へ足を向けることにした。


共同生産場はもし過剰な料金を払っていても、利用時間が少なかった場合は過剰分は戻ってくる優しい使用だったのには、少しホッとした。


絶賛金欠週間開催中だからな。






そして辿り着いたのは、プリムスの住宅街の奥の奥。


都市壁の影と、生茂る植物に隠れるようにして建つそこは、紛れもなく師匠の家だった。


一応、玄関までの道は整備されており、蔦の絡まるアーチに誘導されるように石畳を叩き、玄関前まで来ると立ち止まる。


改めて見るとこじんまりとしており、一見無造作にみえるが手入れされている植物に囲まれる木造建築は、田舎のオシャレなお店のようにも見える。


前にアホ鳥が飛び出してきた倉庫?も味といえば味だ。


用事がある時は勝手に入っていいとは師匠の言だが、一応はノックをする。



「師匠、レンテです。少し場所をお借りしたいんですが」



返事がない、師匠がただのしかばねになっている可能性が!?


まあ、あの規格外な師匠に限ってそれはないので、師匠の言葉に甘えてズカズカと侵入するか。


そう考えドアノブに触れると、ドアノブが淡く輝いた。


直後ガチャと鍵が開いたような音が聞こえたのを確認して扉を開く。


これは、魔道具と呼ばれるものらしい。


ドアノブに触れたものを判別し、許可されたものが触れたときだけ鍵を開ける、と師匠は言っていた。


他にも各所に魔道具やら、魔改造やらが施されているらしく、この建物自体も世界樹の木材で出来ているのだとか。


もし、物取りの類がこの家を襲おうと思うのなら、命を一つや二つ賭けるくらいでは足りないのは確実だな。



「おっ、この机がいいな」



前に来たときに通された薬品や本に囲まれた部屋の端に、良さげな机を見つけた。


乱雑に積まれた書類から見るに、普段使いはされていなそうな机だが、俺が座って作業するには良い感じだと思う。


積み上げられた書類を邪魔にならない場所に置き直し、使える状態にするのに三十分ほど要したが、必要な時間だろう。


本来なら図書館で作業することも考えたのだが、許可してもらえるか分からなかったし、何より利用料1,000Gが払えないのがこの場所を選ぶ要因になった。


そして、改めて。


机の上に並ぶのは、[魔法のインク(水)]、[レッサーイーグルの羽根ペン]、なんの変哲もないただの紙の三つだ。 


そして重要な『ウォーターボール』の詠唱中に現れる魔法陣のスクショを視界端に表示させ、準備は整った。


図書館で魔法陣に対して疑問を持ち、こういうものがあると知ったのが五日前…。


って、そうか。


今日で正式リリースから数えてちょうど一週間なのか!


今日のこれで頭がいっぱいいっぱいで気がつかなかったが、運営からメールも届いているようだ。


思い出すことがあればあとで確認しよう。


話が逸れたが、いよいよだと思うと泡沫のようにあれこれ余計な思考が浮かんでは消えていく。


しかしずっとこうしているわけにもいかず、頭を振るといざ、羽根ペンにインクをつける。



「ふぅ…」



深く息を吐き、少し目を瞑り集中する。


絵を描くのは好きだ、料理よりも得意だと断言できる。


下手の横好きだけども。


目を開き、先ほどまでと違い、程よく力の抜けた腕を羽根ペンごと紙の上に走らせる。


今回は模写だが、寸分の狂いさえ許されないと司書さんは言っていた。


多重円を描き、六芒星を描き、要所に見たことのない文字で装飾していく。


複雑な紋様は、手先が少しでもブレれば隣の線と重なってしまうだろう。


全体としてみれば画一的にも映るが、実際は各所が全く違う構造をしていた。


何度も何度も、何枚も何枚も、太すぎたり細すぎたり、ズレたりはみ出したり、単純に間違えたりしながら、ゴミの山を積み重ねていく。


その度に途切れそうな集中力を気合いで押し留め、筆を走らせ続けた。


最初の方は失敗しても最後まで描き続けたが、途中からはそれもやめた。


ただひたすらに貪欲に、完成を。


視界に映るスクショした魔法陣と、手元の描きかけの魔法陣を行き来する視線。


視界に映る完成された魔法陣は、淀みのない神秘的な造形をしている。


一方で、意識から解き放たれたように縦横無尽に走り出した俺の腕が描く軌跡は、淡く輝いており、こちらもまた別の美しさを内包していた。


この輝きはインクによるもので、生産アイテムの輝きではない。


インクの輝きというのも、蛍光色のようなものではなく、儚く淡くキラキラとした輝きを放っていた。


もう何百枚描いたのか、何時間経ったのかも分からない。


実際にはもっと少ない枚数なのかもしれないし、本当に数百枚描いている気さえする。


段々と、どこか他人事のように切り離されていく思考の中で、共同生産場で作業をしなくてよかったと思った。


あそこで作業していれば、時間に縛られ、そのせいで集中力が散漫になってしまっていたかもしれないからな。


止まらない羽根ペンは、まるで出口のない迷路を描くように、未だ減速を知らない。


描いた線や図形が重なり合い、文字が埋め込まれることによって、相乗効果を生むように要所要所が輝きを強めた。


暗い迷路の先に一筋の光が生まれ、徐々に周りを照らしていくような。


そして、長いような短いような時の流れは唐突に──。



《匿名 が[スクロール]の作成に成功しました》

《一部情報を解禁します》

《ヘルプ欄からご確認ください》


《特定エリアにて、特殊なアイテムの取り扱いが開始されました》

《是非、様々な場所を探索して探し出してみましょう!》



〈LV.4に上昇しました〉

〈【魔法陣】スキルが取得可能になりました〉

〈【模写】スキルが取得可能になりました〉

〈【集中】スキルが取得可能になりました〉



「おや、誰かいると思えばレンテかい」



※済

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