143/火
最近連続で感想貰えてて、ウキウキで書いてますww
ヴェルム神聖国は他の国と比較して、プレイヤー視点でデメリットがある。
浮遊島特有なのだが、平和に過ぎるのだ。
どうやら、町の外にも神殿があるらしい山だったりのちょっとしたフィールドはあるのだが、モンスターは湧かないらしい。
なので、冒険者ギルドも町のお手伝い程度のクエストしかなく、プレイヤーの主な稼ぎである冒険者ギルドや、職業協会では、殆どお金を稼げないのだ。
というのを、冒険者ギルドのクエストボードを眺めながら実感する。
「そうだよなぁ。上から見た感じ、町の外も動物は居そうだったけど、モンスターが居ないんじゃ冒険者なんていらないよな〜」
「あ、これなんか良さそうだよ?」
「会話相手になるだけで1万G?やだよ、そんな怪しさマックスのクエスト」
実際、他のクエスト用紙と違って、放置され過ぎたせいか擦り切れて落ちそうになっている。
怪しいだけじゃなくて、不人気な証拠だ。
「でもこの名前…」
「ルクシア、依頼主に心当たりでもあるのか?」
クエスト用紙には、受注可能な冒険者ランク、依頼主、依頼内容、期限、報酬、違約金が上から順に書かれている。
冒険者ランクとクエストの相関性は、同じランクのクエストまで受注可能なので、俺の場合は万年Fランクである為、クエストもFランクまでとなる。
パーティを組んでる場合は、パーティ内の最高ランク者と同じランクのクエストまで受注可能だが、勿論ディーネ達は冒険者ではないので、変わらずFランクまでだな。
期限は依頼主側が定めるもので、この期間内にこのアイテムを納品してくれ!みたいなクエストに定められていることがある。
それに付随して、その期限内にクエストを達成できなかった場合に違約金が発生するので、注意しないといけない。
違約金を払いたくないが為に、クエストを受けずに先にアイテムを集めたりして達成条件を満たしてからクエストを受注する方法もあるが、いつでもそのクエストが発注されているとは限らない為、オススメはしないと掲示板には書いてあった。
あれだ、自分に見合ったクエストを受けろってことだな。
「この国に1人しかいない、世界的に見ても10といない【聖女】のユニークスキル持ちですわ。神至上主義派の旗頭をやらされてるんですのよ」
「やらされてる?」
「父親が神至上主義派に傾倒していて、半強制的にですわね。本人は良い子なんですけど、不当に扱われているわけでもなく、あたくし達にもどうしようもないんですわ」
うーん…。可哀想だし、どう考えても重要NPCなんだが、俺がこのクエストを受けるのは地雷過ぎるよな。
どう転んでも大問題に発展すること請け合いだ。
本人が望んでなくとも、精霊からすれば敵陣営とも言える派閥のトップだ。少なくとも、またイェレミエルには絡まれるだろうな。
「ま、それなら尚のことないな。これが残ってるのって、みんな面倒事に巻き込まれるのが嫌だからだろ」
「えー、可哀想じゃん!ただお話し相手が欲しいだけなのに、独りぼっちなんて哀しいよ!」
「いや、ルクシアの話じゃ冷遇されてるわけじゃないんだから、話し相手くらい居るって」
絶対何か裏がある。
報酬の1万Gは、徐々に資金繰りが良くなってきたプレイヤーからすれば大きな金額ではないが、この内容でこの報酬はかなり破格だ。
なんせ聖女様と話すだけなんだからな。
一部のプレイヤーからすれば、寧ろご褒美+報酬だ!などと抜かすやからまで出てくるだろう。
「そうですわね。あたくし達が不用意に近づくのは遠慮しておいた方がいいかもしれませんわ」
「むぅ…ルクシアがそういうなら…」
「では、こちらのクエストなんてどうでしょうか」
渋々ながらもディーネは納得してくれたようだ。
自分達の立場を一番理解して、相手のことも知っているからこそのルクシアの発言だからな。
それに、ノームもナイスアシストだ!
良いタイミングで話を逸らしてくれた。
「えっと…?教会に併設された孤児院の手伝いか。報酬は1人500Gだけど、最初のクエストだし良いんじゃないかな」
場所は中心部とは真逆の町の外側。この国には外壁が島の端が近い北と東側にしかないのだが、その東の端っこの方だ。
「あんな立派な大聖堂とは別に教会まであるのか。よし、時間無いし受注したら早速出発だ!」
「「「おー!」」」
ディーネ、シルフ、ルクシアがノリ良く返してくれる。
今日平日で学校もあって、既に8時を回りそうだ。
精霊界だと、9時にログインしても十時間以上プレイできるが、人間界だとどうしてもプレイ時間が現実準拠で短くなってしまうので、最近は少し時間に追われる生活だな。
学生辛いです!
教会があるという近くまで歩いてきた。
一時間のお手伝いで報酬は払われるようで、夜の10時までと時間制限付きだが、まだ間に合う範疇だろう。
お、あの建物っぽいな。
「なんというか、ボロくはないけどかなり古いな」
「お化けでそうだな!」
「こ、怖いこと言わない、でよ…」
「教会に対して言っていい言葉じゃないでしょう」
「テネブがお化けにビビってんじゃねぇよ」
「さ、早くいこー!」
「先に謝っておきますわ、レンテ…」
「え?」
ディーネに引っ張られてルクシアが何に謝罪したのか聞く暇もなく、教会の扉をディーネがノックしていた。
「すみまーせん、冒険者ギルドのクエストで来ました!」
ピンポン代わりの声高らかな呼び出しをするディーネに、もう少し近所迷惑を…と言いたいところだが、町の外縁部過ぎて家もまばらだ。
「はいはーい、今行きます〜」
女性の声、多分この人が依頼主のマリアンヌさんかな?
「お待たせしまし…」
「えっ?」
一分と待たないうちに開けられた扉から、修道服姿のくすんだ茶髪の女の子が出てきた。歳は俺とそう変わらないかな?
しかしそんな平凡な俺の思考とは裏腹に、驚嘆の表情をしているのはルクシアと少女。
ルクシアは直前に謝っていたし、それと何か関係があるのかな。
「貴女、マリアですわよね…?その顔と髪、どうして」
「…ルクシア様、ここでは私のことはマリアンヌとお呼びください。詳しいことは中で話しますので、皆様もどうぞ」
ここで問答していても迷惑掛けるだけなので素直に従う。
しかしまさか、こうも早くフラグを回収してくるとは…。運営は騒乱をお望みか!?
マリアって例の聖女マリアだよな?
というか、二択を迫られてどっちもバッドエンドってどうなのよ。
こうなるなら、お面被らせておけばよかっただろうか。いくら神様のお面でも、程々に暗い夜道でお面はホラーでしかない。
「先に子供達を寝かせてきますので、申し訳ありませんが少々お待ちください」
そう言って、案内された机と椅子があるだけの質素な部屋で待つこと暫し。
お茶をお盆に載せてマリア…ンヌさんが戻ってきた。
「大したおもてなしも出来ずにすみません。子供達を養うだけでも厳しいので…」
まあ、だろうなって感じだな。
教会自体も手入れはされているようだがかなり古いし、壊れた木窓や床なんかは無理矢理に補修したような箇所も見受けられた。
ただ、噂の聖女様がいて、何故そんなに資金繰りに苦悩しているのかは謎だが。
もしかしてギャンブル好きとか…。
いや、あまり不敬な考えをしていると、バレたら処罰されそうだからやめておこう。なにせ、不敬なことを考えてなくても監禁されかけたからな。
聖女はそのトップという話だし。
「それで何からお話ししましょうか…」
「ちょっと待ってくれ」
「あなたは?」
「レンテだ。セントルム王国から先日この国に来たばかりの…冒険者かな」
「はいはーい!わたしはウンディーネだよ、よろしくね!」
「シルフだぞ!」
「俺様はサラマンダーだ」
「ノームです」
「テネブ、ラエ…だょ」
うん、人見知りなのに精一杯頑張ったな。
「まさか、ルクシア様以外の精霊王様なのですか!?」
「驚くのはいいけど、少し声抑えた方がいいんじゃないか?」
「あっ、そうですね。失礼しました」
子供達起きちゃうしな。
「しかし、そうですか。精霊王様方が私に会いに来たということは正教派もいよいよ…」
「だから待ってくれって」
「…そういえば、あなたとルクシア様方とはどのようなご関係なのですか?」
ああ、そう。忘れられてたのね…。
仕方がないとは思うけど悲しいです!
「友達?いや、召喚者と召喚された聖霊王の方が正しいか?」
改めて言葉にすると難しいが、多分そんな関係だ。
「えへへ、友達かぁ〜」
「おう、オイラ達マブだもんな!」
「なんだか照れてしまいますね」
「ま、まあレンテがどうしてもって言うなら俺様は…」
「ぼ、僕も友達にっ!いてっ、やめてよルクシアぁ」
「子供達が寝てるのに叫ぶ方がいけないんですわ。あたくしもレンテなら友達になってあげても宜しくてよ?」
「あ、ああ、これからも宜しく…」
そんな反応されるとこっちまで恥ずかしくなるんだが!?
「なるほど、人の身で精霊王の友ですか。妖精の王女様のような方が人族にもいらしたのですね」
「セレス、セレスティア殿下のことを知ってるのか」
「私も一応はこの国で聖女を名乗っていますから。とはいえ、セントルムの聖女には名声負けしますけどね」
仮にも神様が実際にいる神聖国の聖女に名声で勝つってどんな聖女様だよ。
世の中には聖人君子っているものなんだなぁ。
「へぇ、セントルムにそんな立派な聖女様がいるのか」
「何言ってるの、テューラのことだよ?」
「セントルムで聖女スキルを持っているのは、公式にはテューラだけですわ」
「そんな分かりやすい嘘吐くなよ、アレが聖女だなんて世も末だぞ」
確かに見てくれに騙されたプレイヤーからセントルムの聖女なんて持て囃されていた絶頂期もありましたよ。
ですが、最近は色々と隠しきれない現実が露呈してきたことにより、彼女の人気は降下の一途を辿っているのです!そうであるに違いないのだ!そうであってくれ!
「あの…他国のこととはいえ、口を出すのも間違っているかもしれませんが、あまり王女様に対して失礼なことを言わない方が…。どこに誰の目があるのか分かりませんし…」
まあたしかに本物の聖女様の周りに監視の目がないわけがないので、この会話も当然聴かれていてもおかしくない。
しかし、だからと言って問題なし!
だってセントルム王国内でさえ、しかも王城の中でさえもっと酷いからな!
いや、酷いのはテューラの方だが。
いつか聖女(本物)vs聖女(偽物)やるぞ!(嘘)




