115/日
※感想でもらった一部箇所を修正しました。
本編物語が変わるような修正はしてないので、読み直しは必要ありません。
いつも感想・評価・ブクマ・いいね、有難うございます!
動物にはそれぞれ、鳴き声といえばコレ!というような既成概念がある。
例えばそれは、犬であればワンワン、猫であればミャ〜オ、猿であればウキキー、鼠であればチュウチュウ、ヤギであればメェ〜、と言ったような、こう鳴くんだろうと多くの人が認識を共有している鳴き声。
その点で言えばこいつは完璧だ。
だってこのモンスターといえば、この鳴き声しかあり得ないと思わせる音を正確に再現しているのだから。
「ブモォォォオオオオオオオオオオオ!!!」
「おお、この鳴き声は正しくミノタウロス!外観がいくら格好良く凛々しくても、鳴き声ですべて台無しにすると噂のミノタウロスさんじゃないですか!」
「よく分からないこと言ってないで、早くスキルを使ってください。油断してると、轢き殺されますよ?」
「ナチュラルに怖いこと言うのやめてくれませんかね。【畏怖】【絶望覇気】【英雄覇気】!」
雄々しく太い二本角をこめかみから生やし、精悍な顔付きの雄牛の顔、パワー型であることを誇示するような引き締まった肉体、力強く大地を踏み締める双脚。
51階層から担当のモンスターは、〔ミノタウロス〕。
オーガと同じで職業持ちではないようだが、素手だったオーガと違って、ミノタウロスは斧を標準装備しているようだ。
その立ち姿だけで相手を怯ませるほどの強者の威圧を発していたのだが、やはりミノタウロスさん。一度絶叫を響かせるだけで、ギャグ枠に転身してしまうのは流石と言えた。
「畏怖と絶望はバイオレットオーガの件があるから、さっさと片付けないとな!」
「ミノタウロスは水と突属性に極端に弱いと聞いたことがありますわ。【魔術付与】『ウォーターランス』『魔弓技・アローレイン』!」
「おおう、セレスのコンボがブッ刺さってんな、【一撃粉砕(魔)】『フロードプレス』!」
弓術は物理の中でも基本的に突属性が得意な武器種だし、アローレインで物量増し増し、その上水魔術で突属性も備え持つウォーターランスでの追い討ちと、やりたい放題です!
俺が使った魔術は、セレス曰く水属性が弱点とのことだったので、水魔術LV.15でウォーターランスと一緒に使えるようになった、濁流で押し潰す魔術だ。
ウォーターランスの方が相性的にも、威力的にも上なのだが、使ったことのない魔術を使ってみようの回である。
「レンテ、前衛のことも考えて魔術選んでください!ダメージが無いとは言っても、乾くまで動きづらいんですよ!?」
「あ、すまん」
うん、いきなりぶっつけ本番はダメですよね。
魔力同調のおかげでFFは気にしなくていいし、魔術でずぶ濡れになっても時間経過で綺麗さっぱり乾いてしまうので忘れがちだが、一応魔力が世界に還元されるまでは(マーリン爺の教え)、影響を及ぼすんだよな。
味方にダメージが無いってことが頭の中で先行し過ぎていて、前衛への迷惑考えてなかった、すまぬ…。
しかし、そんな風に文句を言いつつも、ミノタウロスに張り付くように前衛を熟すテューラの動きは、攻撃が掠ることすら想像できない安心感があった。
バイオレットオーガ戦では、自分が好きなように戦えなかったフラストレーションでも溜まっていたのだろう。割り増しで活き活きとしております。
そして。
「これで、終わりです!『ピアシングフィスト』『ウォーターランス』!」
「おうふ…」
奥さん、王女殿下が貫手ですって!場合によっては血塗れた鮮血姫なんだが…。
テューラの貫手は、あれだけ強靭に思えた肉体を難なく貫き手首から先を埋め込ませ、体内から水の槍を弾け飛び出させ、戦闘に終止符を打った。
「やはり雑魚一匹にも、そこそこ時間を取られるようになってきましたね」
「いや、それはそうなんだけど…。もう少しこう、戦い方考えた方がいいんじゃないのか…?」
「レンテまで私を諌めようというのですか?この戦い方はリンダ様から教わったもの、そう易々とは変わりません!」
「嘘つけ、あの非常識な師匠でも、流石にここまで酷い戦い方教えるかよ。俺は師匠のネームバリューじゃ怯まないからな!」
「くっ、リンダ様の名前を聞いて畏れないなど、さてはレンテは人間ではありませんね!」
「名前聞くだけで畏れてちゃ、師匠の弟子なんて務まらねぇよ」
称号のせいで常に居場所把握されてるってのに、その程度で口を噤むほど脆弱ではありません!
「テューラもレンテも、あまり歯に衣着せぬ物言いばかりしていると、私の口が滑ってしまいますわよ?」
「む…」
「うぐ…」
まさかセレスが牙を剥いてきただと!?
油断していた?いいや、無意識のうちにセレスはこちら側ではないと勝手に判断して、この醜いマウント合戦の敵候補から排除していたのだ。
こうも鮮やかに一本取られると、下手に出るしか道がないわけで。
「な、何がお望みでしょうか、セレスティア様…」
「そうですわね。レンテにはここでしっかりと、精霊界に私達を連れて行くと約束して頂きたいですわ。そしてテューラには、私と一緒にお父様を説得してほしいですわね」
「まあ、こっちに問題が飛び火しないなら、精霊界に連れて行くのは問題ないけど…」
「その程度ならいくらでも力添えしますよ」
精霊界に行くにあたって、王女という立場的に問題が発生するのはどう考えても自明の理であり、それを自分達で解決してくれるなら、俺がその問題に巻き込まれないのなら、別に連れて行くことくらいどうということはない。
「おお、考えたじゃねぇかティア!あの頑固ジジイ共が扉を開かねぇなら、別のところから行けばいいんだな!」
「ハイエルフの長老達が心配するのも無理はありませんよ。なにせ、ティア以外に精霊宮殿まで供ができる存在がいないのですから」
「何でもいいじゃありませんの。ティアとテューラが来るのなら、おもてなしの準備をしておかないといけませんわね!」
そういえば前に、精霊界は他に幾つもあるけど、始まりの地たるあの精霊界に自力で辿り着けるのはセレスだけとか、そんな話を聞いたような気がする。
今後プレイヤーが成長すればその限りではない気もするが、現時点でセレスは唯一の特別な存在なのかもしれないな。
なんて一幕がありつつも、探索行を進めていく。
道中、どうやら51階層からは、上の階層には無かった面倒な特徴が追加されていた。
「悪路に坂道が加わったことによる疲労、上下の起伏による通路の複雑化、そして単純な視界が遮られることによる見通しの悪さ、一気に難易度が上がったような気さえしてしまいますね」
「坂道だけで、こうも変わるものかね」
「先程の落石罠は最悪でしたわ」
通路に新たな要素として坂道が追加された。
プレイヤーじゃないテューラとセレスは起伏によって疲労が溜まりやすくなるし、索敵や罠の発見にも多少影響が出てしまっている。
坂道によって階段を使わない同階層内での上下移動が必要になり、より複雑に迷路化されてしまったことで、探索時間はもっと伸びてしまうだろうな。
そして罠についてもひとつ。
何度かこれまでも確認している落石の罠だが、これが坂道と併用されることで、より凶悪な変化を遂げていたのだ。
まあ、ベタではある。ベタではあるんだが、実際に目の前で起こると、冷静に対処できないというかですね…。
急に通路が狭まるからおかしいとは思っていたのだ。
まさか、こうもベタに通路幅にみっちりと、ギリギリの大きさの丸型の落石が転がってこようとは…。
途中でノームが止めてくれなかったら、どこまで全力疾走で戻されることになったやら。
まあ、落石罠と坂道コンボで一番酷いのは、途中解除せずに無視してた罠を全部発動させながら転がってくるところだけどな!
おかげで、魔法罠だけではなく、物理罠の全解除も余儀なくされている現在。
我がパーティにも本職シーフ求む!切実に!




