20/土
昨日は日付変更ギリギリまでインしていたせいもあって、寝つく頃には午前一時を超えていた。
なので、今朝の起床時間が午前十時を回っていたのは仕方のないことだと思うのだ。
「ただいまー」
「んあ?おはへひ」
「こら、健!歯磨きしながら話さないの!」
寝ぼけ眼で歯磨きをしていると、母さんが帰ってきた。
洗面所から廊下に顔だけ出して返事を返したら怒られてしまった。
母さんは夕方くらいに家を出て、遅ければこの時間くらいに帰ってくる。
早いと明け方頃には帰ってきてることもあるが、それもまちまちだ。
父さんは、もうほとんど単身赴任状態なので、顔を合わせるのは月一度くらいだな。
ただ、俺も柚子も、両親が何の仕事をしているのかは知らなかったりする。
気にならないといえば嘘になるし、実際に問うたこともあるが、何かと秘密主義な両親は教えてくれそうにないので、今では諦めている。
判明しているのは、母さんは接客業ではないことくらいだろう。
「あ、明日は休みだから、今日の晩ご飯は母さんが作るわ。おやすみ〜」
「わかった、ゆっくり休んでね」
ってことは、今日はゲーム三昧決定だな!
さて、決意とは裏腹に寝坊してしまったので、少しだけ予定変更だ。
今からログインすると、昼飯に合わせてまたログアウトしなければいけないからな。
それでは集中出来ないだろう。
なので、柚子がログアウトしてくるまでの間、やれることをやっておこうと思う。
実を言うと、来週末からゴールデンウィークだったりする。
俺が通っているのは私立高校で、多少の融通も効くらしく、九連休という素晴らしい長期休暇になっているのだ。
ただ、教育機関というのは、休日をただ休ませてくれるほど優しい存在ではない。
休日の日数が多ければ多いほど乗算して増えていくのではないかと思うほどの課題を押し付けてくるのが常である。
それでも幸か不幸か、昨日までにどの教科もゴールデンウィークの課題を配ってくれているので、長期休暇を満喫するためにも早めに終わらせるに限る!
ちなみに、ようやく昨日配られた最後の課題の教科はまたも古文の倉田であり、なかなかの量を押し付けてきやがった。
おれぁ、あいつが嫌いだね!!
この古文の大量課題さえなければ、もう全体の半分は終わっていたのだ。
青春を生きる学生に何か恨みでもあるのか疑いたくなるぜ。
そんな倉田曰く──。
「勉学は繰り返し反復することが何よりも大事です」
だそうで、一気に消化するのではなく、毎日やれとのことだった。
知るかっ!!
そんなこんなで、課題を始めて二時間程経った頃、集中力が少し途切れてきたので切り上げることにする。
そんなに焦る必要がないというのもあるが、そろそろ柚子がログアウトしてくると思うので、昼飯を用意するためだ。
冷蔵庫を見ながら考える。
料理はそこまで得意ではない。
少しは慣れてきたような気もするが、母さんほど美味い料理は作れない。
なので、俺が当番のときは決まって簡単なものが多かったりする。
「えっと…焼豚、ネギ、卵…炒飯でいいか」
作る品目が決まったので、早速取り掛かる。
まずはボウルに卵を二個入れて溶きほぐす。
そして、そのボウルの中に昨日の残りのご飯を投入。
そして、しっかりムラがないように満遍なく混ぜ合わせ卵ご飯を作っていく。
柚子は育ち盛りゆえか、我が家で一番食べるので、二回のおかわりを見越した米の量だ。
もうこれでいいような気もするが、柚子が不満を垂れる未来が想像できるので我慢。
青ネギをみじん切り、焼豚を炒飯にしてはすこし大きめに切り分ける。
ちなみにこの焼豚は、母さんが休みの日に大量に作り置きしてくれているものだ。
下準備が終わったところで、俺唯一のこだわりポイント。
フライパンを熱し、オリーブオイルを適量投下する。
どこかの飲食店でたまたま覗いた厨房、炒飯に投下する油の量が衝撃的過ぎた昔日の記憶。
こびりついて離れない記憶が、少しでも健康に気を使おうと、浅い知識でオリーブオイルに手を伸ばすのだ。
フライパンが温まったところで卵ご飯を投入し、ヘラを使い切るようにしてほぐしながら炒めていく。
準備しておいた青ネギ、焼豚も投下して一緒に炒め、ここで味の決め手!!市販の炒飯の素を書いてある分量だけ入れ、追加でごま油を少々。
「いやぁ、こんな便利なものがあるなら、俺でも美味しく作れるってもんよ」
炒飯の素は正義だと思う。
誰でも手順に従えば美味しく出来るんだからな!
俺も料理を始めた頃は、味付けに塩胡椒、醤油、ニンニク…などと考えたものだが、あれは素人が手を出していい領域ではないのだ。
この不変の正義を前に、素人が駆使する調味料は塵芥でしかない!
別に手首にスナップを効かせてひっくり返さなくても炒飯はパラパラになるのだと知ったのは、中身を全部ぶち撒けた中二の夏。
あれは胃もたれするような油の薫陶の賜物なのだ。
そんなことを考えつつ、終始切りほぐすように炒め、パラパラになった頃。
「よし、完成っと」
「今日は炒飯か〜」
と、タイミングを見計らったように柚子が降りてきた。
柚子に手伝ってもらいながら配膳し、二人で食卓を囲む。
「「いただきます」」
大きめのスプーンで掬い一口。
うむ、安定した味!
ちょっと醤油を入れたら、もっと味に深みが出そうな気もするが、十分美味しいのでそんな危険を冒さないのが俺クオリティ。
最初に卵ご飯にするのだって美味しくなるからじゃなくて、面倒だからだしな。
「おかわり!」
といいつつ、自分でよそう柚子。
相変わらずの大食らいに、その細い体のどこに消えていくのか謎に思う。
「そういえば、柚子もレイド参加してるんだよな?」
「うん、今は昼休憩だね。一時間くらい休憩挟んでまた挑戦する予定かな」
柚子もβテスターな上に所謂攻略組の一角であり、トモのフレンドでもあるので、今日行われているレイド戦に参加していても何ら不思議ではない。
少し気になっていたことを話題にしてみたが、進捗は芳しくないのかな?
「ネタバレしてもいいの?」
「王都どころか第二の町にも辿り着いてないし、逆にトップ層の世界がどんなものか聴きたいかな」
それに俺は、未知への挑戦!!みたいな感情はそんなに大きくないので、少しくらいのネタバレは許容範囲内だ。
加えて、俺がそのレイドボスに挑むかどうかも甚だ疑問であるわけだし。
「セントルムの護国獣は蛇なんだけど──」
柚子によるレイド戦の近況報告に耳を傾けながら、昼飯を片付けた。
トモや柚子の奮闘、試行錯誤やらを聞き、俺も今からの挑戦に気合を入れ直す。
どうやら未知への挑戦に興味は少ないといいつつも、俺の中にはしっかりそのゲーマー根性が燻っていたようだった。
※済




