146/水
評価5000ポイントありがとうございます!
ログイン直後に突撃してきたルクシアに少し待ってもらい、ディーネ達を召喚してから今後の方針を話し合う。
暫くはヒンメルを召喚している余裕がなさそうなので、なにかお詫びの埋め合わせでもしないとな。
最近同じような悩みが多いな…。
早いところ精霊召喚だけでもLV.10になってくれれば、ルクシアはショタ教皇が召喚してくれるし、神聖国では召喚枠の問題はなくなるんだけどな。
「圧倒的に情報不足。いつ、どこで、誰が、何をするのか、これっぽっちも分かってない。分かってるのは、結果として新しい神様が生まれるかもしれないことと、聖女マリアという人物が要だろうってこと、そして首謀者が神至上主義派だってことくらいだ」
「そちらは心配せずとも大丈夫です。どうせイェレミエルの莫迦が配下に偽の情報でも与えたのでしょうから。我らすら知らない至神の秘法を、一介の天使族が知る道理がありません」
「えっと…、どちら様?」
いや、俺はこの顔を知っているし、どうせその内来るんだろうとは思ってたが、何故今なんだよ!?
ちょっと頭を整理する時間くれてもいいじゃん!
「失礼しました。私は風と勇壮の女神、名は持ちませんが親しい者からはミドリと呼ばれています。この不肖の友と仲良くしてくれているようですし、私のことはミドリと呼んでくれて構いません」
「かったくるしいぎゃああああ!?頭割れる割れる!!」
おお、間近でアイアンクローを観たのは初めてかもしれない。
さらばシルフ、お前はちょっとお調子者だったけど、偶に鋭い意見を言ってくれたりして、場の雰囲気を明るくしてくれる良い奴だったよ。
まあ、そうだろうとは思ってました、はい。
さっきからシルフを叱ったり、鉄拳制裁したり、叱ったり、叱ったりしているのは、大聖堂にあった神像と同じ顔だ。
像と違って全身が白い石質じゃないのは当たり前だが、シルフに似た髪の色で、シルフとは正反対に真面目そうな女神。
シルフをソファへ投げ捨てて、こちらへと向き直る。
最大限にシルフの扱いがぞんざいだが、リアル神様に対して意見なんて出来ようはずもござりませぬ!
どうせシルフの自業自得だしな。
「話を戻しましょう。イェレミエル達が行おうとしているのは、まず間違いなく偽神降誕の禁呪です。いえ、正確にはイェレミエルの配下が行おうとしているのは、でしょうが」
「禁呪、ですか?」
「禁呪スキルは、効力が絶大な反面、多大な代償を必要とするんだよ」
「禁呪の発動は術者だけでなく、他の者の支援を受けながら行うのが一般的ですね」
「禁呪なのに使っていいのか?」
ディーネとノームが補足してくれたが、そもそも使ったらダメだから禁呪だろうに、使っても怒られないのだろうか。どこに怒られるのかって話だけどな。
「そういう名前のスキルというだけですから。ですが偽神降誕を解放するには、禁呪と神聖魔術、降霊術、さらにそれに耐えられる器と適正が必要になります」
耐えられる器はレベル、適正は属性値ってやつだろうか。
禁呪スキルは、熟練度稼いでレベル上げれば新しい術を使えるようになるわけではないらしい。条件解放されるようだ。
「この国で条件を満たすのは聖女マリアだけです」
「もし禁呪が使われたらどうなるんですか?」
「何も手を講じなければ、ヴェルム神聖国は死の都に成り果てるでしょう」
「マリアはどうなってしまうんですの…?」
「後に残るのは彼女の骸か、助かっても廃人同然になってしまいます。いくら慈愛の聖女とは言っても、まだ未熟。神の力の上澄みとはいえ、耐えられません」
最悪だな。
率直に言って、顔も知らない聖女様の為に尽力しようとは思えないが、いつもは自信に溢れたようなルクシアが覗かせる、とても辛そうな表情は、心に来るものがある。
ルクシアにこんな顔をさせたクソ野郎を、ちょっと俺は許せそうにない。
「それは…イェレミエルをこ…倒せばどうにかなるのか?」
危ない。
簡単にNPCを殺すという選択肢が頭に浮かぶのは、プレイヤーとしての淡白な思考だ。
最近ふと思うことがある。
朝起きて、学校へ行く。家に帰ると待っているのはML中心の生活だ。もはやルーティンと化したこの生活は、確かな充実を与えてくれていた。
現実とゲームを同一視するな。
古い言葉だ。
VRが普及して、仕事はVR空間でというのは世間一般で珍しくなく、勉強だってVR空間の方が圧倒的に効率が良い。
生活の一部になっているMLで、ディーネ達と接しているのと、現実でクラスメイトと話すことの違いが、時折曖昧に感じるのだ。
たとえAIだったとしても、目の前で考えて動いているこの聖霊王達は、誰が何と言おうと俺の友達である。
だから、だからこそ驚いた。
現実とゲームが混同し始めた中で、ここまで思考がゲームに染まるなんて。
「貴方はとても優しいのですね。安心しなさい、マリアは我々が必ず救い出します、この国にも傷の一つすら許すつもりはありません」
俺は優しいのだろうか。
違うよな、酷く独善的なだけだ。
「ですが、我々では対処が難しい問題があるのです。レンテ、貴方にその対応を願いたいと思うのですが、お任せしてもいいですか?」
「俺に出来ることなら何でもやりますよ」
「頼もしいですね。まず、イェレミエルを倒したとて、偽神降誕が止まることはありません。発動を阻止することもです。発動の要となるのはマリアであり、あの莫迦者は恐らくその場にすら現れないでしょう」
本当にヘドが出る。
自分は手を汚さず高みの見物ってか。
「何か騒動の裏で別な計画でも立てているのでしょうが、あのような小物はミカエル達に任せましょう。貴方にお願いしたいのは、数日後に神聖国を訪れる勇者の護衛です。マリアだけでは贄として不足、十中八九勇者を贄として利用しようと企んでいます」
「たしかに何でもするとは言ったけど…。勇者って守られる必要があるのか?」
「まだ新米ですから油断すれば死にますよ。神聖国側から護衛が付けられればいいのですが、神聖国と帝国は今、非常に微妙な状態にあるので、表立って接触できないのです。いざとなれば介入しますが、勇者の手助けをしてやってもらえないでしょうか」
勇者が死ぬ、か。
やっぱり勇者はプレイヤーじゃなかったな。
NPCとプレイヤーの絶対的な違い、プレイヤーは死んでも死なない。
「それでルクシアがまた生意気に笑ってくれるなら、勇者だって守ってやりますよ」
「な、生意気は余計ですわ!」
「ルクシア、みんなで聖女様を助けようぜ。俺も本物の聖女様に会ってみたいしな」
「…マリアに手を出そうなんて、あたくしの目が黒いうちは許しませんわよ?テューラで我慢しなさいな。でも、ありがとうですわ…」
ついにルクシアもテューラをディスったな。
一人ずつ仲間が増えていくようで、俺は何だか嬉しいよ…。
冗談はともかく。
「最後に聞きたいんですけど、何で神様だけを信仰するって奴らが、神になろうとしてるんですか?」
自分の信仰のために他者を陥れようなんて奴らのことを理解したくはないが、これはもっと意味不明だ。
「神至上主義派の始まりは、空位の神々の席を埋めようという思想から興った派閥ですから。時が流れるにつれて、いつの間にか神以外を信仰するのは許せない、と考えを歪ませる者達が徐々に増えていったのは、事前に対処できなかった我々の落ち度でもありますね…」
なんともまあ、傲慢な考えだな。
「そしてその空位の席に座ろうとする者達が実権を握り始めたことで、精霊神に一番近いと目される精霊王をうとましく思い始めたのでしょう」
精霊界が神界に繋がってること以外にも、この問題は色々と根深いのか。
実に傲慢で面倒な連中だ。
ならば、こちらも遠慮なく傲慢に行かせてもらおう。
後から手直しするかもです




