119/日
ダンジョンのボスはコイツ以外ありえねぇ!って最初から決めてました!
人間界とダンジョンとを繋ぐ異界の門をひと回り小さくしたような荘厳な扉。
扉の両脇には、今にも動き出しそうなミノタウロスの像が両脇を固めている。
異界の門の方は12、3メートルある巨大な門だったが、こっちは10メートル程だろうか。
異界の門の方はずっと開きっ放しなので意匠を確認出来てないが、こっちは閉じられた観音開きの両扉に、要所だけを守る軽装備をしたミノタウロスと思われる精緻な彫刻が彫ってある。
今までの10階層毎のボス部屋の扉は、3、4メートルとそこそこ大きな扉だったが、ただの実用的なだけの鉄扉だったし、きっとこの奥が最奥部なんだろう。
だとすれば、この扉の先で待ち構えているのは、最下層を護るダンジョンボスということになる。
多分、この彫刻の主がボスだと思われるので、少しでもこの扉から予想出来そうなことは読み取っておくべきだろう。
まあ、俺は邪魔になるし直接手は出さないんだけどな。
「斧と鎧はともかく、周りのは雷か?」
「どうやら、このダンジョンは鍵の一つのようですわね」
「また知らない要素か」
「異界を渡るための正規の手順ってやつだな。ほら、レンテはディーネが無理矢理連れて来たけどよ、本当ならそれぞれに定められた正規の手順を踏まないといけねぇんだよ」
「スピリタスはともかく、他の精霊界は難しい手順は必要ないので、その世界によって条件は様々ですよ。とある異界の条件がダンジョン最深部に安置された鍵の入手ということです」
「たしか昔、人間界でどこかの国が鍵の情報の為に戦争を吹っかけまくってた気がしますわ。人間界では、割と有名な部類の正規手段だと思いますわよ」
なるほど。
こいつらの昔話は、どのくらい昔なのか分かったもんじゃないので、話半分に聞くことにしているが、戦争まで絡んでいるとなると、文献すら残ってない可能性が微レ存です!
「それで、何でこのダンジョンにその鍵が安置されてるって分かるんだ?」
「私達が実際にこれと同じ扉を見たことがあるから、ですね。というより、この扉を見るのは四度目ですので、間違いないと思いますよ。全部で12本必要な鍵のうちの1つが、この奥で貰えるのでしょう」
「え、12本も必要なのか?正規手段ってそんな厳しいんだな」
「異界によって条件は異なるので、何とも言えませんね。ダンジョンのように、条件がない世界もありますから。ただ、スピリタスのように、相性次第でそもそも訪れることすら不可能な世界もありますので、鍵を集めるだけで誰でも行くことができるというのは、存外優しい条件だと思いますよ」
「取り敢えず、鍵の話は後にしようぜ。どうせ、この後手に入るんだしよ」
「そうですわね。記憶の標の登録も済ませましたし、休憩もそろそろ十分ですわ」
「時間的にもそろそろ動いた方が良さそうですね。レンテ、準備はいいですか?」
ダンジョン最下層はこれまでのボス階層とは異なり、ボス部屋前がレストルームになっているらしく、記憶の標もこの部屋に置いてあった。
少し休憩を挟んだことで、約束の時間まで残り1時間ほどだ。
立ち上がりながら、ノームに答える。
「情けない話だけど、俺は着いて行くだけだしな。今度は俺が強くなったら、一緒に鍵集め行きたいな」
「おう、帰ったら鍛えてやるぜ!」
「強くなったらではなくて、強くなりながら集まればいいのですわ」
「レンテにも矜持というものがあるのですよ。なので、是非お待ちしてますよ」
「自分以外に言われるとちょっと恥ずかしいけど、そんなところだ。じゃ、大人しく守られてるから宜しく!」
「最後まで格好が付きませんわね…」
ルクシアには呆れられてしまったが、事実なので仕方がない。
さあ、いざ決戦の地へ!
サラが扉に触れると自動で開いていく巨大扉。
これは他のボス部屋と同じ仕様だが、扉が大きくなると、感じる異様さも一入だ。
だが、休憩中から気になっていることがあって、実は自分が戦わないボス戦にイマイチ集中できてなかった。
「あの像は動かないので持って帰れませんよ。それに、最下層の扉とあの像はメイズアイアン製なので、持ち帰ることが可能だとしても、スタンピードが起こる可能性があるのでお勧めはしません」
「…はい、諦めます」
「んなこと考えてたのかよ」
「あれだけ物欲しそうにチラチラ見てたら丸わかりですわ」
スタンピードが起こるなんて言われちゃ諦めるしかないよな、うん。
そんな直前まで力の抜けるアホな一幕を繰り広げているうちに、完全に扉が開く。
「よくぞ辿り着いた、愚かなる英雄よ。この我を討ち果たし、世界を開く鍵の一つを手に入れてみせるがいい!」
「マジか、流石にダンジョンボスともなると喋れるのか!?」
「ありゃ、出迎えの挨拶みたいなもんだ」
「このモンスターは〔アステリオスの影〕、名前の通り影なので話す知能は持ち合わせてませんよ。誰が来てもこの定型文です」
「四回目ともなると、流石にもう少しバリエーションが欲しいですわね。手抜きが過ぎますわ」
えー、こんな絶対強者みたいな見てくれしてて影なのかよ。
黒というより深い藍色のミノタウロスは、通常のミノタウロスに比べて五割り増しで筋肉が分厚い。体高は3メートル弱と普通のミノタウロスと違わないように思う。だが、凶悪なほどに肉厚な戦斧は、当たれば木っ端微塵にされてしまいそうだ。
しかし、聖霊王に物理攻撃は通用しないという反則的な事実から鑑みると、一番厄介なのは、あのデフォルトで纏っているらしい雷だろうか。夜空のような体色と相まって、星の煌めきのようにも見えるそれは、あのすべてを蹂躙してしまいそうな斧よりも有効な自動迎撃システムだろう。
というか、そもそも喋らせる必要なかったのでは?
手抜きをしなかったが故の手抜きみたいなことになってるせいで、何となく漂う残念臭。
そんな残念牛の背後には、壁に埋まるように神殿があり、一言で言い表すなら在りし日のパルテノン神殿といったところだが、ボス戦の後には現在のパルテノン神殿のようになってしまわないか、若干不安である。
「往くぞ!」
「ご丁寧な宣言、痛み入りますってなぁ!」
「うへぇ、痛そう」
「よくもまあ、毎度毎度ダメージを無視して殴り合いますわね」
「私がレンテの護衛をしているので、ルクシアも行ってきたらどうですか?」
「最下層はここでしょうし、もう時間に追われる心配もないので、あたくしは見学で構いませんわ。サラと違って戦うことが好きなわけではないですもの」
雷なんてものともせず、肉体言語で語り合うサラ。
確かにあの凶悪な斧が雷を纏っていることを考えると、直撃を許せば少なからずダメージを貰うことになりそうだし、その対策として斧の得意な間合いより内側に入り込むというのは、理に適ってはいるのだろうが…。
そこ、雷痛くないですか?
「振り上げ!振り下ろし!タックルからの、振り向きざまの横薙ぎ!どうせ見てんだろアステリオス!たまには、影の強化したらどうなんだ、オラァ!」
「なぁ、ふと思ったんだけど、サラが言うように影が居るなら本体が居るってことだよな?」
「サラのあれは適当に言ってるだけでしょうが、順当に考えれば居るでしょうね」
「ってことはさ、そのアステリオスって奴がダンジョンマスターじゃないのか?」
ダンジョンのボスを自分の分身にやらせているような存在がいるなら、それはもうダンジョンのシステムに介入できる何者か、である。
それによくよく思い返してみれば、異界に関してもう一つ俺には判断材料がある。
それは師匠だ。
俺じゃないぞ?リンダ師匠の方です。
いや、正確に言えば、スプラが鍛治の特訓をしたという師匠の異界。
あまりにも頓珍漢な理由でダンジョンマスターの存在を信じていると豪語したテューラに呆れて場が流れてしまったが、あの王女もしや別の理由でダンジョンマスターの存在を確信していたな?
何度も聞いた、ダンジョンは異界の一種という説明からして、師匠が所持しているという異界ってのはつまり、師匠=ダンジョンマスターと捉えることも可能ってことだ。
それに、師匠の異界が人間界や精霊界のような異界ならば、ダンジョンマスターよりも上位の存在ってこともあり得るだろう。
「はぁ…、もう気づいてしまいましたか。いいですか、レンテ。アレらは、私達聖霊王よりよっぽど埒外の存在なのです。決して目指したり、打倒しようとするような相手ではありません。この世には興味を持つこと自体が危うい存在がいるのです」
「あたくしは今のうちから備えておく方が良いと思いますわ」
なんかまたミスリードされてた模様。
たしかサラとノームは、そんな規格外な存在居るわけないじゃん!みたいなこと言ってた気がするが、それに対してルクシアは居てもおかしくない派閥だったな、そういえば。
あの時の意見の食い違いは、俺に事実を認識させるかさせないかのやり取りだったらしい。
それにしては、テューラの「戦いたいのに居ないなんて許されない」(意訳)とかいうアホみたいな発言は未だに謎だけどな!
「【雷光の槍】!」
「うぉっ!?」
「どいつもこいつも、俺様無視して余裕だよなぁ!」
「流石にこのレベルになってくると、召喚主を襲うくらいの知能はありますか」
「え、俺が時々狙われるのってそういう理由だったのか!?」
「召喚された存在は召喚主を倒せば送還されてしまうのは常識ですし、召喚主を狙うのは定石ですわ」
すっかり忘れ去られていたサラvsアステリオスの影だが、突如俺を襲った雷の槍で、思考が戦闘に戻される。
まあ、ノームとルクシアに隙はなく、俺には1ダメージたりとも入ってないけどな。
しかも、話し込んでる間にかなり終盤戦に入っていたらしい。
もう1割と残ってないHPから考えると、先程の雷の槍は、HPが減ったことで変わった行動パターンの一つだったのだろう。
「俺を舐めてくれたお返しだ、受け取っとけ!【壊劫の焔】!」
「グォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
己の拳を白の劫火へと変質させたサラの絶撃が、アステリオスの残り少ないHPを灰燼に帰す。
あれは受けちゃダメなタイプの攻撃ですね…。
しっかりと間に合った斧の防御も、謎金属の胸当ても、その向こうに守られていた分厚い胸板も、全て蒸発、貫通し、灰すら残らない必殺の拳。
「よくぞこの我を討ち果たした、愚かなる英雄よ。願わくば残り11の我を打倒し、真なる我まで辿り着くのだ」
「これで四つ目だっての」
遺言?を残して消えていくアステリオスの影。
《【人魔ダンジョン】最奥の間ダンジョンボス〔アステリオスの影〕が レンテ 以下パーティにより初討伐されました》
《【人魔ダンジョン】が レンテ 以下パーティにより初攻略されました》
〈称号【我が前に道はなく】を獲得しました〉
〈称号【讃えられし者】を獲得しました〉
〈称号【最速人魔ダンジョン攻略者】を獲得しました〉
〈重要アイテム[オリュンポスの鍵(1/12)]を獲得しました〉
《レンテ がプレイヤーで初めて異界を渡るための正規手段の一部を獲得しました》
《一部情報を解禁します》
《特定の異界へ赴く為には、異界の扉を探す他に、扉を開けるための条件を満たす必要があります》
《その条件は、規定のステータスを満たす、特殊なアイテムの入手、特定の行動など様々です。中には条件が必要なく開く異界の扉もあり、ダンジョンなどが該当します》
《ダンジョンには、特定の異界へ渡るための正規手段が隠されていることがあるので、是非攻略してみてください》
《詳細はヘルプからご確認ください》
最初から決めてた割にボス戦あっさりなのは許して〜!!
いつか主人公が戦う時の為に…。
この小説が『面白い!』『続きが読みたい!』『う○こは食べたくない!』と思ったらブックマーク、下の評価★★★★★をお願いします!!ダイレクトにモチベに繋がるので、ウッキウキで続き書いちゃいますww




