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161/日


これから会う約束をしているのは、とある攻略クランだ。


昨日の配信を観ていた攻略組はそこそこ居たらしく、皆フレンドコールは自重してくれたのか、代わりに大量のメールが届いていた。


ユズやセシリアさん、マルシェさんにも苦言を呈されたので、一部の付き合いがあるプレイヤーだけ個別に、迷惑メール設定を解除したのだが、それでも大量に押し寄せたメール群は軽く狂気だ。


しかし、その中にあって異彩を放っていたラブレターがあった。


勿論だが、俺に漸く訪れた春というわけではなく、とあるスキルについて。


メールの一文にはこう綴られていた。


何でもする。


そんなエ◯同人みたいな文言を添えられてまで、そのスキルは熱烈に望まれていた。


多分、彼女が欲しがっている系統のスキルではないが、この情報で俺が望む情報が手に入るのであれば安いものだ。


俺のフレンドの攻略組からは軒並みメールが届いていたと言っていい。


その中で彼女らを情報交換相手に選んだのは、エ◯い意味ではなく何でもするという、情報を引き出しやすそうな条件に加えて、俺が今回欲しい情報は知っている限り、このクランと俺しか知り得ない情報だからだ。



「待たせてしまったかのぅ」


「いや、そこまで待ってないよ」


「お互い、急いているようじゃな」



そう言って扇子で口元を隠しながら笑うのは、桃色髪を御団子にしたチャイナ服の少女。


まだ約束の時間から三十分は早い。


彼女は攻略クラン【運命の輪ホイール・オブ・フォーチュン】のクランマスター、フォルトゥナだ。



「では、早速妾達のクランホームに案内しようかの。着いて参れ」



スタスタと歩くフォルトゥナの後に続く。


宿場町グレディは、俺が訪れた中で最も規模が小さい町だ。


交通の要所というわけでもなく、珍しい特産品があるわけでもない。観光名所があるのかと言われれば特に無いし、あるのはプリムスと王都セントラリスを結ぶ宿場町という役目だけだった。


なので、プレイヤーの数は殆ど皆無と言っていいほどに閑散としている。


転移装置の影響で、国外でもなければ一度訪れれば簡単に長距離移動が出来てしまうので、訪れる意味の薄いグレディにプレイヤーは寄りつかない。


過疎を極めたような町、それが今のグレディだった。


これも第二陣が来れば改善されるのだろうか。


とはいえ、それも一時凌ぎに過ぎないだろうけどな。


北門を出た所で立ち止まったフォルトゥナが振り返る。



「『守護獣召喚:アマル』!ここからはアマルに乗って空の旅じゃ。一応聞くが、高所恐怖症だったりはしないじゃろ?」


「山羊、だよな…飛べるのか?」


「安心して良いぞ。スカイゴートというただの空飛ぶ山羊じゃ」



まあ、うん。普通の山羊の三倍はデカいけど、ただの山羊だ。空飛ぶけどな。


モンスターが大概ファンタジーしてるのは今更か。


気にするほどのことじゃない。途中で墜落しないなら…。


それに見るからにもっふもふしてて、あれに顔を埋めたらさぞ天国を味わえることだろう。


もふもふ信者ではない俺でも、その魅力が理解できるのだ。モフ教信者ならば咽び泣いて発狂すること間違い無しだな!



「ほれ、手を掴むのじゃ」


「ああ、ありがとう」


「落ちぬよう、しっかり捕まっておくことじゃ!」


「いや、どこに!?」


「何をしておる、さっさと捕まらぬか!」



まさか年下の少女の腰に捕まるわけにもいかず、しどろもどろにあたふたしていると、さっと俺の手を取ったフォルトゥナが、自分の腰へと俺の手を誘導した。


男前です、フォルトゥナさん…。



「うむ、アマル!目指せ我らがクランホーム、豊穣閣じゃ!」



こんなに女の子と距離が近いのって、テューラにお姫様抱っこされた時以来かも。


別に邪な気持ちがあるわけではないが、ハラスメント警告出なくてよかった…。





グレディの周囲は、プリムスと同じように草原に囲まれており、壁外の景色だけならプリムスと大差なかったが、進むにつれて徐々に荒廃とし始めていた。


そんな景色の違いに構わず軽快に空を駆ける山羊に跨って移動していると、ゴポゴポと人体に悪影響しか及ぼさないような緑の沼が見えてきた。


毒沼の周囲は見間違えようもなく、草木は枯れ果てて、靡く新緑は見る影もない。


一応水は緑だけどな。



「緑毒底なし沼、うちの神官でも一秒と持たず状態異常に陥る屈指の危険スポットじゃな。特に状態異常に強いメンバーが言うには、飲むとピリッと辛くて癖になるそうじゃが、ドラゴンが蒸発したという伝承があるみたいじゃから、真似するなら自己責任じゃぞ」


「よくあんなのを飲もうと思ったな」


「最初は過激になった罰ゲームの一環だったんじゃがのぅ。最近では、朝の一杯などと抜かしておるよ…」


「青汁か!」


「くくっ、みな同じ反応をしよる」



うん。


俺がクランに入る可能性がまた一歩遠のいたぞ!


あれを罰ゲームで飲まされるのがクランなら、俺はこのままソロで大丈夫です。



「ここまで来れば、もうすぐそこじゃ」



緑が復活している。


沼に流れ込む川もそうなのだが、それよりも沼の毒にやられたらしい草木が、川の側にも生えているのだ。


なかなかに生命力の強い植物が群生してるっぽいな。


いや、生命力なんて言葉で片付けていい問題なのかは分からないが。


しかし、あの沼の次のフィールドとは思えないほどの絶景だ。



「妙明の酸川渓谷じゃ。綺麗じゃろ?」


「ああ。フィールド名が不穏じゃなくて、川が発光せず、その水が毒じゃなかったら、素直にまた来たいと思えるくらいには」


「坊やの言う通りじゃな」



心底おかしそうに笑いを噛み殺しているが、この絶景を相殺して余りある異常を兼ね備えているのが眼前の景色だった。


確かに見方を変えれば美しい緑に発光している川も、あの毒沼の源泉だと考えると、途端に立ち入り禁止エリアに早替わりだ。


仙郷と見紛うほどの大渓谷は、生えてる植物があの毒に耐えている点を除けば、桃源郷と表現したくなるほどに浮世離れしている。


まあどちらにしろ、全てを台無しにする穢れが、ここを絶対にユートピアにはさせないと獅子奮迅の大活躍を見せていることには、色々な意味で涙を禁じ得ないよ。


この流れる涙が蒸発した毒で目をやられた結果じゃないことを祈るばかりだな。


たしか昔トモに聞かされた知識だと、仙郷ってのは俗世から離れた静かで清浄な場所、仙人が住む場所って意味があるそうだ。


毒を内包している景色を清浄と言い張るのはちょっと無理があると思う。



「あそこじゃな、着いたぞ!」


「おお…こんな場所によくあんなものを…」



セントルムの王城、精霊宮殿、ヴェルム神聖国の大聖堂と、この世界でも色々と大型建築は観てきたが、どれも共通して視界を圧倒するような建物だった。


【運命の輪】のクランホームは、それらと遜色なく荘厳な建物だが、建築様式はまるで違っていて、言葉として適当かは分からないが、中国様式の赤と金を基調とした楼閣といったところだろうか。



「お陰で万年零細クランでのぅ、今日の情報料は少し負けてくれると助かるの」


「足元見たりはしないから安心してくれ」


「それは何よりじゃな」



本人も冗談だったのだろう。


とはいえ、安心して欲しい。


俺が欲しいのは金銭じゃなくて、ただの情報だからな。


まあ、場合によってはクランの機密情報の可能性はあるから、向こうにとってどっちが有り難いのかは分からないけども。


一瞬ゴールデンウィークSSでも書こうか迷ったんですけど…。

そういえば、作中のGW期間は闘技大会で、主人公って殆ど町中に篭ってたなって。


作者のゴールデンウィーク中の予定は、ずっと雨っぽいので、大人しく続き書いておきますw


あっ、聞いてないですよね…うっす。

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