148/金
お金いっぱい払うからウチの息子を何卒!!
勇者を守る、と言葉にするのは容易いが、実際問題俺のスキルもステータスも守りを得意とするわけではない。
寧ろ、守られる側の魔術士だしな。
「シルフのお陰で、俺単体じゃなくて、共鳴同化でみんなも護衛に参加できるかもしれないとはいえ、何かの拍子に俺一人になるかもしれないし…」
そうなった時に、少しでも時間を稼ぐ手立ては欲しい。
昨日はそれも考えて熟練度稼ぎに精を出したが、今あるものを急拵えに伸ばしても、結局は守りの手段にはなり得ない。
少し話は変わるが、最近やっとスキルの進化をプレイヤーが初めて行ったらしい。
何かないかとワールドアナウンスを遡っていたら見つけたもので、慌てて掲示板を覗いたら上を下への大騒ぎになっていた。
初めてその偉業を成し遂げたのは東郷。
どうやら、【剣術】スキルを【上級剣術】スキルに進化させたらしいのだが、未だ未解明な部分が多いながらも進化させる条件として、本来そのスキルだけでは成し得ない現象を起こす必要があるらしい。
なんとも曖昧だが、東郷の場合は、物理無効のレイスを刀の一振りだけで倒し切ったそうだ。
しかしそれだけならば、他のプレイヤーが達成していてもおかしくないわけで、東郷が成したのはそんな生易しいものではなく、剣術以外のスキルを全て控えに回して、剣術だけで自分より格上のモンスターに挑み続けていたそうな。
「アホだな、うん」
俺なら絶対に思いつかない凶行だ。
そもそもスキルの控えなんて、存在自体忘れてた機能だしな。
しかし、一般的にはそうでもないようで、スキルは数が多くなると育ちにくくなる傾向がある為、戦闘中に必要ない生産スキルなどは、こまめに控えに回すプレイヤーは少なくないそうだ。
それでも東郷みたいに極端なのはこれまで少なかったのだが、レベル上限まで上げたスキルだけをセットするという酔狂なプレイヤーは東郷以外に皆無だったのだ。
何せスキルを控えに回す理由は、熟練度稼ぎのためであり、レベル上限に至ってそれ以上熟練度を稼げないスキルを単体運用する意味はない。
と思われていたところに、この驚愕の情報だ。
騒がれてないわけがない。
「まあ、東郷みたいにスキルを全部控えに回す必要はないみたいだけど…」
その後の検証結果では、スキル毎に条件はそれぞれではあるが、他のスキルが対象スキルに影響を及ぼしていない状態というのが必要らしい。
これはパッシブの補助スキルですら引っ掛かるようで、実際には控えに回す必要がないようなスキルでも、対象スキル以外は控えに回す方が無難だとは書いてあったけどな。
例として、料理スキルを進化させようとしたプレイヤーが、剣術スキルの影響で進化できず、剣術スキルを控えに回したところ進化できるようになったそうだ。
プレイヤーはいつだってマスクデータと全面戦争だな!
「でも条件って本当にこれで正しいのか…?」
俺はスキルを進化させるのに、レベル上限のLV.50すら必要ないと思っていた。
これはきっと裏ルートなんだろうが、俺の予想が正しければ、スキルを控えに回す必要さえない。
理由は単純で、俺がそうだからだ。
お前はスキルの進化なんてさせてないだろうって?
確かにそこまで至っていないのは事実だが、恐らくワンクリックで進化できる状態にはある。
ただ、ちょっとSPという高い壁が俺を尻込みさせているだけで、そこにさえ目を瞑れば可能だろう。
かつて東郷とPvPさせられた時に取得可能になったスキルに、【魔力制御】【魔導砲】というものがある。
多分だがこれは、魔力制御は魔力操作の、魔導砲は魔力暴発の進化スキルだと思われ、取得するためのコストはSP50だ。
今ならどちらか一つなら取得可能なところが恐ろしい…。
称号【終焉の魔女の弟子】の効果が及んでいるのかは分からないが、暴利を貪る気満々のこの二つのスキルは、同じことを言うが東郷とのPvP後だった。
つまり、他のスキルを併用していたわけだ。
なので、スキルを進化させる暫定条件は、他のスキルの影響を受けずに特定行動を起こすこと。スキルレベルを上限まで育てること。
格上のモンスターを倒したりする必要はないそうだ。
ホーンラビットとの一戦で進化した実例が幾つも出ているからな。
そして、それとは別ルートで、他スキルの影響を受けた状態で、本来のスキル以上の効果を発揮すること。
というところだろうか。
二つ目のルートはもしかしたら、条件はかなりキツいのかもしれない。
明らかなオーバースペックな効力を発揮しないと無理なのかも?
スキル進化の情報が出回っている現在になっても、法外SPを要求するスキルの情報は欠片も出ていない。
情報を握っているプレイヤーが皆一様に黙秘している可能性もあるが、その場合だって人数が少ないから外部漏れしてないと考えるのが自然だ。
そして、スキル進化について最もミソなのが、条件になっているのが自分のスキルだけで、外的要因は両ルート共に考慮されていないところである。
検証班曰く、対象スキル以外を全てオフにしたプレイヤーに、パーティメンバーがバフを掛け、敵にデバフを掛けた状態で、現状考えられる最善の装備で、ホーンラビットを攻撃した結果、無事にスキル進化を確認したそうだ。
「なんともソロに厳しい世界だことで」
俺の場合もあの時はディーネ達と共鳴同化した状態で、上乗せされたINTから本来あり得ない魔力暴発の規模となり、さらにディーネ達の尽力で指向性まで持たせてしまった。
「まさしく精霊王チートってやつだな…」
掲示板を度々覗くようになって、俺が裏で精霊王チートと揶揄されているのは知っている。
特に気にしているわけではないが、これには正しく適当な言葉だろうと苦笑してしまう。
事実その通りだからな。
でも、俺にだって持ってないスキルは多岐に渡るし、踏んでないクエストは五万とある。
だから、そんなやっかみ混じりの嫉妬の声なんて気にするだけ無駄だと、最近思うようになった。
俺も欲しいスキルがあって、他のプレイヤーがそれを見せびらかしていたら嫉妬するだろうしな。
お互い様だ。
だが、それとは別に、この前のダンジョンイベでも、NPCがMVPを総嘗めしたことに対しても不満があるプレイヤーは多い。
これも精霊神チートと内情は同じだ。
プレイヤーのイベントにNPCがしゃしゃってくるな、ということらしいが、テイマーに猛批判喰らってたな。
でもまあ、彼らの言い分も分かる。
極端な話だが、確かにゲームであるはずなのに、ユーザーそっちのけで物語が進むことに否定的な意見は出てくるだろう。寧ろ不満を持つプレイヤーの方が多そうだ。
しかし異世界だと誤認してしまうような世界で、NPCである現地人は現実の人々と同じように考えて行動するこの世界で、全てがプレイヤー主体で進む方が、俺には違和感が大きい。
PKなどが許容されている時点で、共存共栄の道を進むか、争う道を進むかはプレイヤー個々人、そしてその地で生きる現地人に委ねられていると言ってもいい。
マグナリベルタスというこの世界に降り立ってもうすぐ3ヶ月、この世界の主体にあるのはレベルでも、スキルでも、職業でも、称号でもなく、現地人との関わりなのだといい加減プレイヤー全体が理解していい頃合いだろう。
最近では、現地人がクランに加入したなんて話も聞くしな。ユズから。
自由度が高すぎるからこそ、MLはプレイヤーが知らないところで邪神が復活し、その邪神がプレイヤーが知らないところで倒されるなんて暴挙が起こっても俺は不思議ではないぞ。
それが嫌なら積極的に動けと、そう言われているような気さえする。
だから。
〈【魔力操作】スキルが【魔力制御】スキルに進化しました〉
〈称号【裏口入学】を獲得しました〉
《レンテ が初めて特殊な手段でスキルを進化させました》
《一部情報を解禁します》
《スキルの進化には、正規進化と特殊進化の2種類が存在します》
《特殊進化は条件が厳しく、さらに大量のSPを必要としますが、スキルレベルを上限まで上げなくても進化が可能です》
《特殊進化でのみ進化可能なスキルなどもある為、是非様々な方法を試してみましょう!》
《詳細はヘルプからご確認ください》
うぉい!もう少しなんとかなっただろ称号さんよぉ!?




