142/月
ディーネ達のことを精霊だからと睨め付けるのはほんの一握りだってことは、昨日一日で何となく理解できた。
それでも気を遣って昨日は我慢してくれたが、せっかく遠出してきたのに街歩き出来ないのは残念なので、とある一計を案じることにした。
題して!郷に入っては郷に従え大作戦!
最近判明したことだが、一張羅のように普段着ているディーネ達の服装は、実は別の服も着られることが分かった。
当たり前と言えば当たり前なのだが、そういうものだと気にも留めてなかった。先日は正直に言えば着させられている感満載のコスプレをしていたので、問題なく普通の服も着ることができるはずだ。
あれはともかく、もっとフランクな服装ならば、一般民に紛れて余計な問題も引き寄せないだろう。
ちなみに今日のメンバーは聖霊王組です。
ルクシアはショタ教皇が召喚してくれてるし、精霊召喚のレベルがあとひとつ上がればヒンメルも追加で召喚出来るようになるはずだし、少しでも熟練度を稼ぐためには精霊召喚を使わないとな。
ヒンメルだけ召喚できてないので、今日は何してもいいと行動制限を解除してあるが、精霊宮殿に帰るのが今から恐ろしい。
「どう、レンテ?似合ってる?」
「うーん…ちょっとお前ら顔が良過ぎるな…」
「な、なな、何ですの!?そんなこといきなり言われても困りますわ!」
多分俺は今、ものすごく微妙な顔をしているだろう。
あ、自分の顔が平凡だと卑下しているわけじゃないぞ?事実その通り平凡顔だが、言いたいのはそういうことじゃない。
別に褒めたくて褒めたわけじゃないんだよな…。
普通の町娘のようなディーネの服装も、ハーフパンツとノースリーブシャツで動きやすさ全振りのサラも、ちょっと他と比べて気品が抜けきれてない白地ワンピースのルクシアも、一番浮いている探検家スタイルのシルフも、カジュアルでちょっと現代っぽいノームも、ローブに…いや、テネブはいつも通りの野暮ったいローブに眼鏡をワンポイント増やしてるが!
色味も自分達のメインカラーに合わせている辺り、色の好みも属性の影響を受けてそうだ。
だがしかし!可愛過ぎるし、格好良過ぎるしで、全然埋没出来てませんけど!?
改めて再認識したが、この中で一番浮いてるのって、実はシルフじゃなくて俺じゃね?
「あ、これいいじゃん。この神様のお面被ってたら目立たないかも」
「えー、やだよ。金貨の臭い移りそうだもん」
「あたくしまで頭でっかちになりそうですわ」
「相変わらず酒臭そうな顔してるぜ」
「私は構いませんよ。少し狂気を感じることはありますが、基本的に気が合いますので」
「きっとこのお面被ってると、眉間に皺ができちゃうぞ」
「僕も、別に…」
外を走ってる子供達も同じお面を被って遊んでたから、良い案だと思ったのだが、反対多数で無事却下されました!
「ってか、そうだった。精霊界に神界への異界の扉があるって本当か?」
「あれ、言ってなかったかな?」
「源泉の間の反対を突き当たりまで進んだところに扉あるじゃん、アレだぜ!」
「あー、あの閂だけじゃ飽き足らず、執拗に板で釘打ちされた上から、呪われてそうなお札が無数に貼り付けられてるやつか」
前に精霊宮殿探検を一人でやった時に、一回だけ見かけたことがある。
なんか変な怨霊みたいなオーラが扉の隙間から漏れてるところまで幻視して、気味が悪くてあれから一度も訪れてないし、何なら記憶からも抹消していた場所だ。
「シルフ、まさかあのまま放置しているのですか?」
「あれれ…?オイラちゃんと片付けたような、面倒臭くて後回しにしたような…」
「まあ、余計なのが来ない分には構いませんわね」
「最近オッサンが来ないと思っていたらそういうことだったのですね」
「酒を集りに来ねぇなら、俺様もそのままでいいと思うぜ」
「いやちょっと待とうか。普通に流してるけど、ノームの口からオッサンとか飛び出ると気になるんだが?」
外見年齢にそぐわない礼儀正しさをしているノームだが、逆に子供のようにオッサンなんて突然言われると、違和感三倍増しだ。
「呼ぶ時に、困る、から。あだ名」
「そういえば、それも気になってた。枢機卿なんて偉い人が、神様の名前を一切呼ばないし、神像にも何を司ってるかは説明書きがあっても、名前の記述は無かったし。どういうことなんだ?」
「あの人達には名前が無いんだよ。変に名付けされちゃうと、名前に引っ張られちゃうから」
「誰かと契約でもすれば、影響なく名付けも可能かもしれませんが、今度は神が誰かの下につくことによって、秩序が崩壊しかねません」
「だからあだ名で呼んでんだよ。酒呑み、守銭奴、ヒステリック、オッサン、ナルシスト、…闇?」
「すぐに嘘を吐かないでください。最後なんて思いつかなくて、適当になってるじゃないですか」
「だってパッと思いつく単語全部聞こえが悪りぃんだからしょうがねぇだろうが。それにレンテが初対面のアイツらをそう呼ぶ方がおもしれぇだろ?」
「彼女は基本物静かな方なので、あまり多くは語らないのですよ」
うん、本人知らないから今ここでフォローされても、反応に困る。
「あの人達のことは分かりやすく色で呼んでるんだよ」
「赤!青!緑!オッサン!白!黒!だぜ!」
「いや、どう考えてもひとつおかしいの混ざってるだろ!?」
「レンテも神像は見ましたわよね?単純に黄だけでは呼びづらいですし、黄色〜や、イエローなんて似合うと思いますの?」
「ま、まあ、本人が納得してるなら、それでいいんじゃないかな…」
本当に納得してるなら器の広い神様だことで。
「創造神様は?」
「…ヒゲ」
「え、聞き間違いかな…」
多分、ボソッと呟いたテネブの声が小さくて聞き間違えてしまったのだろう。
「ヒゲ、だよ」
「あんまりヒゲ神と会うこともねぇからな」
「それもう少しどうにかならなかったのかよ」
「特徴的でいいじゃん!」
「もしかして名前に引っ張られるって…」
「いえ、元々豊かで立派な髭をしていましたよ。あだ名程度で存在が引っ張られるようなことはないでしょう、恐らく」
「いや、断言してやれよ!」
触らぬ神に祟りなし、だな。
もし仮に俺が出会うことがこの先あろうとも、創造神様と呼ばせてもらうことにしよう。
「ところで、変装するということは、どこか人目が多い場所にでも行くのですか?」
「みんなで街の散策をしたいってのもあるんだけど、今週末に祝福の儀って行事があるらしくてさ。見学させてもらえることになったから」
「なるほどですわ。場合によっては、街中を歩くより衆目を集めるかもしれませんわね」
祝福の儀とは、殆ど全てのNPCがこの国を一度は訪れる理由であり、NPCにとって人生を左右すると言っても過言ではない人生の岐路だ。(ショタ教皇談)
簡単に説明すると、人生で一度だけ無条件でスキルを獲得できるらしい。
獲得できるスキルは、条件を満たした中から素養と素質で選ばれ、NPCはそこで得たスキルで今後の人生を決定する者が殆どだと言う。
この祝福の儀、実はプレイヤーでも受けることができるっぽい。
しかし、素養と素質から選ばれるというのが問題で、プレイヤーとNPCというか、異邦の旅人と現地人には大きな差があった。
素養とはつまり、取得可能なスキルのことだ。
他に取得しているスキルの影響を受けるとか、潜在的なものとか、完全なランダムだとか研究されているらしいが、取得可能であれば、初期スキルでもユニークスキルでも獲得の可能性があるらしい。
まあ、無料でスキル貰えると考えればそれだけでもありがたいのだが、現地人にはそれ以上の可能性が眠っているのだ。
素質とはつまり、遺伝だ。
親や、祖父母、もっとずっと昔のご先祖様まで、遠き過去に生きた彼らのスキルまで対象であり、進化後のスキルを獲得することも珍しくないんだとか。
流石に終焉や賢者みたいなエクストラスキルを獲得した例は未だかつてないみたいだけどな。
「子供って好奇心旺盛だもんね〜」
「これからは子供だけとは限らないけどな…」
とはいえ、プレイヤーもこんな絶好の機会を逃さないだろう。
祝福の儀についてプレイヤーに広まれば、まず間違いなくお祭り騒ぎだ。
NPCの祝福の儀は、基本的に5歳の年に町毎だったり、国毎に纏めて行われるらしい。だが色々な理由で5歳の年に受けられなかった人達は、別の年でも参加できるようで、それは異邦の旅人も同じだった。
俺個人としては見学する際にスキルを貰うかは決めかねている。
遺伝スキルは仕方ないとしても、もっとSPがお高いスキルを取得可能欄に出してからの方がお得な気がして…。
まあ、ランダムに選ばれるなら、出した後に初期スキルが選ばれて萎える未来が鮮明に思い描けるけどな!
初期スキルだけで、50や100を超えるんだから、狙ったスキルの獲得なんてまず不可能だよ。
そして、ショタ教皇の勧めで見学することになった祝福の儀だが、祝福の儀そのものよりも気になることがあった。
「まさか勇者様が異邦の旅人だなんてな…」
土曜日の最初の祝福の儀に、アウラとは別の、ヴィクトリア帝国の勇者様が参加するらしい。
そして、その勇者様はなんと異邦の旅人だという。
疑念がある。
もしや異邦の旅人ってのは、プレイヤーだけを指す言葉ではないのか、と。
もし帝国の勇者がプレイヤーだったとしても、それはそれで厄介だけどな。
感想欄にサラがいてびっくりですw
ストレートに「面白い!」と言ってもらえると、やっぱりすごく嬉しいですね…///
もっと楽しんで読んで頂けるように邁進していきますので、これからも拙作をよろしくお願い致しますm(_ _)m
あ、エタらないように肩の力を抜いて程々に邁進しますww




