158/土
まず第一に、マリアをずっと精霊界に隠遁生活させておくのなら、何も問題は生まれない。
だが、思わぬ助っ人が現れたことにより、神聖国側は何も心配せずに済みそうである。
結局のところ、偽神降誕を使って何をしようとしていたのかはまだ分かってないが、それでも神聖国が絶対中立を掲げざるを得ない理由の一つである祝福の儀の最中に問題を起こしたのだから、神至上主義派がなんちゃら罪に問われることは必死だろう。
あれ、待てよ?
祝福の儀で問題を起こしたのって俺も同じなのでは?というか、俺達が真っ先に聖女を拉致ったせいでこうなっているのでは?
うん、今は余計なことは考えないでおこう。
これまで何度も問題の棚上げで痛い目を見てきたが、今すぐどうにか出来るような問題じゃないから仕方がないんです!
話を戻そう。
この騒動が治った後、問題になるのは帝国の動きに集約される。
天野川達が聖女を諦めるのか、帝国が神聖国への介入を続けるのか、戦争に発展するのかさえ、帝国の指先一つということになる。
だから必要なのは帝国サイドの説得、という名の脅しだ。
っていう思惑の裏に、真の目的たるプレイヤーの説得が隠れていたりする。
率直に言って、帝国なんかよりもプレイヤーの動向の方が百倍大事だ。
変にミスって大多数のプレイヤーが帝国側に味方してしまうと、大変厄介なことになるからな。
「勇者天野川様、そしてヴィクトリア帝国第六皇女ロンディーネ様、御提案が御座います」
「れっ」
何か言おうとした天野川を手で制すると、皇女様が一歩前に進み出た。
「伺いましょう」
「可憐で儚く、世界の為を想うが故に自らを犠牲にしようとした聖女マリア様を利用し、見殺しにしてまで力を求めようとしたことは認めてくださいますか?」
「ええ。聖女様当人からの打診を受けて、それが世界の為になるならばと、お受けすることになりました」
「飽くまでも世界の為、と」
「勿論です」
まあいい。
こんな同じ話を繰り返すように問うているのは、配信を見ているプレイヤーに状況を伝える為だ。
マリアが可愛いのは事実で、配信を観ていたプレイヤーもそれは知っている。
どんな理由であれ、あの人類の宝を見殺しにするなんて!と、プレイヤーの一部でも誘導されてくれれば御の字だ。
「まあ、世界を救うためとはいえ、勇者様が聖女様の命を蔑ろにしようとしたことはこの際置いておきましょう。では、それをお認めになるということは、今回の騒動にはヴィクトリア帝国も一枚噛んでいる、という認識でよろしいですね?」
「それは捉え方によるでしょう。今回の騒動は、私達ではなく、レンテさんが聖女様を攫ったことに起因しますよね?私達は巻き込まれた先で、訳も分からずヴェルム神聖国の聖騎士に取り囲まれ、仕方なく自衛したに過ぎません」
「なるほどなるほど」
簡単にボロは出さないどころか、反撃までしてくるとは。
さすが皇女、一介の高校生では分が悪い。
「逆にお聞きしたいのですが、世界の危機が訪れると知っておきながら、何故無策で我々の邪魔をしようというのですか?」
「それは勿論、ご高名な勇者様が、女の子一人守れない軟弱野郎な癖に、一丁前に過分な力を授かっても対応できるとは思えないからですよ」
「随分な物言いですね」
悔しそうに顔を歪ませる天野川だが、此方に食って掛かってくる様子はない。
これ以上煽っても、暴走してボロを出したりしそうにないな。
こっち方面から天野川から攻めるのは無理か。
「世界の危機とは、聖女様が持つエクストラスキル【未来視】によって齎された不可避の未来の話ですよね。あー、確かエクストラスキルは、【終焉】や【賢者】みたいな、世界に唯一人しか所持を許されない特別なスキル、でしたか」
「さっきから何を…」
エクストラスキルはシークレットには引っ掛かっていなかった筈だ。
ただヘルプなりで情報開示がされなかっただけで、あの時はユニークスキルも情報開示されてなかったからな。
だから、この情報はプレイヤーに開示してしまっても問題ない!
説明口調が酷すぎて、流石に怪しまれているが、無視だ無視。
種明かしを先延ばして、強引に話を進めさせてもらうぞ。
「つまり現状を纏めると、世界の危機を視てしまった悲劇の聖女様は、未来を憂いて自らを贄にすることで、禁呪の力を勇者に授けようとした」
「…何が言いたいのでしょう」
「いえ、実に短絡的だと思いまして。勇者様も、ヴィクトリア帝国も、そして聖女様も…」
これはずっと思っている本心だ。
未来を視るなんていう破格の能力を有しておきながら、何故素直に死を選ぼうとするのか。
生きてさえいれば、違う未来が映るかもしれないのに。
いや、違うな。
生きていても変わらないと、未来視スキル所有者だからこそ理解しているのかもしれない。
そして、その尊い決断はきっと立派なものなのだろう。誰にも馬鹿にされていいようなことじゃない。
だけど、その俺には不可能な覚悟と、理解出来ない決断が、納得することを拒絶している。
もっと自分と周りを大切にしろよ、と思ってしまう。
「そんなことをせずとも、もっと確実に効果がある方法があるというのに。本当に世界を救う為だけに帝国が今回の騒動に加担しているのだとすれば、実に愚かだと言わざるを得ません」
「…ほう。それが何か」
「そんな方法があるというのかい?もしくだらない妄言を吐くようだったら、僕は君を廃人にしてでも聖女マリアの居場所を吐かせることになる」
「おお、怖い」
勇者とは思えない発言だね。
思わず、といった危機迫る様相で割り込んできた天野川の様子を見るに、安い挑発よりも余程こっちの方が効果があったようだ。
でもまだだ。
この場で勇者にのみクリーンヒットする手札、そしてプレイヤーの目と耳を釘付けにするとっておきがあるのだから。
「でも、勇者様は少し勘違いをしておられませんか?何故、世界の危機を救うのに全て一人で立ち向かおうとするのですか?皆で協力すればいいのに」
「僕にまた、戦場で仲間を失えと言っているのかい?歌恋が死んだ時のように…?」
歌恋?誰だ?
もしかして、勇者の中に内包する闇の原因だろうか。
とはいえ、仲間の命を失いたくないから、他人だったら良いと言っているのだが、コイツ自分の言葉を理解してるのか?
「そうではありません。聖女様が仰っていたことを覚えていますか。聖女様が憂いた未来に、勇者様以外の異邦の旅人はいなかった、と」
「そういえば、君もそうだったね」
「ええ。しかし異邦の旅人は…」
これが本日最大級の爆弾だ。
ほら、受け取れ勇者様!
そして耳の穴かっぽじって聞いておけ、プレイヤー諸君!
「いえ、違いますね。マグナリベルタスというゲームを介してこの世界に訪れているプレイヤーは、俺だけじゃない」
「なっ!?」
これが最大の切り札だ!
NPC相手にお前はAIだと言い募る、このゲームのタブー。
だが、天野川が異邦の旅人で、出身が日本と言うならば、この選択は必ずしも悪い方向に転ぶとは限らない、と思っている。
まあ、天野川だからこそ、俺の言っていることを正しく理解するからこそ、バグってしまう可能性はあるかもしれない。
だが、こんなNPCを用意しておいて、バグで済ませるような運営ではないと俺は信じている!
「…つまり、僕はどこかの誰かが創り出した人工知能で、機械がピコピコと明滅を繰り返すだけの存在だと、おはようと話しかけられて、村人が「やあ。始まりの村へようこそ」と繰り返すだけのNPCだと、君はそう言いたいのかい?」
さあ、考えろレンテ!
勇者を納得させ、思考をバグらせない為の言葉を選択しろ!
全てはお前の次の返答に掛かってるぞ!
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