120/日
「ハイパーミラクルデラックススーパーエキセントリックストリームだよーっ!!」
「だからその技名ダサいから変えた方がいいって」
「ハズレ!次だ次だー、オイラに続けー!」
「おー!」
「ま、まだ続けるの…。せ、せめて少しだけ、休憩を…」
くっ、何故こんな事に。
軽はずみな提案で、もう何体のアステリオスの影が犠牲になったというのか。
俺の脳内では、すぐに目的達成出来る筈だったんだ!
もしかして、RTA会場はこちらですか?
なんてことになっている原因は、数時間前に遡る。
アステリオスの影との戦闘を終えたボス部屋には、なかなか周辺被害を考えないような過激な戦闘だったにも関わらず、柱も壁も一欠けすらしてない様子の荘厳な神殿が鎮座していた。
神殿以外で違和感を覚えるようなものはなく、最後のボス戦だからなのか、個人的には宝箱が出現してないのは残念である。
玉座に関しては最初から無かったしな。
「前の時と同じなら宝箱はあの中だと思うぜ」
「お、神殿の中に宝箱あるのか」
「ダンジョンボスの宝箱は確定で銀以上ですわ。今から何が出るか楽しみですわね〜」
「極低確率でメイズアイアン製宝箱が出現することもありますよ」
「おい、そんな0に等しい確率の話して期待させるんじゃねえ。ありゃ神話の類だっての、狙うもんじゃねぇんだよ」
むむ…。メイズアイアンということは、最奥の間の扉と、その両サイドを固めていた像と同じ材質ということ。
つまり、ダークメタリック的な色合いをした格好良い宝箱に違いない!
あのミノタウロスの像は泣く泣く諦めたが、この言い方だと宝箱なら持って帰れるんだろうし、メイズアイアンは不壊だと言うし、これは目指さねばなるまいよ!
そんな意気込みを胸に神殿内へズカズカと進んで行く。
細部まで造り込まれた意匠は確かに芸術的なのだが、いかんせん場所が場所なだけに、寸分の狂いも見て取れないのが逆に、場違い感に直結していた。
「よくぞ試練を乗り越えた、駆け出しの英雄よ。君達の行末に僅かばかりの祝福を」
「[ケリュケイオンの杖]?」
「ダンジョンクリアの報酬ですね。このタイプは、それぞれ神の分体が配置されているのですよ」
「あたくし達がクリアした他の三つは、全部別の神の分体でしたわ」
「アステリオスの影みてぇなもんだから、会話も通じねえ。確か名前だけなら、あの神像の下に書いてあったぜ」
長方形の大広間、その最奥に据えられた巨大な神像を指差してサラが言う。
この広間に入った瞬間に現れた神の分体だという男は、2匹の蛇が絡み合うような意匠の杖を俺に手渡すと、すぐに霧散して消えてしまった。
確かに言われてみれば、神像と同じ顔をしていたかもしれないが…。ちょっと一瞬のことで自信がないな。
「ちぇ、銀箱かよ、しょっぺぇなぁ」
「まあ妥当でしょう。銀、金、メイズアイアン製しか出ないとはいえ、確率は九割九分九厘、銀の宝箱ですから」
「それはノームが絶望的に運がないだけ、一緒にしないで欲しいですわ」
「ふっ、今まで我々が一緒に攻略した統計から言っているのです。ですので、私だけではなく、我々の運の無さの証明ですよ」
「そんな格好付けて言うことかよ。かっこわりぃぞ、ノーム」
「ふん、煩いですよサラ。もうここには用事もないですし、さっさとあの記憶の標から脱出しましょう」
神像の真下、祭壇に供えるようにして銀箱が置いてあった。
ここまで来ると、神像の台座に刻まれた神様の名前も読むことが出来る。
「ヘルメス、か。オリュンポスの鍵からしてそうだけど、題材はギリシア神話なんだろうが…」
そうなると、少し異界の解釈が変わってくる。
もしかして異界って、人間界や精霊界のようなML独自の世界とは別に、現実の神話や伝承みたいなものを世界として落とし込んだ場所なんだろうか?
「レンテ、この後休憩を挟むとはいえ、少しでも長く休息を取った方がいいですよ。今なら予定より30分ほど長く休憩できます」
「まあ、この神殿には宝箱とダンジョン報酬回収する以外なにもねぇしな」
「これだけ立派な建築に、何故か記憶の標まで繋がってますし、勿体無いですわよね」
確かに、このだだっ広い空間にあるのは、巨大な神像と宝箱が置かれていた祭壇のみ。
洞窟の中だからあっても意味がないし、教会ではなく神殿なのだから無くてもおかしくないのだろうが、採光用のステンドグラスでもあれば、もう少しこの物寂しさをどうにか出来たんじゃないだろうか。
あとは、せっかく記憶の標でボスを無視してここに訪れられるようになっているのだから、長椅子でも並べればそれっぽく見えるかも?
いや、それじゃ完全に教会だな。
ダンジョンを完全攻略した者だけが訪れることができる最奥の教会。廃れて当然だな。
ともかく、ノームが言うように、この後ディーネ達とまたダンジョン攻略する事になるし、少しでも休んでおくべきか。
まあ、ダンジョンの外に出てるのも面倒だから50階層で休憩を取るつもりだが、ログアウトするので、実際の休憩時間は30分は7.5分なんだけどな。
「じゃ、供え物でもして一旦退却するか」
「供え物、ですか?」
「おう、だってこれ祭壇だろ?勿論宝箱は中身も本体も貰って帰るけど、本来は供物を捧げるものだろうし。まあ、信者ってわけでもないし、ヘルメス神の好物なんて知らないから適当に置いて帰るだけだけどな」
「言われてみれば、祭壇から盗んでるって解釈も出来るわな」
「考えたこともなかったですわね」
まあ、聖霊王はエルフから神格化して見られているみたいだし、どちらかと言えば供えられる側だろうからな。
ただ、供え物を何にするか問題がある。
うーむ…。
世界樹系アイテムはまだ数が残っているとはいえ限りがあるし、こんな思い付きに使うのも勿体無い気がするな。
いや、供えて何も起こらなければ持って帰ってもいいのだが、なんかそれこそバチが当たりそうで気が引けるし、一度供えた物は何か起こらなくても置いていこうとは思う。
そもそもダンジョンボスに介入している時点で、供え物の回収くらい簡単にするだろうという予想はあるんだけどな。
「よし、精霊大樹の実にしよう」
「まあ、それならば…」
「世界樹の実なんて供えようとしたら、殴ってでも止めるところだったぜ!」
「こんな訳のわからない神に世界樹の実を供えるくらいなら、あたくし達が食べて差し上げますわ」
サラとルクシアはともかく、ノームまで世界樹の実を供えるのは阻止してきそうな模様。
あんな極彩色の桃が本当にそんなに美味しいのか?
「取り敢えず、各属性一つずつ供えてみるか」
「精霊宮殿に戻れば補充できますからね」
幾らでもってわけにはいかないだろうが、世界樹の実に比べて、そこそこの蓄えがあるみたいだし、大盤振る舞いだ。
と、祭壇に炎を纏ったリンゴ、風を孕んだ梨と順に供えると、突然声が響いた。
伽藍堂としている神殿内部は割と声が響くのだ。
「おお!久々の供物が希少な精霊大樹の実とは、やるじゃないか君達!」
「なんか出た」
「封印されて以来、久々の客人だからね!眺めていたら、供物まで捧げるとは、君は見どころがあるね、えーっと誰君だっけ?」
「レンテです…」
「おお、そうかそうかレンテ君か!もう俺と君とは友達、いや親友なんだから、そんな堅苦しいのは無しにしようぜ」
「はあ」
やばい、コイツ凄く鬱陶しいぞ!
「あ、時間が無いんだったね!いや〜、久方振りでつい嬉しくて飛び出してきちゃったけど、本来は供物に応じた祝福を与えるだけで、姿は見せないんだけどさ!」
「はあ」
「『旅神の祝福』!うん、これで数日はこのダンジョン内で幸運が君達の味方をしてくれるよ!また、気が向いたら供え物してくれたら嬉しいな」
「はあ」
「じゃあ、我が親友と未知の精霊達、また何処かで必ず再会を!」
マジで何だったんだ…。
一応こっちの事情は汲んでくれていたようだが、会話とか様子を盗み見られていたのは、ここがヘルメス神の神殿で、彼の領域だからだろうか?
嵐のような神物ってのは正にヘルメス神に相応しい言葉だな。
「神ってあんなに鬱陶しい存在でしたかしら?」
「それは神によるのではないですか?私の知る神は、もっと物静かで、包容力のある方ですし」
「あたくしの知る神も、理知的で、調和を愛する、今のとは似ても似つかないですわ」
「そうか?神ってのは大抵どこか頭のネジが外れてんだろ」
サラの指摘に目を逸らすノームとルクシア。
どうやら、彼らの知る神様にも否定出来ない何かがあるらしい。
「し、しかしこの[旅神の祝福]という付与効果は凄まじいですね」
「人魔ダンジョン限定とはいえ、レアドロップ率上昇(中)、レアモンスター遭遇率上昇(中)、宝箱遭遇率上昇(中)、レア宝箱率上昇(微)、大盤振る舞いだぜ」
「効果時間はダンジョン内で四日、人間界では一日という事ですわね」
これ、捧げたアイテムのレア度やランクで、祝福の効果度合いが変わるってことか?
なるほど。
つまり、この後のダンジョン探索では期待していいということですね?
そして、冒頭に戻る。
何故か参加しているヒンメルと、ディーネ、シルフ、テネブの初日組と共に、アステリオスの影周回という理不尽。
思い返せば、ノーム達はこのダンジョンを探索したことがないのに、一日目組の探索成果を引き継いで、40階層から始められた。
何故そこに疑問を持たなかったのか。
どうやら、召喚系スキルを介して召喚されると、自分の到達階層は関係なく、召喚主基準で記憶の標で転移できるらしい。
まあ、そうじゃないとテイマー不遇になってしまうから、わからない仕様ではないんだが…。
何が言いたいかというとですね。
最奥の間前にあるレストルームの記憶の標に転移可能で、ヘルメス神のバフのこともあって、ついアステリオスの影グルグルしちゃってます!
ただ美味しい話ばかりではなく、0.001%が、0.0011%に上がった気分に苛まれているが…。
評価4000Pありがとうございます!
これからも自分が書きたいものを書いていくスタイルは変わりませんが、一人でも多く楽しんでご愛読頂けるよう精進して参りますので、これからも応援して頂けると幸いです!




