表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/185

131/金


最近は雨が酷くて困る。


学生鞄の中に常備していた折り畳み傘がいつの間にやら壊れていたせいで、下校時に仕方なく全身びしょ濡れで帰ってきた。


今年の梅雨入りは少し遅かったせいもあり、7月中頃まで長引きそうなんて勘弁してほしいよ、まったく。


MLだったら天候操作スキルで毎日快晴に変えてやるのに…。



「へぇ、ここがレン君の空間創造スキルの世界なのね。マルシェのデフォルトの世界と比べると、結構な違いがあるのね」


「炎ぞう、ポチ、セト、アヌビス、光太郎!探検に行きますよ!」



名前の格差が凄いんだが。


確かに犬頭の人型ではあるけどさ、コボルトシャーマンにセトとアヌビスは荷が重過ぎるんじゃなかろうか。


かつてグレン達にグレディへ連れられた時にテイムしていたファングウルフリーダーのポチも、前よりもガッシリしてるし、こいつも進化したんだろうか。


光太郎は…、多分ウィスプか、ウィスプが進化したモンスターかな?ウィスプよりちょっと光球が大きい気がする。


俺達が居るのは、セシリアさんが言ったとおり、俺の空間創造の世界だ。


ライラがフェアリーズに会いたいと言うので、お菓子を作ってくれたことだしお礼も兼ねて招待した。セシリアさんとも約束してたしな。



「一応俺の空間創造もデフォルトですよ。ただフェアリーズが好きなように手を入れただけで」


「DPを使わなくても色々出来るってことかしら?」


「どうでしょう、スキルが許す限りなら何でも出来そうっちゃ、出来そうですね」



植林も、花園も、蜜採取も生産行為ではあるので、生産に関連してることなら問題ないのかとも考えたが、そうなると泉が説明付かない気がする。水が採取できるとはいえ、生産行為かと言われれば違うだろうし。


だったら、どんなスキルかに限らず、この空間内は好きに弄れる方がしっくりくる。例えば、素材さえあれば家だって作れてもおかしくはない。というか、昨日のうちにフェアリーズの小さな家が木の上に幾つも建っているんだよな。



「農業、林業はできるみたいなので、畜産、漁業とかも家畜や魚さえどうにかできれば可能だと思いますよ」


「此処を拠点にすることもできそうね…。スキル所有者以外のプレイヤーの出入りってどうなってるの?」


「基本的に毎回俺の許可がないと入れないので、俺がログインしてないと勿論出入りは無理ですし、ログインしてて許可があっても、スキルを発動した時のゲート以外の方法では入れませんね」



スキル所有者なら、記録の標さえ置いておけば転移可能だった。空間妖精のワープゲートで試したので間違いない。


だが、他のプレイヤーに許可を与えていても、転移などで此処を訪れるのは無理なようだ。必ず、俺が発動した空間創造のゲートを通って入ってこないといけないらしい。



「それなら心配しなくても大丈夫かしら…」


「何か心配事ですか?」


「この前のイベントでダンジョンボスを倒したプレイヤーが何人いたか覚えてる?」


「たしか4人だったと思います」



俺とマルシェさん、あと2人は知らないプレイヤーだった。


掲示板を流し見た感じ、有名プレイヤーってわけでもなさそうだったので、勝手にエンジョイ勢だと思っていたが、何か分かったのだろうか。



「正解よ。一人はML商会所属の生産職プレイヤーらしいわ。正確には、イベント後に勧誘されたみたいね。問題はもう一人のジェノスってプレイヤーの方で、なんでもPKだって話なのよ」


「PKですか…」



プレイヤーキラー、通常PKは、モンスターではなくプレイヤーを襲って金品を奪うプレイスタイルを指す言葉だ。


その手法は様々で、相手を狡猾に騙したり、罠に嵌めたり、真正面から挑むこともあれば、MPKと呼ばれるモンスターを使った襲撃まで存在する。


逆にPKを狩るプレイヤーのことを、プレイヤーキラーキラー、通称PKKと呼んだりするが、これ以上は蛇足だな。


そんなPKだが、MLでも一部制限の元存在しており、その制限というのが、未成年プレイヤーの保護システムだ。


未成年プレイヤーは、他プレイヤーからの攻撃をシステムとして保護してくれる設定があり、保護を有効にしていると、PKからも守ってくれる安心設計になっている。勿論、有効にしている場合は、こちらからの攻撃も通らない為、未成年でPKをしたければ保護を無効にしておく必要があるが。


つまり、俺はゲームシステム的に守られているのだが、成人プレイヤーは常にPKの恐怖と隣り合わせなのだ。



「MLってPKは許されているのだけど、旨みが少ないからそんなに数は多くないの。でも、愉快犯的にPKを愉しむプレイヤーも居て、そういうプレイヤーって相応に恨まれてるから、掲示板がプチ炎上してたのよね」


「まあ被害者からしたら、イベント上位にPKの名前があるのは面白くないでしょうね」


「それで心配してたのは、空間創造を拠点にしてPK活動されると、この上なく面倒だと思わない?そのPK一人だけなら、そう大きな問題にはならないだろうけど、PKにも闇クランなんて組織があるみたいだし、組織的に空間創造を利用されると厄介なのよね」


「言われてみれば面倒そうですね」



空間創造スキルは戦闘中には発動できないので、逃げる為に使ったりは出来ないが、それでも空間創造に籠もられたり、そこで準備されたりすると、こちらは後手に回らざるを得ないからな。


まあ、本人ならともかく、他のPKまで一緒に拠点に出来るようなスキルじゃないから、そう大きな問題にはならないだろう。


とはいえ、俺は保護を有効にしているので関係ないんだけどね。



「関係ないって顔してるけれど、油断は禁物よ。未成年プレイヤーでも、野良パーティにPKが紛れ込んでて、背後からFFで倒されたなんて話もあるし、奴ら嫌がらせに対しては余念がないんだから」


「うわぁ、そんなことしてbanされたりしないんですか?」


「あまりにも悪質と判断されればされるでしょうけど、滅多なことではされないわね。FFなんて初心者パーティでは日常茶飯事ですもの」


「野良パーティって意外と殺伐としてるんですね…」



そう考えると、リリース初期に野良パーティに参加しなくて良かったかもしれないな。


PKでもない一般プレイヤーに背後からズドンなんて、やる側もやられる側も故意じゃなくても、面倒そうだ。



「レンテさーん!向こうに見たことのないお花があったんですけど、あれなんですか!?」


「ああ、フェアリーフラワーっていう、昨日渡した蜜が採取できる花だよ。あっちの森には、フェアリーメープルっていう同じような楓の木があるぞ」


「本当ですか!?見に行ってきます!」



いきなり全速力で戻ってきたと思ったら、また全速力で森の中に消えていった。


訪れるたびに深くなっていく森を、フェアリーズの案内なく迷わずに進めるのだろうか?あまりに帰ってこなかったら、フェアリーズに迎えを頼めばいいか。



「フェアリーフラワーなんて聞いたことがないけど、どうやって育ててるか聞いても大丈夫?」


「ええ。といっても、セシリアさんから買った種を使って、妖精達が別の種に変えたみたいで、育ててるのも妖精なんですよね」


「別の種にってことは錬金?」


「フェアリーズが言うには錬金らしいです。でも、種を作るのも、育てるのも妖精にしか出来ないらしくて、唯一蜜の採取だけは蜂とか、樹液採集の方ならプレイヤーでも可能みたいですね」


「種族限定アイテムね。私も見てみたいのだけど、案内お願いしてもいいかしら」


「はい、泉を回った先にあるので行きましょうか。あ、そういえば」



魔力草は育てられてないけど、錬金の合成アイテムにはなったから、伝えておくか。絶対望んだ返答じゃないんだろうけど。



「魔力草育てられたわけじゃないんですけど、フェアリーシードを錬金合成する素材が、花の種+薬草の種+魔力草の種らしいですよ」


「もしかして、そのフェアリーフラワーを素材に薬を作れば、HP・MP回復のデュアルポーション作れたりしない…?」


「デュアルポーションですか?」


「有益な効果が二つあるポーションのことよ。レン君調合スキル持ってたでしょ、まだ試してないの?」


「調合スキルってインク専用じゃないってことについ最近気付いたばかりで、ポーション作成はからっきしなんですよ…」


「…そうね、レン君どちらかと言えば戦闘メインだものね。そのフェアリーフラワーって分けてもらえたりしないかしら」



溜め息でも吐きそうなセシリアさんだが、フェアリーフラワーの花畑だけは広げてもらっているので、多少の融通なら可能だ。


樹妖精の手に掛かれば、木と同じで花も増やせるみたいだが、花畑は程々に留めてもらっているため、花畑で広がっていっているのはフェアリーフラワーだけだ。



「生産用に育ててたわけじゃないので、景観を損ねない程度に多少ならお譲りしますよ」



いや一応生産用といえば生産用なんだが、花の方じゃなくて蜜用だからな。



「色を付けて買い取らせてもらうわ。ポーションとは別アイテムで、デュアルポーションが作れるとなると、需要は大きいはずよ」


「需要が大きくても、俺だけで満たすのは無理ですよ…」



誰か俺以外に妖精と契約できたプレイヤーっているのだろうか。



「あ、でも、ライラが作ってくれたお菓子にそういえば、HPとMPの回復効果があった気が…」


「それ本当!?」



フェアリーズのために作ってもらったお菓子だったので詳しく見てないのだが、たしかそんな効果だったはずだ、多分ね。


俺用にと別に包んでくれていたお菓子を確認すると、妖精花の蜜を使ったクッキーがHP・MP回復で、妖精楓の蜜を使ったマフィンがHP・MP回復に加えて、下位状態異常回復まで付いている。


ライラって本当に料理スキルのレベルが高いんだな。美味しいかどうかとは別に、追加効果を多数付けるには、スキルのレベルが高くないと無理なのだ。


それに、フェアリーズは美味しそうに頬張ってたし、料理の腕も相当高いのだろう。


ともかく、クッキーとマフィンの追加効果を見たとおりにセシリアさんに伝えた。



「もし仮によ?フェアリーフラワーじゃなくて、蜜の方だったらどのくらい取り引き出来そう?」


「うーん…、妖精花の蜜だけでいいなら、そこそこ大丈夫だと思います。妖精楓の蜜は、フェアリーメープルを増やせる目処が立ってないので難しいですね」



今日の時点で、フェアリーフラワーの花畑は最初の5倍ほどに広がっているが、瓶の関係上無数に増やすわけにもいかず、蜜の採取量は増やしていなかった。


なので、現時点でも毎日250瓶は採取可能である。



「じゃあ、一つこっちからも条件があるんですけど、一日に二千取り引き出来るように増やすので、代金とは別に、別で用意する蜜でクッキーを三百個作ってもらうことって出来ませんか?クッキーの代金は、蜜の取引額から天引きってことで」


「それは問題ないけど、まずはその蜜がデュアルポーションの素材になるかどうか調べないといけないわね。まあ、食料アイテムでその効果が出てるから心配しなくて大丈夫だとは思うわ」



おお、この取り引きが成立すれば、フェアリーズの食料事情が改善されて、ブラック企業から脱却できるぞ!



「着きました、ここがフェアリーフラワーの花畑です」


「これはまた、ファンタジーな光景だわ…」



抱く感想は皆同じなんだなぁ、と内心で苦笑する。



「それにしても、レン君が買い物に来たのって2日前よね?よくこんな森が出来上がってしまうものだわ。もしかして、空間創造の効果だったりするのかしら」


「樹妖精が何かしたみたいなんですよね。植物の成長促進みたいなスキルを持ってるんだと思います」


「プラントケアの強化版みたいなものかしらね。妖精ってつくづく生産職向けの契約種族で羨ましい限りだわ」



なんかあったな、そんな樹魔術。


使えるようになったのが太古の昔過ぎてすっかり忘れてましたよ、プラントケアさんごめんなさい!


よし、あとで使ってみるか!


でも取り敢えず、フェアリーズにフェアリーフラワーの花畑をもっと広げてもらうようお願いするのが先かな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最近見つけた中で1番のお気に入り作品 [一言] プラントケア...最初は世界樹に使ってあの鳥が仲間になると思ってましたねぇ...
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ