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え、速すぎるだろ!?



「いや、お前王都に居たんじゃ…」



素直な呟きが口から漏れでる。



「あー、お前知らなかったのか。一度行ったことのある主要都市は転移で移動できるんだよ」


「MLってそんなこと…いや、驚くほどのことじゃなかったわ、すまん」



そういや、うんこ事件のとき師匠がやってたっけ。


今更だったな。



「レン君、ちょっと聞き分け良すぎない?」


「あれ、セシリアさん、レンとは知り合いだったんですか?」


「ええ、少し前に大量在庫を抱えてた素材アイテムを買い取ってもらったの。その時にフレンド登録して以来ね」



ちなみに、今日魔石を買いに行ったときは、リーマン風プレイヤーと、気怠げ少女が店番だったので、今日は初顔合わせだ。



「その節はどうも。おかげで色々と万々歳ですよ」


「あら、それはよかったわ。その出来た新アイテムは…」


「考えときます」


「そ、待ってるわ」



なかなか新鮮なやりとりに、少し込み上げる感情があった。



「もう大丈夫か?」


「ああ、待ってたのか。大丈夫というか、こんなに急いでどうしたんだ?別に明日明後日でもいいだろうに」



いくらフレンドとレイドだからって、ゲーマーのこいつは一日インしているはずだ。


多少俺とログインの時間がズレたって、休みが二日もあれば、時間が合う瞬間は嫌でもあるはず。



「それに、セシリアさんまで連れてきて」



それが一番気になるところだ。


グレンは、俺とセシリアさんが知り合いだってことを知らなかったわけだし、尚更ここにセシリアさんを連れてくるのは謎である。



「まあ、まずは移動しようぜ」


「そうね」


「ちょっと待っ…はぁ」



ここで説明する気はないらしい。


仕方がないので、黙ってついていくことに。


日付が変わるまで、あと一時間ちょいか。


明日は休みとはいえ、日付が変わるまでにログアウト出来ることを祈ろう。






そしてところ変わって、路地裏の酒場『アーテル』。


ログイン初日に、グレンに連れられたあの酒場だ。



「オッちゃん、奥空いてる?」


「ああ、好きに使え」



グレンが金貨を投げ渡しながら問うと、酒場のオヤジが端的に答える。


え、なにそれカッコいい!!


ゲーム内通貨は、グレンが投げた金貨のように実体化出来るので、その仕様を使ったのだろう。


グレンはズカズカと暗い通路を進んでいくので、後に続きながら──。



「オヤジのおかげで師匠に会えたよ、恨むからな!」


「そりゃ、よかったな。死ぬなよ」


「なにそれ、怖いんだけど!?」



いや、ホントにやめてくれよ!


終焉って俺が終焉ってことなの!?ねぇ、そうなの!?


誰か違うって言ってくれよ!!



「ん?レン、お前オッちゃんと何かあったのか?」


「いや、ちょっとスキル構成について助言貰ったのと、情報をおまけしてもらっただけだよ」


「情報?」


「そりゃ、オヤジに聞いてくれ。情報屋のオヤジの前で、勝手に喋れねえよ」



肩を竦めるオヤジを横目にグレンに言う。



「情報屋なんて現地人がいたのね。グレン君は知ってたの?」


「いや、初耳ですよ…」



何故かグレンにため息をつかれてしまった。


解せぬ…。


そうして進んだ暗闇の先には一つの扉があり、中はこじんまりとした小部屋だった。



一つのテーブルを囲むように六脚の椅子があり、他には何もない。


外へ繋がっているのは、今し方入ってきた扉のみで、小窓も換気口さえないようだ。


息苦しそうな部屋だこと。



「密談するにはちょうどいいだろ?」


「たしかにそうだろうけど」



なんとも納得のいかない気持ちを抑えて、席に着く。


全員が一つずつ席を開けて座る形だ。



「それで、こんなところまで用意してするような話か、これ」


「お前は分かってないな。適当なところで世間話するように話したとして誰が聴いてるか分からないんだぞ?」


「ちょっといい?まだ私は何の話か聞いていないんだけど」



置いてけぼりになっていたセシリアさんが、会話に割って入ってくる。


グレンが話しているとばかり思ってたけど違うのか。



「そうだな、まず一つずつ話したいけど。レン、セシリアさんにさっきのメールのことについて話してもいいか?」


「いいも何も、お前話すつもりで連れてきてるんだろ。ここまで来て、何も話さずに帰れは通らないし、雑貨屋えびすは結構利用してるから、信用するよ」


「雑貨屋えびすは生産クランのトップっつっても過言じゃないから、信用していいぞ。俺が保証する」


「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。何の話かは分からないけど、生産職は信頼が大事だし、お姉さん約束は守るわよ」



ただ話すのはいいとして、何目的でセシリアさんを連れてきたんだろうか。


ちなみに、クランっていうのはプレイヤーがつくる組織のようなものだ。


同じ目的だったり、趣味だったり、活動の時間帯など、同志で集まりあうのがクラン。


パーティの規模が大きくなったバージョンとも言えるな。


人数的には、50人まで同じクランに所属できる。


まあ王都まで行かないと、クランの設立も出来ないし、クランに所属すら出来ないが。(柚子談)



「セシリアさんを連れてきたのはズバリ、生産職トップとしての意見を聞くためだ。生産職の知り合いは他にもいるけど、大人数抱えてるトップ生産クランのクランマスターなんて選択肢二つしかないからな」


「明日はレイド戦なのに、いきなり連れてこられて驚いたけど、面白い話聞けそうだから今回は許すわ」


「って、お前無理矢理連れてきたのか?」


「い、いや、それはレンが今にもログアウトしそうだったからで!!すみません…」


「もう、いいわよ。それで、どんな話なの?」



セシリアさんは本当に気にしてない、というかもう興味なさそうだ。


早く本題が聞きたいとばかりに、先を急かしている。



「レン、まずは俺から話すけどいいか?」


「説明してくれるなら、俺は楽だから」


「じゃあ、まずセシリアさんは派生属性について、何か知ってますか?」


「そうね…魔術スキルの先にあるのは確定だと思うわ。だって掲示板に書き込んだのって、うちのクラメンだもの」



学校でグレンが言ってた掲示板の情報は、どうやら雑貨屋えびすの誰かが書き込んだものらしい。



「ということは、図書館にその情報があることまでは省きますね」


「大丈夫よ」



そこで俺に視線を向けてくるグレン。


はぁ、出番が早いこって。早すぎるまである。



「えっと、何から話せばいいか…。まあ、結論から言うと、派生属性が判明したって話なんですが」


「それは…ソースは?そこまで断言するってことは、何か決定的な理由があるのでしょう?」



そこで一旦迷う。


魔石粉は、グレンの言葉を借りるならば、俺のアドバンテージだ。


そして、この話を進める上で魔石粉の存在は必要不可欠と言えるだろう。


いや、アドバンテージといっても、これで商売出来るルートがあるわけでもないし、しようとも思ってない。


もし魔石粉で金策しようと思っても、それは雑貨屋えびすに持っていくことになるだろうから、迷う必要はないのかもしれないな。



「魔石粉、というアイテムは知ってますか?」


「俺は知らないな」



ガッツリ戦闘職のグレンは知らなくても仕方ないだろう。



「魔石を砕いたら出来るアレよね?特に使い道が見つかってないし、魔石の方が使い道があるから、生産職でも知らない人は多いと思うわ」


「それです」



グレンの言う通り、生産職トップっていうのは嘘でもなんでもないらしい。


疑ってたわけじゃないけど、少しでも迷ってたのが馬鹿みたいだ。


ただ、魔石粉の使い道については知らないらしい。


あれは、図書館の司書に魔術関連の本を集めてもらってる時に、司書NPCの口から出た情報だったからな。


ということは、ここに俺のアドバンテージを残す道が生まれたわけだ。


アドバンテージに固執するわけではないが、必要なことは話すが、必要じゃないことまで話す必要はないだろう。


ストレージから、魔石粉各種をテーブルの上に並べていく。


無属性、基本属性六種、派生属性七種で、計十四種だ。



「鑑定してもいいかしら?」


「ええ、どうぞ」



所有権が自分にないアイテムの詳細は見ることができないのがMLの仕様だ。


例外として、取り引き画面では設定次第で性能を相手に見せることが出来るが、それ以外では【鑑定】スキルというものがある。


初期取得可能スキルの一つで、自分の所有物でないアイテムなどの詳細を見ることが出来るようになるスキルだ。


戦闘職だと、盗賊(シーフ)系のプレイヤーに重宝されがちなスキルだが、それ以上に生産職は商売をする関係上、あると便利なスキルになっている。


ちなみに【鑑定】スキルは他者のステータスを覗けるスキルではない。


師匠や、情報屋のオヤジ、領主館の門番みたく、ステータスを覗けるのは、【鑑定】の上位スキルか何かを持っているのだろう。


話が逸れた。



「どうです、セシリアさん?」



戦闘職でも、盾持ち片手剣士のグレンは鑑定スキルを持っていないらしく、セシリアさんに尋ねている。



「基本属性はともかく、こっちの七つは知らない属性なのは確かね。溶、霧、灼、樹、氷、雷、空間…空間は荒れるでしょうね」


「レンのメール内容と同じだな。空間属性は、プレイヤーが転移魔術を使える可能性に直結しますからね」



二人の会話を聞いていると、浮かれ気味だった心が、打って変わって少し薄寒くすら感じてきた。


俺がもたらした情報で荒れる?


いや、よく考えずとも分かることだ。


今日の昼に話したことを忘れるくらいには浮かれてたということだろう。


掲示板というのは匿名であるがゆえに、常識のタガが外れやすい。


だから、無闇にそういう問題が起こる可能性を潰すために、グレンはこの場所を選んだのだろう。


俺は内心でグレンに感謝しつつ、話の行方を見守った。


※済

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