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12/月/(火)/水


夕飯を食べ、再度ログイン。


時刻は二十時、あと二時間といったところだ。


次は何を読もうか。


もう何時間も本の虫になっているが、読書は好きなので苦ではない。


教科書となると話は別だけどな。


魔術関連の本を手に取りながら、先ほど読んだ童話について考える。


一点、不思議に思うことがあった。



「どの童話でも、魔王って倒されてないんだよな…」



結末は様々だが、魔王が倒される描写は一つとして無かったのだ。


登場する魔王も様々だった。


人型から異形まで、男だったり女だったり、老人なこともあれば、子供として出てくることもあった。


なんというか、この先確実に魔王が出てくる未来が…。


まあ、今はそんなこと考えてもどうしようもないし、次だ次!


LV.1でどうこう出来るようなことでもないし、今は時間がないからな!



「[魔術大全・第一巻]か」



薄っぺらい本だ。


パラパラと目を通すが、ネットの攻略サイトや、掲示板にでも転がっている魔術しか載っていなかった。


第一巻ってことは、第二巻があるのだろうし、進まないと先の情報は分からないようになっているのかもしれない。



「でも、この魔法陣ってどうなってんだ?」



ゲームなんだから見栄え意識して、そこに意味はないと言われればそれまでだが、どの魔法陣も一つとして同じ紋様のものが無いんだよな。


見栄え意識のためだけにここまで作り込むだろうか?


見栄え意識なら、同じ紋様の魔法陣を属性によって色を変えればいいだけだと思う。


それに、魔法陣によっては共通する部分があったりするのも、気になった一つの要因だった。



「ちょっと調べてみるか」



それから閉館までの二時間、司書さんにも手伝ってもらいながら、より一層本の虫になった。






読書三昧から翌々日。


俺は少し空いてきたプリムス草原に来ていた。


空は茜色に染まっているので、さっさと目的を果たしてしまいたい。



「ウサギは…おっ、いたいた!」



目的はもちろんレベル上げ。


早急にレベルを上げる必要性が出てきたので、急遽やってきたのだ。


まずは落ち着いて詠唱を。


VRゲーム特有の脳波検知技術を用いた魔術行使。


使用可能な魔術を使いたいと念じれば、魔法陣が展開される仕組みだ。


俺が『ウォーターボール』を使う意思を持つと、杖を構えた先に直径五十cmほどの魔法陣が展開された。


魔術毎に設定されている秒数経過後、魔術名を口にすることで魔術は完成する。そして、狙った方向に射出されるのだ。


詠唱完了の目安は、展開された魔法陣が展開直後より少し輝く。



「『ウォーターボール』!」



『ウォーターボール』は初期魔術。


CTはごく短時間で終わり、草を食んでいた角の生えたウサギ〔ホーンラビット〕に向かって飛来する。


ホーンラビットは、このプリムス草原で二種類いるノンアクティブモンスターのうちの一種だ。


こちらが攻撃するまで無害なノンアクティブモンスターは、プリムス草原に出てくるモンスターの中でも初心者向きと言えよう。


俺は、水球が着弾するよりも早く次の魔術の詠唱を開始する。


樹魔術『ブランチニードル』。


師匠は二つの魔術を同時に展開していたが、あれは多分そういうスキルがあって初めて出来ることだろう。


濃緑色の魔法陣が展開されるのと同時、水球がウサギに着弾。


横合いから弾かれるように後退したウサギは、俺の方を確認するや否や突撃してきた!



「おっ、なんか遅く感じるな!『ブランチニードル』!」



合計五発の尖った枝が、怒れる角兎に向かって飛んでゆく。


チュートリアルスライムのおかげか、はたまた四つ腕猿の動きを観ていたからか、角兎の動きは緩慢に過ぎた。


次々と着弾する尖った枝は、突き刺さりこそしなかったものの四発目で弾き飛ばしウサギを光粒に変える。


空気に溶ける光を見て感慨に耽る…ことはなかった。


なんというか、チュートリアルスライムのせいで、すごく呆気ない印象が…。


レベルは上がらず、ドロップアイテムは[ホーンラビットの皮]と[ホーンラビットの血液]というアイテムだった。


一戦でレベルが上がるのは味気ない気もするが、称号効果で俺が得られる経験値は1.3倍加しているはずなので、それで経験値バーの十分の一程度なのはどう捉えればいいのやら…。



「ええい、次!」



もう一種のノンアクティブモンスター【ラージキャタピラー】でもいい!


とにかくレベルが上がるまで怒涛の戦闘だ!


意気込んで早々現れた角兎を、先程とは代わり映えのしない方法で倒し、倒し、倒した…。


あれ、他のモンスターは?


周りを見ると、狼型のモンスターである【ファングウルフ】と戦っているパーティはチラホラいるようだ。


もしかして、プリムス草原は角兎の比率が多いとかだろうか?


事前に調べた情報は、このフィールドに出るモンスターのことだけで、詳細な分布までは調べてないので、そういうこともあるかもしれない。



「今はレベルさえ上がれば何でもいいか!」



それから、芋虫を二匹、ウサギ三匹倒すのに、三十分ほど。


芋虫もウサギ戦と大して変わらないので割愛だ。


そして今、俺の前には他と変わらず草を食む危機感のないウサギがいた。


時刻は十九時前、あと少しで周囲は暗闇に染まるだろう。


しかし、こいつを倒せばレベルアップだ!



「俺の糧になれ!『ウォーターボール』!」



水球がウサギに迫る。それを確認しながら展開される濃緑色の魔法陣。


もう何度も繰り返した必勝のパターン!



「待ってください〜!それうちの子なんですぅ〜!」


「はっ?!」



突然聞こえてきたその声に、俺は条件反射的に魔術を方向転換させていた。


こう…なんというか、クイッ、と。


え…いやいや!魔術ってそんなことまで出来んの?!


やった俺自身が一番驚きつつも、狙いの逸れた水球はちょうどポップしたファングウルフに──。



「ウォンッ?!」



タイミングが良いのか悪いのか、この日初めて対敵することになった。



「なっ!?ええい、仕方ない!『ブランチニードル』!」


「ヴゥ〜」



速い!!


低く唸りながら駆けてくるファングウルフは、知らずに角兎に慣れてしまっていたようで、狙いつけたブランチニードルは尽く外れる。



「くっそ!」



そのまま駆け抜けてきたファングウルフは、牙を剥き出しにして飛び付いてきた!


咄嗟に杖ごと右腕を突き出す。


危うく拳もいかれそうになったが、間一髪杖に噛み付かせることに成功した。


狼が距離を取ったのをいいことに、RTが開けた『ウォーターボール』を再度詠唱し、今度は狙い違わず着弾。


続けて怯んだところに『ブランチニードル』の連撃も入り、ファングウルフは光粒となって空気に消えていった…。



〈LV.2に上昇しました〉

〈【水魔術】LV.2に上昇しました〉

〈【真・樹魔術】LV.2に上昇しました〉

〈【MP回復速度上昇】LV.2に上昇しました〉



「ふぅ…危なかった…」



もしあの噛みつき攻撃を食らってたら、慌ててミス連発とかしててもおかしくなかったからな。


咄嗟に杖を前に出せた自分を褒めてやりたい。



「あ、あの!大丈夫ですか!?」



声の聞こえる方向に顔を向ける。


レベルアップに喜ぶ暇は貰えそうになかった。



※済

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