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152/土


盛大に脱線していた話が軌道修正される。



「予想外なことはあったけど、話を戻そう」


「帝国はいつでもレンテさんを歓迎しますよ」



残念!今のところ帝国の土を踏む予定すらありません!


下手に話に乗ってしまえば、監禁ENDなんてことにもなりそうだしな。



「千変馴化の能力は分かってもらえたと思うけど、僕はこの国に祝福の儀を受けに来たのとは別に、このスキルにとあるバフを追加する為に来たんだ」



まさか…。



「偽神降誕か」


「猊下、勇者様が人類の希望である為に必要なことなのです。どうか、どうか何も言わずにお許し頂けないでしょうか」



教皇の呟きに、聖女マリアが嘆願する。


俺達に邪魔をするなと言いたいのだろう。



「つまり今回の騒動は、その為に引き起こされたと?」


「いえ、断じてそのようなことはございません。担ぎ上げられた御輿とはいえ、私はヴェルム神聖国の聖女です。偽神降誕では我らが神の足元にも及ばないことなど理解しているつもりでございます」


「全てイェレミエルの策略だと言いたいのか」


「理解しているのはイェレミエルも変わらないでしょうが、配下にそう行動させている以上、何か別の思惑があるのは確かでしょう。私が計画に気づいた時には、既に避けられないところまで来ていました。ならば、万に一つ勇者の器ならば神の力の一端に耐えられるかもしれないと、そして彼ならばその後にも役立てると愚考したのです」



よく分からんが、ルクシア曰く聖女は良い子らしいからな。


この話を教皇が信じるのかどうかはともかく、もうイェレミエルの野郎を磔にしたら済む話なんじゃないかな。


それに偽神降誕って、こんな策略渦巻く最中に登録する必要あるのか?


他の機会に改めて、安全に登録させてあげればよくね、と猿の脳みそで考える。


そんな想いが顔に出ていたのか、聖女様が捕捉してくれた。



「レンテ様、神聖国の聖女と帝国の勇者が表立って協力できるほど、今の両国の関係は良好とは言えないのです。何か理由がなければ、偶発的な事件の最中の出来事でもなければ、収まりをつけられない人達が居るのは、残念ながら事実ですから…」


「あー、説明してくれたことは感謝しますけど、レンテ様はやめてくれません?」


「ルクシア様の友だと聞き及んでおります。その…表立って言える立場ではありませんが、私はルクシア様と仲睦まじい貴方がとても羨ましいです。そして、尊敬するルクシア様が友だと仰るのなら、私は貴方に敬意を惜しみません」


「言い方が語弊を生む気がするけど、まあいいや。ルクシア心配してましたよ?」


「それは…申し開きのしようもござません。出来ればルクシア様にも謝罪をお伝えして頂けると嬉しいです」


「無理ですね。そういうのは生きて自分で伝えないと駄目ですよ。偉い人も言ってました」



誰の言葉か知らないし、どこかで聞いたことがある程度の朧げな記憶の偉人の有り難いお言葉だ、多分。


大体こういう時って元ネタがアニメだった場合多いよな!経験則だけど、今回はどうだろ。


そんな、どうでもいい思考を追い払う。


ここで見殺しにするような発言をしたとルクシアに知られれば、一生口を聞いてもらえなくなるかもしれないしな。


多分、この聖女様自分を犠牲にしてでも勇者πに力を与えようとしているのだろう。


なんだ、聖女ってのは自己犠牲の上で成り立ってんのか?ってくらい覚悟ガンギマリだ。


正直狂ってるよ。


まあ、狂ってるって意味ではテューラと同じだな。


聖女スキルの獲得条件の一つはきっと、狂ってることなんだろうな!



「マリアさん、死ぬつもりでしょう?」


「…何のことでしょうか」


「どういうことだい、レンテ君?」



なんか勇者πが割り込んできたが、お前の優しさに免じて説明してしんぜよう。



「風と勇壮の女神様から伺いましたが、偽神降誕の禁呪発動には多大な負荷が掛かるそうです。術者は良くて廃人、最悪消滅すると。だから敵の計画には…、その負荷を軽減する為に勇者を利用する可能性が高いと、そう仰っていました」



最後まで言うか迷ったが、言ってしまうことにした。


変に気を遣って隠し事をする段階ではない。



「それは…本当なのかい?」


「そう、ですね。レンテ様が言うとおり、私一人では発動に耐えられないでしょう。そして本来の計画では勇者様を利用しようとしているのも事実です。しかし、私のもう一つのユニークスキル【幸福】を使えば、負荷を分散出来ます。イェレミエルは私を使い潰す程愚かではありません、私には利用価値が高いですから」


「それを踏まえた上で、風と勇壮の女神様は貴方には荷が重いと言ったのだと思いますが」



ミドリ様が聖女マリアのユニークスキルを知らないとは思えない。


禁呪は集団発動が当たり前のものと言っていた。


しかし、あの時槍玉に上がったのは術者の聖女のみ。


もしかしたら、集団発動した上でも中核となる術者へのリスクは変わらないか、他とは比べ物にならないんじゃなかろうか。



「私の幸福は、自身の持つスキルを他者に使わせることが可能です。そしてその能力で、聖女スキルを渡すことにより、本来ならば集団発動では軽減しきれない、術者への負担を等分出来るのです。そして現状幸福でスキルを渡すことが可能な人数は最大5人、つまり負担を五等分できるのです」


「いや、だから」


「レンテ様、必要なことなのです」



理解出来ない。


どうしてここまで頑なに、自分を犠牲にしてまで勇者に力を与えようとするのか。


ミドリ様は今マリアが言ったことを全て理解した上で、今のマリアでは無理だと語ったのだ。


だからこれは、俺への弁明ではなく、当事者である勇者πの説得なんだろう。


余計なこと話すんじゃねぇってか?


くそっ、俺の本当の敵はイェレミエルなんかじゃなくて、この聖女様だぞ。


この頑固な信念に狂った聖女は、このままだと絶対にルクシアを泣かせる!



「何故そこまでして勇者に力を与えたいのか伺っても?貴女はどんな未来を見据えて、いや何が見えているんですか?」


「勇者様、貴方はいずれ世界の命運を懸けた戦いへと赴くことになるでしょう。その時にきっとこの力が必要になります。ですから、今はどうか躊躇いませぬよう…」


俺の質問を勇者に答える聖女。


きっと負荷の軽減だって、自分の為ではなく勇者の為だ。


真実はミドリ様あたりに尋ねるしかないが、聖女よりも勇者の方が神の力に耐性があるのかもしれない。



「そう、なんだね。僕は貴方の献身を決して忘れないよ」


「ありがとうございます」


「…はぁ?」



呆気に取られて、素っ頓狂な声が漏れてしまう。


今この優男はなんと言ったのか。


聞き間違えか?


何か精神系の魔術にでも操られているのか?



「レンテ君、僕はこの世界のことを理解しているつもりだよ。僕が勇者である意味も。この世界は理不尽で、不条理で、どうしようもないほどに悲劇に満ち溢れている。僕は勇者だ、世界の為に必要ならば、嘆くのは全てが終わった後にしか許されない」


「その為に女の子一人泣かせていいと?」


「僕はまだまだ全てを救えるほど強くない。全ては僕が不甲斐ないせいだ。何もかも終わった時に、君が僕を恨んでいたのなら、喜んで僕はこの首を君に捧げよう」



…一体何を見てきたら、現代日本でぬくぬく育った人間がこんな考え方になるってんだよ。



「もうこの際関係ないだろうから正直に話すけどな、俺がこの場にいるのは勇者様を守れと依頼を受けたからだ。その見返りは聖女マリア、貴女の安全です」


「それは」



悪いが聖女様の言葉を遮ってでも続きを喋らせてもらう。



「でも、俺の偽りない本音は、この国の情勢も、世界の命運も、聖女マリアの安全すらどうでもいい。ただ、ただルクシアが悲しんでいたんだよ!俺に無力化される程度の勇者様が世界を救う?馬鹿も休み休み言え。マリア、お前がルクシアの隣で笑ってくれるのなら、俺が魔王だって、邪神だって、何だって倒してやるよ!だからせめて、献身に狂わないでくれ…」



一息で感情を全て吐露してしまった俺への返答はない。


沈黙だけがこの場を支配し、重い空気が漂っている。


何が勇者だ、クソ喰らえ。



「…レンテ様では駄目なのです。貴方はあの絶望の檻の中にはいない…」


「どういう…グランベル猊下!」


この頑固者は俺一人で説得出来るような柔軟さを持ち合わせていない。


援軍が必要だと、教皇へ投げ掛ける。



未来(さき)を視たのだな?」


「はい。スキルの制約で詳細は話せませんが、確かに。そして、レンテ様だけでなく、その場には私もいませんでした」


「レンテ、此奴は【未来視】というエクストラスキルを持っておるのだ。能力は字のまま、未来を視る。足掻くことでその結末を変えるのが可能なことは稀にある。だが、どれだけ事象そのものを回避しようと努力しても、その場面を迎えることだけは避けられん。何をしても、な」



まさかの援軍の裏切りに唖然としてしまう。



「私の妻はな、先代の【未来視】所持者だった。今でも夢に見る、妻に先立たれたあの瞬間、あの希望の光など届かぬ暗澹たる闇を」


「それは…お悔やみ申し上げますが、だからと言ってその悲劇を繰り返そうとするのは間違っているでしょう!」


「ああ。だから私は静観しよう。お前の気持ちも、マリアの覚悟も理解出来る故な」



本気で言ってるのか?



「だが出来ることならば、どうかマリアを救ってやってくれ」



世界の命運とマリアの命、過去の経験からくる信用と感情の板挟みなのだろうが、ただの昼行灯かよ!


その姿に囚われることなく感じさせた威厳はどこに置いてきたんだ!


そんな教皇への無意味な罵倒が頭を埋め尽くすが、教皇には俺では到底及ばない深い葛藤があるのかもしれない。


硬く結ばれた拳は、普段何に於いても余裕を滲ませていた教皇らしくない。



「…一つ確認したい。その未来視で見えた場面とやらに、リュウセイ以外の異邦の旅人はいたのか?」


「制約上詳しくは申せませんが、その場にいた異邦の旅人は勇者様お一人です」


「そうか」



じゃあ、決まりだ。


世界も救って、聖女も救って、ルクシアが笑って。


そんなハッピーエンドを迎えてもいいじゃないか!



「絶対に助けてやるよ、聖女様」


「貴方だけは敵に回してはならないというのに…。どうか、今一度考え直しては頂けませんか?」



だろうな!


俺が勇者と聖女の敵に回るということは、いくら偽神降誕を千変馴化スキルに登録しようとも、無効化される可能性があるってことだもんな!


その可能性を危惧するのなら大人しく諦めてろ、本物の聖女!



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