11/日/月
うーむ。
「野良にでも参加するか…」
時刻は午後三時半。
今からだと、野良パーティを組んでも時間的に微妙かな。
あと数時間もすれば暗くなり始めるし、行ってすぐ暗くなっては、狩れるモンスターも狩れなくなってしまう。
たしか夜限定のモンスターとかも居るらしく、より一層危険地帯へと変貌するらしい。
プラスして、夜は光魔術や専用アイテムで光源を確保しないと戦闘はままならないのだそうだ。
諸々を踏まえても、昼間の戦闘に慣れてからじゃないと、手痛いしっぺ返しを食らいそうだな。
ってなわけで、完全に気持ちを切り替え、町の散策する方向にシフト。
「大体、まだ二日目なんだから焦る必要もないよな」
なにしろ、俺の目指すプレイスタイルは『ゆっくりのんびり』だ。
マイペースにダラ〜とやっていくのもありだろう。
心機一転、メインストリートまで戻ってきた。
改めて思うのは、プレイヤーの多さだ。
MLでは頭上に、プレイヤーなら青、NPCなら黄色、モンスターなら赤、というようなマーカーが表示される。
メニュー画面を開いた状態でないとマーカーは確認できないので多少面倒だが、プレイヤーとNPCの違いは分かりやすくなっているのだ。
例外として、プレイヤーはマーカー表示を消せるが、消してる時点でプレイヤー確定だからな。
つまり何が言いたいかというと、一見大型都市のような賑わいを見せているプリムスだが、その実ほとんどはプレイヤーだということだ。
町の規模に対して、プレイヤーの数が収まりきっていないような印象を受ける。
「おお、ここは増して凄いな」
町を四分割するメインストリートの交差点。
そこはプリムスにいくつかある噴水広場が三つは入りそうな円形の中央広場があった。
この中央広場を取り囲むように、主要施設が鎮座しているので、プレイヤーが多いのも頷るだろう。
初日にグレンと合流した中央広場南東に位置する冒険者ギルドも、その主要施設の一つだ。
中央広場の中心には、何やら意味深な結晶のような祭壇があるが、リリース二日目ではその謎も解明の糸口すら見せていない。
そんな人が多いだけのエリアを素通りしていく。
主要施設ばかりが集まっているこの区画は、町の散策という観点において観るべきところは少ないのだ。
粗方、情報が出揃ってるのもあるが、分かりやすく人が多過ぎて散策どころではない。
少し人に酔いそうになった俺は、プレイヤーが出来るだけ少ない場所を、と目的を改めるように西のメインストリートから小道に逸れてみることにした。
翌日。
「それでそのあとは?」
「プリムスの北西側の散策したんだけど、行政区というか、高級街というか。貴族の屋敷みたいなのもあって、割と面白かったよ」
現実では見ることのないような大きな屋敷だった。
朝のホームルーム後の時間、昨日の成果をトモと二人で報告しあっていた。
貴族屋敷はどうやらプリムスの領主館らしい。
屋敷の門番が丁寧に教えてくれた。
曰く、「こ、これはリンダ様のお、お弟子様!?領主様に何かご用事でしょうか?」だと。
ただ通りかかっただけだったので、用事はないことを告げると何故かホッとされたのには少し納得できなかったが。
師匠って何者なんだ?
「そのあとは、またブラブラしてたら図書館見つけたんだけど、夕飯の時間だったしログアウトしたかな」
「ふーん…ってお前まだレベル」
「LV.1だな」
夕飯のあと、風呂やら何やら済ませてログインしたのが二十二時。
街灯はあったものの周囲は薄暗く、当然のように図書館も閉館していた。
いや、閉館時間が二十二時になっていたので、絶妙なタイミングでインしたと言えよう。
ただ、そこでやる事も思いつかなかったので、今日はまた図書館前からスタートということになるな。
「そういうトモはどこまで進んだんだよ」
「俺は──」
と、タイミング悪く予鈴でトモの言葉をシャットアウトする。
「また次の休み時間にでも話すよ」
一限目は数学だ。
ログインしました。
初めてこの町を見たときは、石造りの建物が多いように思ったが、少し散策してみて認識を改めた。
割と木造建築も多く、その例に漏れず目の前の図書館も木造だった。
ただし、冒険者ギルドのような実用性重視の建物とは違い、趣を感じさせる落ち着いた印象の建物だ。
中に入ると正面に司書さんらしき人たちが詰めている受付があった。
使用する際の勝手も分からないので、取り敢えず受付へ。
「ようこそ。当館のご利用は初めてですか?」
司書の制服なのか、お揃いのピッシリとした服装の女性が応対してくれた。
眼鏡が多いのは、運営の偏見だろうか。
「はい」
「ではまず、ここにお名前を」
出された用紙の言われた箇所にレンテと記入する。
「はい、ありがとうございます。では、次に注意事項を説明させていただきます」
と、司書さんが説明してくれたのは次の六つ。
一つ、本は丁寧に扱うこと。
二つ、魔法で保護されているので早々無いが、万が一本に傷や汚れを付けてしまった場合は、受付まで持ってくること。その場合、修繕費を求められる場合があること。
三つ、本に修復不可能な傷や汚れを残した場合、罰金が発生すること。
四つ、本の持ち出しは原則禁止。ただし、自身で複写するのはOK。
五つ、飲食は厳禁。
六つ、閉館時刻を過ぎても戻らなければ外に追い出すこと。
他にも館内では静かに、などの細々としたものもあったが、大きくはこのくらいだった。
六つ目はあれだな、ゲーム的な部分なので説明が分かりにくかったが、要約すると『館内でログアウトした場合、二十二時を過ぎると館外に放り出します』ってことだと思う。
以上の説明を受け、最後に。
「利用料は1,000Gとなっております」
出てきたウィンドウをポチッと。
「はい、たしかに。複写用の用紙が入用の際はこちらで取り扱っておりますのでご活用ください」
「はい、ありがとうございました」
紙も売ってるらしい。
でも、プレイヤーにはスクショもメモ機能もあるし、紙なんていらない気がする。
まあ、雰囲気は大事か。
「さて、気になる本を片っ端から読んでくか」
時刻は十七時。
学校から帰宅してすぐログインしたので、夕飯でログアウトするにしても、まだかなりの時間がある。
学校でグレンから得た情報によれば、この図書館には様々な本があるらしい。
そのほとんどは協賛品の現実の本らしいが、MLオリジナルの童話や、学術書、武芸の指南書なんかも置いてあり、戦闘職も通う価値のある場所なのだとか。
ただ、MLの時代背景からか、ゲームとしての側面からか、歴史関係や、周辺地理の類の本はほとんどないらしい。
「まずは童話からかな」
こういうオリジナルの童話などは、今後どこかで関わってくる可能性が高いからな。
読んでおいて損はないだろう。
それから、二時間ほど。
ここにあった童話関連をあらかた読み終えた。
割と現実で見かけるような設定のものも多く、ドラゴンに囚われた姫を英雄が助けたり、駆け出しの冒険者が妖精の女王に恋をする成り上がり物語だったり、勇者だったり、精霊だったり、神だったり、魔王や悪魔だって出てきた。
俺の一押しは“世界に愛された姫君”かな。
物語の大筋は、魔王に囚われた勇者様を、ドジっ子属性を持ったお姫様が助けに行くギャグ漫画…もとい、物語だ。
どんなに絶対絶命の状況でも、世界がお姫様の味方をする。場所が違えば天災と呼ばれるような自然災害でさえ味方につけて、囚われの勇者を助け出すのだ。
この物語のオススメどころは内容ではない。
まあ、終始笑える展開ではあるが、一番は何といっても、どの重要場面においても姫様が杖を掲げている点だろう。
火山の如く台地から噴き出す溶岩も、天を割る雷も、大海そのものが押し寄せるような大津波も、突如隆起した岩の大壁も。
魔法陣こそ描かれてないものの、それは魔術の行き着く先のように思えた。
※済




