109/日
滅茶苦茶ギリギリ、投稿3分前まで推敲した結果こうなりました、許してください。
〈【集中】LV.10に上昇しました〉
〈【体幹】LV.10に上昇しました〉
〈【運び】LV.10に上昇しました〉
〈【罠感知】LV.10に上昇しました〉
〈【罠解除】LV.10に上昇しました〉
只今43階層。
探索を開始して5時間が経過しようとしていた。
オーク階層では一つの階層を攻略するのに1時間を切ったこともあったというのに、少し探索は難航していると言わざるを得なかった。
その原因はいくつかあるのだが、大きいものが二つ。
一つ目がオーガ、二つ目が罠だ。
そう、罠なんだ。
いや、まずはオーガについてだが、テューラとそこそこ打ち合っちゃってるというか、撃ち合っちゃってる時点で、多少の手間が増えることには目を瞑らないといけないのだろう。
どちらかと言えば、今までがおかしかっただけであり、ここからが俺達のダンジョン探索本番だと考えればいい。
問題は二つ目の罠にあった。
罠の中でも昨日のうちに体験した各種罠はそれほど問題ではない。
壁系も、振り子系も、状態異常系も、嘆きの大穴でさえ、現代の整備されたアスファルトのように快適に通過できる異常事態だからな。
そんな異常事態を引き起こしているのは、他でもないノームであり、シルフ以上に滅茶苦茶だったのだ。
「壁が動くなら動かないように固定してしまいましょう」
「振り子ですか、ではこれも動かないようにしてしまいますね」
「ガスと吹き矢で状態異常…ふむ。噴出口を塞ぎましょう。なに、多少距離が離れていたところで問題ないですよ」
「こんな子供が砂場に掘ったような稚拙な穴、埋めたてることなど容易ですね」
これらの発言は全て、ノームが罠を無効化しながら吐いたセリフダイジェストである。
物理系の罠は、固定するか、塞ぐか、橋を渡すかの三択で無効化してしまった。
流石に嘆きの大穴を埋め立てようとし始めた時には、時間が掛かりすぎるからと説得して橋を渡すだけに留めてもらったが、それでも今日の時短の立役者がノームになることに疑いの余地はないだろう。
これは一応レインの思いついた作戦であり、せっかく教えてもらったのでノームに頼んだら想像以上に快適すぎる事態になったというわけだ。
それなのに罠の何が問題なのか。
それは、遂にアレが出てき始めてしまったせいだった。
魔法属性を絡めた罠の登場。
ひとえにこれが、昨日の快進撃を容易に続けさせない大問題になっているのだ。
しかし、魔法罠の全てが足を緩める障害になっているわけではない。
中には、ちょっと火が吹き出したり、水圧ビームだったりと、ダメージを負うことはあっても、即死亡に繋がるような魔法罠はまだまだ少ない。
場合によっては無視できる程度の罠もあり、嘆きの大穴の追加ギミックとして設置されていたアスレ中に強風から煽られる罠なんかは、ノームが強固で広い足場を用意してくれる我々には何の苦もなく突破可能な罠だった。
しかしその一方で…
「っ!?また魔法罠だ!」
「仕方のないこととはいえ、厄介に過ぎますね…」
「罠の判別ができないことが、これ程もどかしいとは思いませんでしたわ」
そうなのだ。
悔しいことに、今の俺の罠感知のレベルでは、どんな系統の魔法罠なのか判別できなかった。
それどころか、スキルレベルが足りないせいで、物理系の罠はちらほら発見に遅れてしまう始末。
物理系は今のところテューラの別スキルでの補完と、ノームの物理的な強制無効化でなんとかなっているが、件の魔法罠だけは如何ともし難い状況だった。
幸いと言っていいのか、魔法罠には完全と言っても過言ではないくらい罠感知が働いてくれているのだが、これに関しても油断は禁物だろうな。
何故なら、既に一つ凶悪な魔法罠に嵌ってしまっているのだから…。
時は少し遡り、42階層探索中の出来事。
まるで昨日の「罠に嵌めたけりゃ魔法属性使ってこい!」と、余計なことを考えてしまったせいとでも言わんばかりに、少しずつ顔を覗かせ始めた魔法罠を、時に慎重に解除、時に無視しつつ、たまにミスって発動させてしまいながら探索行を進めていた。
「そこの右壁、物理と魔法の複合罠だな。物理の方は振り子罠っぽいけど、魔法罠の方はやっぱまだ看破出来そうにない」
「複合罠だと解除に手間取りそうですね。レンテ、罠を無視して進めそうな安全に通り抜けられる場所はありますか?」
「通路の左側は割と安全みたいだ」
「では、出来るだけ壁際を抜けて先へ進みましょう」
罠解除スキルは、ステータスのDEXが多少なりとも関わっているというのが掲示板で囁かれている。その他にも、殺傷性や複雑さ、規模などによって解除できる確率が変動するらしいのだが、物理や魔法だけの罠よりも、複合罠だと解除難度が上がる傾向にあるらしい。
あとは、同一の罠を解除した経験があると少し成功率が上がるという報告もあるみたいだが、これは不確かな情報なんだとか。
それはともかく。
一度だけ道のど真ん中にドドンと設置されていた複合罠があり、止むを得ず解除することになったのだが、失敗に失敗を重ねて十分弱の足止めを喰らってしまったのは記憶に新しい出来事だった。
「物理罠みたいに何か安全な強行突破法でもあればいいんだけどな」
「楽ばかり覚えてしまうのも少々問題ですわ」
「そうですね、ここで一度足踏み出来たのは結果的に良いことなのかもしれません」
嗜められてしまった。
しかし俺は、きちんと頑張るべきことを頑張っているのなら、多少の楽は許されると思う派閥なので、何か思いつけば実行してみる所存です!
まあ、ダンジョン探索において、罠解除は頑張るべきことの一つなのかもしれないが。
いやいや、それはこのパーティ編成がおかしいだけであって、俺は本職ではないのだから、多少のズルを試してみるくらい許してください!
「おっと、今度は魔法罠だ」
さっき手こずったのと同じ、通路を埋め尽くすなかなかに大きな罠のようだ。
例に漏れず内容は不明の為、解除する以外の選択肢はないが、また成功するまで結構時間を取られそうだな。
「っ!?左通路の奥からオーガ3!」
「おいおい、このタイミングは不味いだろ」
「レンテはオーガが到達する前に罠解除できないか試してください!ノーム様とルクシア様は、オーガが罠を踏み抜いた場合に備えてレンテの側に!セレスとサラ様は、私と一緒にオーガを近づけさせないように攻撃を!」
少々俺の扱いが過保護すぎる気もするが、貧弱で足も遅い魔術士のおままごとシーフだからな。
まだ視界に入ってないが、オーガが到達するまでにこの魔法陣を解除できるとは俺にも到底思えない。
しかしその上で一縷の望みに賭けているのは、この魔法罠がランダムテレポートなどの悪辣な類だった時の備えなのだろう。
「【罠解除】【罠解除】【罠解除】【罠解除】【罠解除】!」
罠解除を発動するのにも一応MPをコストとして支払うので、減った分をMPポーションで補いながら、とことん連呼する。
ノーム達に倒してもらわずとも、足止めしてもらっている間に、可能な限り強化して遠距離から自分達で倒し切るというのも手ではあるんだろうが、魔法罠越しに制御が難しくなりがちな高火力攻撃は、誤発動させてしまう可能性を排除し切れない。
罠解除連呼しつつ、視線をオーガが出てくるであろう通路に固定していると、遂にオーガが現れた。
そして、一匹のオーガの行動を見てテューラが叫ぶ。
「レンテ、逃げなさい!ノーム様、防御を!」
だが、その判断は致命的なまでに間違っていた。
「違う!絶対に魔法罠の上に落とすな!」
オーガが振りかぶった右拳から放たれた第一波。
魔法罠を綺麗に躱してうねる地面は、無数に降り注ぐ瓦礫を一片たりとも取り零さなかった。
聖霊王の名に恥じない見事な仕事っぷりに拍手!
そして、左拳から放たれた第二波も難なく完封。
ノーム様、アンタ間違いなく聖霊王や!
こんな強キャラに全任せな戦闘してていいのかとつい疑問に思ってしまうが、偏ったバランスを今の手札で補うにはこれしかないので仕方ないし、各々納得してるのでこれで良いんです!
だが、瓦礫を落とさないことに集中し過ぎたのもミスだったらしい。
「いけませんわ!オーガが!」
ノームの魔法で視界が数秒遮られたのと、瓦礫処理を邪魔しない為に牽制が緩んでしまい、解き放たれた残った2匹のオーガは、猛然とこちらへと迫ってきていたのだ。
普段だったら慌てずとも問題のない彼我の距離。
しかし、オーガに踏み抜かれた横たわる巨大な魔法罠は発動してしまった。
気がつくと目前には床が、いや天井?と、浮かぶ思考を一蹴するように自由落下を始める感覚に無意識に叫ぶ。
「ぬわぁァァァア!!しぬしぬしぬしぬしぬ!!」
オーク階層よりもさらに少し広くなった洞窟の天井スレスレに強制転移させられたらしい平凡な高校生には、突然投げ出された10メートル強の落下を回避する方法など思いつけるはずもなく…。
自らの紙装甲を呪い死を覚悟したその時、勇ましき女神に救われた。
「この程度で泣き言とは、少し根性が足りないのではないですか?」
まさに気分は、窮地を王子様に救われた姫だった。
だってお姫様抱っこされてるんだもの。
こんな近距離でマジマジと見つめるの初めてだが、さすがプレイヤー人気No.1というだけあって、絶世の美貌である。
まつ毛なが〜、目パッチリ!鼻筋は通ってるし、どこまでも透き通るような肌、唇ぷるるんだ。
俺自身に小並感という言葉を送りたくなるほどに、語彙力が乏しいが、女性への褒め言葉はこれから勉強していこうな、俺よ。
しかし、座っているのを遠くから眺めれば、楚々として奥ゆかしさすら感じられるというのに、実に残念な王女様だ。
まあ、取り敢えず。
ここは窮地を救われたヒロインとして果たさなければならない役目がある!
しっかりとテューラの瞳を見つめて一言。
「…好き」
うーん、落第点?
もうちょっと恥じらいが伝わるような言葉を足すか、吃ったりするべきだっただろうか。
つい思わず呟いちゃった系で攻めてみたんだが、思った以上にテューラの反応が薄過ぎる。
いや、別にテューラに面白い反応なんてこれっぽっちも期待してないが、呆れるでも罵倒でも、反応が皆無だとそれはそれで寂しくもあるしな。
くっ、今回は俺の負けを認めるしかないか…。
とはいえ、いつまでお姫様抱っこしておくつもりだろうか。
俺とテューラ以外がどうなったのか周囲に顔を巡らせれば、ちょうど魔法罠があった範囲内にバラバラに転移させられているようだった。
俺みたいに洞窟の天井ギリギリに転移させられたのは、オーガ含めていなかったのか、みんな怪我らしい怪我はないっぽくて一安心。
別にオーガは、そこら辺の石筍に突き刺さっててくれてよかったのだが。
それに、滞空可能で物理ダメージ無効な聖霊王様には落下ダメージなんて概念が存在しないんだったな。
って、そうか。
俺も精霊化すればみっともなく叫ばなくても助かった説が濃厚じゃね?
世紀の大告白も失敗に終わったし、今回は失敗続きだな。
ともかく、反省は後にしてオーガの始末が先決だろう。
「助けてくれてありがとな。だけど、そろそろ降ろしてくれ」
「…」
反応がない。
「おーい、早くしないとお前の大好きな戦闘が終わっちまうぞ」
「はっ!?だ、だだだ大好きだなんて、そんな小っ恥ずかしいことを、何故こんな状況で言えるのですか!?」
反応はしたがなんか違う。
しかしなんだこの反応は…?
頬を若干朱に染めて、生娘のように慌てふためくテューラは新鮮ではあるが、普段が普段なので違和感しか感じない。
テューラはこういうのに慣れているものだとばかり思っていた…というか、王女という立場上慣れているはずなのだが、予想外にピュアなんだが。
待てよ?
いやいや、理由なんてなんでもいいじゃないか!
あったぞ、見つけたぞ!テューラの弱点!
「なるほどなるほど。テューラはこういう乙女チックな展開に弱いと、メモメモ…。いや、不意を突かれると弱いのか?」
「…」
あれ?
またダンマリ決め込んでしまったが、もう既に何度か掌の上で転がされている身としては、少しくらい仕返しをしても許されるはずだよな!
「…ふふふ、良いでしょう。レンテのお気持ちは十分理解しました」
「お、おう。取り敢えず、降ろしてくれないかなぁ、なんて…」
やめろ!そのまま駆け出すんじゃない!
おい、魔術って足からでも発動できるのかよ!?
「ひぃっ!?【活気】!」
今掠ったって!HP二割飛んだって!
まさか活気スキルの初めての出番がこんな情けない使い方になるなんて!
「その挑戦状お受けいたしますよ、レンテ」
その今までに見たことない笑顔やめてくんないかな…。
心が底冷えしそうなほどの恐怖を植え付けられそうなんです、許してください!
「貴方が私のことを好きだというのなら、ぜひ婚約して差し上げますよ」
「なんて悍ましいこと言いやがる!くそっ、離しやがれ!」
なんて怪力、指が外れねぇ!
NPCとプレイヤーが婚約なんて無理とか、そんなシステムがMLにあるのかとかの疑問よりも、テューラなら不可能を可能にしてしまいそうで怖い!
ちくしょう、失敗した!
目に見える弱点に飛びついてしまったせいで、過去最悪の罠を誘発させてしまった!
こっちが本当の罠だったとでも言うのか!?
きょうのきょーくん!
めさきのりえきにとらわれてはいけません!




