165/日
現在【運命の輪】唯一のテイマーである秋月君の結果を待つ間、雑談タイムになっていた。
「しかし、またとんでもないことを思いつくもんじゃのう…」
「成功してしまえば、更に他のプレイヤーへの機密事項が増えてしまいますね」
「源泉については、手探りだって情報公開渋ってきたじゃんね」
「今回の件は既に機密事項でごわす」
既に一つ検証結果としては上がっていた。
源泉に所属させたテイムモンスターが、テイマーが別の町にいる状態で、源泉周囲フィールドのモンスターを狩ると、プレイヤーに経験値は還元されるのか。
答えはYESだった。
何故先にこの検証が必要だったかについてだが、そもそも源泉に所属させたテイムモンスターが狩った経験値が還元されない可能性と、離れた場所にいると還元されない可能性があったからだ。
だが、もう一つの検証が失敗に終わったとしても、これが成功してしまったのなら、バレてしまえば普通に荒れるだろうな。
なんてったって、普段の冒険中に、自分と源泉に所属させたテイムモンスターで経験値の二重取得が可能と証明されたのだから。
じゃがバタさんが機密だと言っているのはそのことだ。
MLの経験値ゲージは数字表記ではなくゲージ表記なので、細かい数字はマスクデータだが、確認前と確認後でスクショ取って見比べるくらいのことは出来る。
まあ、一、二体だと取得経験値もそれなりで分かりづらかったらしく、そこそこの戦闘を熟させる必要があったみたいだけど。
ちなみに、他のクランメンバーがその辺からモンスターをトレインして無理矢理引っ張ってきてテイムモンスターにぶつけたらしいが、普段なら立派な迷惑行為のトレインも、合意の上の検証の為ならば、文句を言う輩はここには居ないのでセーフだよな!
あとは今検証中のログアウト中にも経験値は還元されるのかが判明すれば、検証事項は概ね終了だ。
「どうする?あと一時間、約束通り精霊宮殿に連れてってもいいけど」
「そうじゃな。余った時間は有効活用するに限るよの」
「秋月も行きたいんじゃないかなっ?」
「別に一回限りじゃないし、明日でも明後日でも時間が合う時にまた連れて行くよ」
もう精霊界について暴露してしまった以上、足を引っ張るのは移動手段だけだ。
妖精の輪の制限が一日三回だから、今日もう一度ってのは無理だが、希望者はまた後日ってことで。
今日は幹部メンバーを連れて行こう。
あー、転移魔術覚えたら、フェアリーズに頼らなくても空間創造経由で行き来できるかもしれないのに…。
キャラレベルだけじゃなくて、スキル熟練度も稼がないとな。
「そうだった。今からやることも源泉関連と同じくらい機密事項だから、他言無用で頼む」
一応釘を刺しておいたが、まあ心配はないだろう。
「フェアリーズ、精霊宮殿にゲート頼んだ!」
「「「あいあい!!」」」
この部屋、集会の間というだけあって、そこそこの広さがあってよかった。
もっと手狭な部屋だったら、場所を移してフェアリーズを呼び出すことになってたからな。
「直接妖精ちゃん見たのは会見かな〜」
「間近で見ると、ホンマちんまいわ」
「ゲートでありますか?」
心夜さんの疑問に答えるよりも、見てもらった方が早いな。
「「「『妖精の輪』!!」」」
「『ワープゲート』!」
「さっ、この先が精霊界に繋がってるんで、行きますか」
促してみるが、精霊宮殿の中庭を映すワープゲートを凝視して、誰も動こうとしない。
「…このスキルはどんな制限があるのかの?」
「制限か…。妖精の輪と併用してじゃないと使えないから、日に三度だけしか使えない。制限らしい制限はそれくらいだな」
「行ける場所だったり、人数制限はどうなのじゃ?」
「人数制限は今のところないな。フェアリーズが全員潜っても問題ないのは試し済みだ。行ける場所は、取り敢えず俺とフェアリーズが行ったことがある場所なら、町じゃなくても何処でも転移可能で…」
言わなくてもいい気がしたが伝えておくか。
どうせ【運命の輪】の誰かが試そうとして失敗するだろうし、早いか遅いかの違いでしかない。
「普通の転移系スキルや魔術じゃ不可能な、異界間転移が可能な、俺が持つ唯一の転移手段だな。だから、フォルトゥナ達が転移系スキルを使っても、この後精霊界から死に戻り以外で戻ってくるのも無理だし、俺無しで後日精霊界に行くのも無理だと思う」
そもそも源泉を転移場所に選ぶこと自体が、現在見つかってる転移手段では無理なんだけどな。
ワープゲート以外の転移手段は、基本的に町のような目印に対して発動しなければいけないのだが、源泉を目印にするには、そこに所属しない限り無理なのだ。
そういう意味でもワープゲートは特別だった。
日に三度。一度訪れた場所なら何処へでも行ける。異界間転移が可能。人数制限無し。閉じるまでは行き来も可能。
「これはまたとんでもない秘密を…。もしかして、聖女を攫ったスキルもこれですか?」
「閃光スキル使った甲斐があったかな。ローリエさんの想像通り、これ使ってマリアを攫…攫うって言い方、他の人に言われるとなんかやだな」
一応掲示板と配信のコメント欄見返して、あの時他のプレイヤーにワープゲートの存在がバレないように講じた物理的一工夫が成功していたのは確認したのだが、こうして直接確認出来たし安心して大丈夫そうだな。
映像は閃光スキルで、フェアリーズの発動句は俺が大声で叫ぶことでの脳筋作戦だったが、案外下手な策を弄するより原始的な方が上手くいくのかもしれない。
「これ、転移先の景色を映してるなら、斥候の役にも立ちそうじゃん?」
「言われてみれば確かに」
まさかそんな利点があったとは。
とはいえ、回数制限がある以上は、あまり派生的な使い方をする余裕はなさそうだけど。
「ふふふっ、師匠さんの神出鬼没の謎が解明されたわね」
「会見では他の情報全部を隠れ蓑にした秘蔵の情報だからな。くれぐれも内密に頼むぞ」
「そんなことをして、報復に源泉の情報を暴露して精霊界に篭られても困るからの。妾達も安易に吹聴できることではないのぅ」
本当なら手放しの信頼をしたいところだが、あまりにお互いがお互いのことを知らないからな。
利害の信頼の方が今は安心出来る。
「では、いつも通り私が先陣を切るでごわす」
「うむ、任せたのじゃ」
別に危険は特にないが、VIT極振りのじゃがバタさんがまず安全を確認するというのが、クラン内での役回りなのだろう。
「おや?」
「あれ?」
だが、ここで想定外の事態が起こる。
じゃがバタさんがゲートを素通りしてしまったのだ。
ゲートは確実にそこにある。じゃがバタさんがゲートと重なった瞬間もこの目で確認した。
なのに何故か、じゃがバタさんは精霊界には行かず、ただゲートの前から後ろに通り過ぎただけ。
これまで何度も自分自身で体験してきたことを考えれば、明らかな異常事態。
「坊やも不思議そうじゃの」
「ああ、こんなこと今まで一度も無かった…」
「じゃあ、今度は僕が試すよっ!」
精霊界に最初に行きたがったすた君が挑戦するようだ。
何故だ、何が原因なんだ?
もしかして、便利過ぎるからってワープゲートにまで制限かけられちゃったのか?
運営さんよぉ、スナイプナーフ酷過ぎるぞ!




