138/日
前話の戦闘後にリザルト追加してます!
俺達は今、目下に雲海を見ながら進んでいた。悲しいことに俺の居場所はヒンメルの背中だ。
まあ妥協案として、脚に掴まれながらの移動は断固として拒否したので、再発防止にはなっていると思いたい。まさかホーミングしてきたりはしないだろうしな。
「シルフ、後どのくらいで着きそうなんだ?」
「このまま進めば30分も掛からないぞ」
「了解。ヒンメル、あまりスピード出さなくていいからな」
「(わたしのせいじゃないのに…)」
ずっと言い訳のように呟いているこの言葉も謎だ。
この前断った時にも同じことを言っていたが、誰が聞いてもお前のせいだろうに。
とはいえ、頭ごなしに否定し過ぎたかもしれないな。
今俺が背中に乗せられているのは、素っ気なく否定を重ねた結果泣かせてしまったからだ。
まさか泣いてしまうとは思わなかった。
自分の嫌が先行していて頭から抜けていたが、ヒンメルって基本的に子供なんだよな。実年齢は知らないけど、鳥フォームが雛鳥というところから見ても、神鳥的には子供なのだろう。赤ちゃん説まである。
なので、泣かせてしまった罪悪感もあって仕方なく、本当に仕方なく背中なら許容したのだ。
承諾した次の瞬間にはケロッといつものヒンメルに戻っていたので、ただ演技が超上手い可能性もあったが、あの切り替えの速さは素だな。
だって普段が相当にアホ過ぎる。
それにしても、少しでもあの事件を連想させる言葉を投げかけたら、壊れた機械のように同じことを言い続けるのはどうにかならないだろうか。
話の流れがあるとはいえ、スピードという単語だけで引っかかるのは有効範囲広過ぎだと思う。
「お前な、ちゃんと認めることも大事だぞ?人に迷惑を掛けたら謝らないとな」
「(うぅ…レンテには酷いことしてごめんだよ?でも、でも…悪いのはわたしじゃないもん!)」
「うわっ、分かった分かったから!落ち着け、落ちるからぁ!?」
背中に乗る俺へ直接訴えたかったのか、顔だけでなく姿勢まで背中に向けようとして、その勢いで投げ出されそうになる。
しかし頑なだな。
普段何かとやらかすことが多いヒンメルだが、すぐに謝罪はするし、言い訳はしてもちゃんと自分の非を認める。
何がそこまで…。
えっ、もしかして乙女の恥じらいとかそんな話なのか?いや、でもな…。
そうだとすれば、これ以上はいくら被害者だとしても聞きづらいんだが。
いや、でも最後にこれだけは聞いておかねば。
「ヒンメルがやりたくてやったんじゃないってことは分かったよ。でも、それなら誰か他に悪い奴がいるのか?」
ちょっと意地悪な質問に聞こえるが仕方ない。
ヒンメルの言い方が気になったのだ。
もしかしたら、「わたしは悪くない!すべて社会が悪いんだ!」や、「アイス食べてお腹が冷えてた!つまりアイスが悪い!」的な意味の言葉だったら見当違いだが、まるで自分以外に悪者がいるような言い方をしている。
もしあの事件を裏で糸を引いている存在が別にいたのだとすれば、それはそれで大問題である。
だってあの事件が起こったのは、正式サービス初日であり、俺が初めてこの世界に降り立ったその日なのだから。
「(…言えないんだよ、秘密だもん)」
「いつもは約束を守らないヒンメルが、秘密を守るのか!?」
「(お母さんにだってリンダにだって話さないんだよ!)」
愕然としてしまった。
たしかにヒンメルは、自分の非を認めるし、きちんと謝りもする。だが、約束を守ったことがこれまでどれほどあっただろうか。
誰だ、黒幕!?ヒンメルに約束を守らせる方法を教えてください!切に!
しかも、ヒンメルの中で最上位に位置しているであろう母鳥と師匠にさえ、口を開かないというのもビックリポイントだな。
「ねぇ、そろそろ許してあげたら?」
「ああ、もうこの件水に流すからさ。ごめんな、しつこく聞いてしまって」
しかし誰だ?
「約束を守らない」という俺の言葉に反論しなかったということは、変な理由で黙秘権を行使しているのではなく、恐らく本当に黒幕がいるのだろう。
一番怪しいのは情報屋のオヤジか。
師匠の家を教えてくれたのも、プリムスでそれ以前に関わったNPCも彼だけだ。NPCってことだけで考えれば、始まりの村の村長親子もだが、オヤジに比べれば可能性は極薄だ。
或いは師匠?
自分の家を訪れた迷惑な客を追い返す為に…。
いや、実際に俺を弟子に取っているわけだし、限りなく低い可能性だな。例えば、あの事件を経て【真・樹魔術】が芽生える可能性はランダムで極低確率を俺が引いたから弟子にした、みたいなことであれば、ワンチャンあるかもしれないが。
それに、俺が選ばれた理由も気になる。
無作為に選ばれた可能性もあれば、俺が情報屋として利用した最初の客だったからという可能性もある。
しかし、プレイヤーとして利用したのが俺が初めてでも、NPCは利用していたはずだ。
だったら、一つ目の理由はプレイヤーであることなのか?
うーん、どうだろう。
俺が情報屋としてオヤジを利用したのは、完全に運だった。そしてオヤジは相談を持ちかけた俺に、自分から情報屋だということを打ち明けたのだ。
ということは、その事実を明かすことに忌避はなかったと思われる。それならば、情報屋だと知らずとも俺以外のプレイヤーでも良かったんじゃないか?
あの時点であの酒場を利用していたプレイヤーは俺以外にもいたはずだ。実際、グレンに連れられてあの酒場を訪れたんだからな。
つまり、俺と他プレイヤーでなんらかの違いがあったのだろう。
あの初日の段階で、俺にあって、他プレイヤーになかったもの。
「チュートリアルの三称号…?」
いや、それだけとは限らない。
この称号を持っているからこそ、俺には無くて、他プレイヤーにあったものがある。
「ステータスとスキルか」
称号の一つに、スキルとステータスを初期状態で弄らずに、チュートリアルスライムを倒すことが獲得条件だった。
もしかしたら、称号とステータス・スキルを弄ってないこと両方ってこともあるか?
もっと言えば、両方の条件を満たした上で、魔術師志望だということをオヤジに相談することまで条件だった可能性すらある。
あとは、初日の正式組プレイヤーにしてはそこそこな大金を持っていたが、それはオヤジは知らな…くはないな。目の前で取引してたわけだし。
まあ、お金云々は関係ないだろう。
思えば、プリムス大森林の聖域も、ドルクスの断崖も、俺が重要NPCに関わるキッカケになったのは、殆どがオヤジの誘導と言えなくもない。
いや、ドルクスさんは、俺が勝手に家の下で魔術ぶっ放して大穴あけただけで、オヤジのせいにするにはちょっと無理筋かもしれないが。
それ以外で重要NPCと言えば、テューラやマーリン爺といった王国首脳陣とセレスだが、これだって師匠の弟子じゃなかったら関わることはなかったのだ。
「そろそろ到着するぜ!」
「え、何も無いぞ?」
ひとり頭を悩ませているうちに、神聖国への入国間近になっていたようだ。
だが、視界に映るのは果てしなく続く雲海のみ。そこにポツンと俺達が漂っているだけだった。
「浮遊島をすっぽりと覆う巨大な結界で透明化してるのですよ。凡ゆる感知対策を施した無駄に高性能な、結界に長けた彼らだからこそ可能な結果ですね」
「彼ら?」
「そろそろ来るよ。これだけ近づけば、向こうもわたし達に気づいてるだろうし」
「感知対策は完璧でも、風の流れまで誤魔化せないんだぜ!」
「前に、結界壊したら、怒られたし、待ってよう?」
おい!お前ら全方位に喧嘩売ってるんじゃないだろうな!?
とさらに困惑していると突然、二枚一対の純白の翼を背中に生やした五人の兵士と、二枚四対の翼の神官服の男が、俺たちを取り囲んでいた。
「久しいな、テネブラエ殿。漸く盗品を返す気になったかな?」
「あれは、ルクシアが…」
最初から険悪な雰囲気なんですが、お前ら一体何をした!?




