141/日
昨日書くの忘れてましたが、140話とSSの2話投稿してます!
時間ずらしての投稿だったので、どちらかしか読んでなかった!って方がいたら申し訳ねぇだ
ステンドグラスに彩られた大聖堂内は、既に日が落ちているというのに煌びやかで暖かな光が外から差し込んでいる。
俺は今、大聖堂に一人で来ていた。
ディーネ達が精霊否定派ともいうべき天使達と揉める可能性を考えて辞退したのだが、完全ソロ行動というのも珍しくなってきてるし、あいつらが居ないと何だかんだで少し寂しく感じるな。
「このカテドラルは、教皇猊下の聖座があるという点において、ヴェルム教の中心地ではありますが、それ以外にももうひとつヴェルム教にとって特別な場所でもございます」
ショタ教皇から貰ったメダルを携えて大聖堂に訪れたら、枢機卿と名乗るおっさんが案内役を買って出てくれた。
神聖国での衣食住は全て教皇猊下がお世話してくれるそうなのだが、てっきりルクシアのお陰と思っていたのだが、聖霊王の顔パスでも何でもなくて、セントルム王家が発行してくれた許可証のお陰だった。
一応、空から不正入国した時に提示してたアレが、俺達が歓待されている理由らしい。なお、監禁については例外とする。
大聖堂という建物のことを勘違いしていたのだが、教皇が座る聖座や、司教が座る司教座がある教会のことを大聖堂と呼ぶらしい。
教会の中でも、その椅子があれば大聖堂ってことみたいだ。
そして、カテドラルってのは大聖堂のことだそうだ。
「左から順に、火と闘争の神様、水と生産の女神様、風と勇壮の女神様、主神たる創造神様、土と豊穣の神様、光と知識の神様、闇と輪廻の女神様の神像です」
火の神様は雄々しい、失礼を承知で言えば暑苦しそうな、拳を打ち合わせたポーズだ。
水の女神様はおっとり美人だけど、差し伸べられた手に金貨が山盛りでギャップが凄い。
風の女神様は厳しい顔付きの美人秘書っぽくて、唯一武器の槍を携えた仁王立ち。
土の神様は農夫かな?ってくらい普通のおじさんで、片手でクワを担いでるから余計に印象操作が酷い。今度麦わら帽子でもお供えしようかな。
光の神様は眼鏡を掛けた実直そうなイケメンで、眼鏡クイッしながら本を読んでいる。こっち向けよ。
闇の女神様は大人しそうな美少女で、天秤を大事そうに抱き抱えている。
創造神様は豊かな髭を生やした壮年の美丈夫で、聖杯を掲げている。髭は絶対白だと思う。
「そして神像の足元にございますのが、ヴェルム教において最重要とも言える、神座と呼ばれる神様が顕現なされる為の椅子なのです」
「顕現、ですか?」
「はい。といっても、そう頻繁に下界へ降りて来られる方は少ないですよ。創造神様は300年前に顕現なされたそうですが、今ではその御姿を拝謁した人物は少ないでしょう」
「ちなみによく顕現するのは…?」
怖いものみたさで聞いてしまったが、結構重要なことだ。
この質問でどのくらい神という存在が、人々の生活に馴染んでいるのかを推しはかる判断材料にもなるだろう。
「三日前に水の女神様がお布施の回収に来ておられましたね。風の女神様は毎日聖騎士の教練を引き受けてくださってるので、我が国の聖騎士はどの国よりも屈強で、ヴェルム神聖国が絶対中立を貫けるのは、かの女神様のお陰でもありますな」
「割と身近な存在なんですね…」
最初に触れた神様がギリシア神話のヘルメス神だったので、もっとこう現実世界で語られるような神様の印象を持っていたのだが、なんというか地域密着型だったらしい。
そりゃ、聖騎士が強くなくとも神様が実際にいる国に攻め込もうとはするまいよ。
「これ聞いていいのか分からないんですけど、あっちの空白地帯って」
長方形の聖堂の正面に創造神像、左右の長辺側に等間隔で属性神像が祀られている。
左右にそれぞれ三柱ずつ祀られているのだが、神像を祀るための空間は五箇所ずつあるのだ。つまり、左右に二箇所ずつ空白地帯が存在した。
「空位なのですよ。時間と空間の神様、星と重力の神様、精霊と調和の神様、そして破壊神様。いつの日か顕現なされた時に、お待たせしてしまうことがないよう──」
「精霊と調和の神様?実際に精霊神はいたんですか?」
「神様方が仰るには、擬似的に至る者達はこれまで居たそうですが、真なる神の領域に至った精霊神様はまだ居ないそうですよ。そのせいで正教派と神至上主義派と二分してしまっているのですがね…」
「正教派っていうのは?」
「神様という存在は尊いですが、その教えこそが何よりも大事だと考えるヴェルム教の最大派閥です。なので、空位であっても世界の導き手である全ての神々への敬意を忘れないことを、信心の根幹としているのです」
「神至上主義派は、神であることを第一とした派閥ってことですか」
「ええ、彼らも信仰心からくる言動だとは分かっているのですが…」
それで迫害される方は堪ったものじゃないよな。
実際に神様がこの国に居なかったら、とっくにフェアリアスと戦争が起こっていても何ら不思議じゃない。
「なんで天使族には、その神至上主義派が多いんですか?殆どが天使族で構成されてるんでしょ?」
「空路で参られたなら見ているかもしれませんが、町の外に山岳があったのには気づかれましたか?」
「ああ、綺麗な滝があるとかっていう」
ルクシアがお勧めしていたスポットだ。
「ええ、その山頂に神殿があるのですが、そこには天界に繋がる異界の扉がありまして、さらに天界には神界に繋がる異界の扉があるんですよ」
「じゃあ、天使族ってのは例に漏れず神様の使い的な種族だから、神様が第一って考えになるってことですか?」
「いえいえ、単に天界に神界への扉があるだけです。精霊界にも同じ扉があるはずですよ?」
え、まじ?そんな話一度も聞いてないんだけど…。
いや、聞いてないのに突然そんな話を始めるのもおかしな話か?
「もしかして天使族の精霊嫌いって…」
「まあ、そういうことですね。一部の天使達は、自分達が特別だという優越感が薄れるようで面白くないというのも、理由の一つにはあるのでしょう」
神じゃないことや、ルクシアの傍若無人以外にも理由があったらしい。
「じゃあ、その神殿が神至上主義派の拠点で、この大聖堂が正教派の拠点みたいな?」
「そんな派閥争いみたいなことをしているわけではありませんよ。ただ、そういう思想の信仰心に別れてしまっているだけで、天使族の殆どは正教派ですから」
なるほどな。
イェレミエルみたいな過激派は天使族の中でも、本当に極一部だけらしい。
「何か他に気になることはございますか?無ければ次の御案内に移ろうかと思いますが」
「あー、じゃあ一通り参拝?お祈り?してきていいですか?」
「ええ、ええ、ゆっくり詣られてください。私は彼方の扉の前で待ってますので、終わったら一声掛けてもらえれば」
「分かりました」
参拝ってのも西洋風な大聖堂には合わない言葉選びな気もするし、やっぱりお祈りだろうか。
入り口から左手に回りながらお祈りをしていく。
とはいえ、祈り方なんて習ったことはないので、両手の指を絡めて目を閉じて、四十五度程こうべを垂れるくらいだ。
祈り終えれば、他に習って金貨を一枚祭壇のような場所に置く。食べ物や花なんかも捧げられているが、そんなもの世界樹の実くらいしか持ってきてないので、こんな不特定多数がある場所で大っぴらにできるようなアイテムじゃない。
あ、勿論水の女神様には、手のひらに金貨を重ねといたぞ。この女神様だけ、金貨以外の捧げ物が酷く少なくて笑いそうになったので、お詫びも兼ねて金貨を二枚に増やしておいた。
まあ、1Gか2Gの違いでしかないけどな。
そういえば、神様神様言っていたが、ヘルメス神みたいな固有の名前ってないんだろうか?




