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145/水



「はぁ…」


「どうしたよ、いつも以上に辛気臭い顔して」


「俺の顔が辛気臭いのはいつものことだ、ほっとけ」



聖女スキルって、他人の話を聞かなくなる呪いでも掛かっているのだろうか。


俺がどれだけちょっと待てと遮ろうとも話は逸れるし、なんか勝手に過去回想始まるし…。


本音を言えば、最初に止めた時点で帰りたかったよ俺は!


今の正直な感想は「巻き込まれた…」だ。


あそこで話を終わらせて帰れてさえいれば、ああはならずに済んだのに、聞かなくていい話を聞かされたばっかりに面倒なことにさぁ!?



「そうでもないだろ?タケの顔は平凡なだけだって!」


「ちょっと黙ろうか」


「イデデデデ」


「何やってんのよ、あんた達」


「いつものことだ、ほっとけ!今日こそはこの学ばない脳みそを破壊してやる!」



昼休み、今日はちょっと青空を拝みながら昼飯を食べたかったので屋上に来たのだが、いつもの如く着いてきたトモと、何故か何も伝えてないはずなのに当たり前のように現れた若葉。


まあ、これもいつものことだ。


少し若葉の目が怖いので、ヘッドロックしていたトモを解放する。



「で、溜息なんて吐いてどうしたんだ?」


「確かに珍しいわね」


「若葉に無茶言われた時はいつも溜息吐きたかったけどな」


「何か言ったかしら」


「いや、何も」



どうやら誤魔化せそうにない。


どうせMLのことだと当たりをつけているんだろうし、聞きたいこともあったし別にいいか。



「なんかヤバそうなイベント踏んだんだけど、どう考えてもソロの規模じゃなさそうなんだよ…」


「ヤバそうってどのくらいだ?」


「国家転覆、下手したら世界の危機」


「何がどうしたらそんなことになるのよ…」



俺だって知らないよ!


でも最後の偽マリアの言葉を額面通りに受け取るなら、神様が降臨するらしい。


それも既存の神様じゃなくて、新しい神様の誕生だ。


何故新しい神様なんて突拍子もない結論に行き着くかと言えば、偽マリアが言った生神女という言葉。


この言葉だけは欠片も理解できなかったので、ログアウトした後に調べてみた。既に巻き込まれてしまったので、これ以上後手に回るのは避けたいからな。


そしたら、明らかにこれがモチーフだなってのがヒット。


生神女とは、神を生んだ女を意味する言葉で、キリスト教における聖母マリアを意味するそうだ。


とんだ大物をモチーフにしてきたもんだよ、運営こんにゃろう!


現代社会の最大宗教をモチーフにしているのだろうが、これまでの傾向から言っても、そのまま再現しているとは考えづらいが、オマージュされていることは確実だろう。


既に一神教ではなく、多神教だしな。


名前と方向性だけ借りている可能性もある。



「端的に言えば、神が産まれる可能性がある」


「はぁ?」


「それだけ?」



何故か反応が二分した。



「それだけって、神様だぞ神様!?」


「分かったから落ち着きなさいよ、友則」



たしかにトモは騒ぎ過ぎで煩いが、逆に若葉はあまりにも気にしてないように見える。



「実際に神様がいるふぁんたじー?な世界なんだから、そのくらい当たり前なんじゃないの?」


「いやまあ、本当に神様は実在してるっぽいけど」


「それに、私は神様なんかより、誰かさんに王様の前に立たされた時の方がずっと恐ろしかったけどね。王様も神様も、どちらも私からすればふぁんたじーだけど、まだ王様の方が身近で、偏向報道、強権実行、なんでもありだもの」



若葉の中のふぁんたじーな王様は、割と現実寄りらしい。



「んなこと、神様が本気を出せば国の一つや二つ簡単に滅びちまうかもだぜ?」


「それこそ気にしても仕方のないことね。だって、私がどれだけ足掻こうとどうしようもないじゃない。言ってみれば、神様なんて幽霊みたいなものよ。実体がなくて、ヒトにはどうしようもない。何かされてもなす術がないのなら、気にするだけ無駄よ」



うーん、これ不敬罪です。


神様と幽霊同列視は各所から非難の声が上がりそうで、そっちの方が現実的で怖いのでやめてください!


冗談はともかく、言われてみれば神様どうこうなんて俺だけが足掻いたってどうしようもないのは確かにそうだ。


だけど、MLの神様は実体があって、ディーネ達がいることによってなす術があってしまう。そしてなにより、致命的に巻き込まれてしまった後なのだ。


それに俺にはたった一つの光明が残されていた。



「話変わるんだけどさ、帝国に勇者君がいるらしいんだけど知らないか?」


「勇者?アウラ以外の勇者は聞いたことないな」



君なのか、さんなのか聞いてないけど、この際そんなことはどっちでもいい。


その勇者君ちゃんさん先輩が強いのかどうかが非常に重要なのだ。


自分で強くなるという話はどこいったって感じだが、そんな一朝一夕で強くなれるなら、世界中みんな勇者だ。つまりその場合、俺も勇者でなければおかしいので、この証明は否である。


従って、如何にも最強そうな君ちゃんさんπの腰巾着になっておきたい!金魚の糞でも問題ないです!



「私知ってるわよ。帝国の勇者は3人居て、歴代最強と謳われる一人、帝国の第四皇子で一人、あとはまだ勇者見習いみたいなのが一人って言ってたかしら」


「その中に異邦の旅人は?」


「それどういう意味?勇者の中にプレイヤーがいるってこと?」


「いや、プレイヤーじゃない可能性もある異邦の旅人だな」


「ちょっと待て、なんだそのプレイヤーじゃない異邦の旅人って。異邦の旅人は、ゲーム的違和感を緩和するために使われているプレイヤーを指す言葉じゃないのかよ」


「俺もそう思ってたんだけど、どうやら違うっぽい。というか、そうじゃないと辻褄が合わないというか」



土曜日に神聖国を訪れるらしい勇者πは、ヴァング達のクラン【風の盟約】によって帝国が解放される前から勇者だった可能性が高い。


つまり、勇者πはプレイヤーじゃないのだ。


なのにそいつは異邦の旅人だとショタ教皇は言っていた。


ショタ教皇の認識違いや、嘘という可能性もなくはないが、祝福の儀に俺の同伴を提案してきたのは教皇本人だ。


すぐバレる嘘を吐く意味が分からない。



「多分、異邦の旅人ってのは、何らかの方法で異界の扉を使わずに、その境界を越えてきた、どの異界出身なのか判らない者達の総称だと思う」



その事例を俺は知っている、いや体験している。


初めて精霊界スピリタスに連れて行かれた時だ。



「これは俺の予想だけど、勇者の中に召喚された勇者がいるかもしれない。というか、高確率でいる」


「そんなラノベみたいな展開…いや、ゲームだったな」



何らかの事故で異世界に転移してきて、紆余曲折あって勇者になり、さらに大陸最大国家に召し抱えられるなんてサクセスストーリーよりも、帝国が最初から勇者として召喚したって方が理に適っている。


とはいえ、ノベルゲーでもない普通のファンタジーMMOで、プレイヤー以外の召喚勇者なんて俺は聞いたことないけどな。



「でも、それなら可能性が高そうなのは見習い勇者ね」


「そうなっちゃうか…」


「何でだ?第四皇子はともかく、最強勇者は可能性あると思うが」


「最強勇者を最強たらしめてる理由の一つに、帝国最大の国宝があるらしいのだけど、そんなものをポッと出の召喚勇者なんかに渡すと思う?」


「ラノベとかなら簡単に最強チートアイテム手に入れて、無双してるけどな」


「そうなの?でも、普通はそんな得体の知れない奴に大事なアイテム渡さないわよ、(たける)じゃあるまいし」



あれ、何でいきなりディスられたんだろうか。


しかしまあ、トモと若葉は知らないことだが、かの勇者πは祝福の儀を受けに来るのだ。


その時点で最強勇者も第四皇子も除外である。


歴代最強が5歳未満なんて、テューラと同じくらいの理不尽があるのなら話は別だけどな!


でもそうか、勇者πは見習いπなのか…。



「うわぁ、絶望的だなこりゃ」


「絶望の王が何言ってやがる」


「本当よ。絶対いつか王様の前に立たされるくらいの理不尽に合わせてやるんだから」



まさか若葉がそんなことを根に持ってるとは…。


だけど何だろう。


問題が自分の手に負えなさ過ぎて、王様と一緒に裸踊りさせられても、今ならチープな出来事のように思えてしまいそうで辟易とする。



「柚子と約束した女天使も一向に姿を現さないし、柚子には毎日のように催促されるし…。良いことなさ過ぎて、各国オススメランキングがあれば、神聖国はダントツで最下位だな」


「んだよ、女天使って」


「何よ友則、あんたまさか天使みたいなのが好みなわけ?」


「いや、ちげーから!新しい種族が出てきたらプレイヤーなら気になるだろ!?」



MLと違って現実は概ね平和です。


贅沢な敬称だね、今からお前の敬称はπだ!分かったら返事しな!

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