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105/土


確かにオークは頑丈だ。


レベルが二回り近く離れているテューラの一撃で沈まないくらいの耐久性を誇っている。


しかしその一方で、状態異常に滅法弱い性質を持つらしい。


まあ、俺の魔術もテネブの魔術も、今のところ状態異常はレジストされてないし、テューラが二撃目には倒してしまうので実感できてないが、そういう性質を持つらしい。


何が言いたいのかといえば、駆け抜け攻略から通常攻略にシフトした時くらいの違いしかなく、テューラの快進撃が未だ続いているせいで、モンスターに関してはそれほど難易度の上昇を感じられないということだ。


だが、罠に関しては別だった。


テューラ曰く嘆きの大穴と呼ばれているらしい罠を始め、勢いよく天井が落ちてくる罠、同じように壁が反対の壁に勢いよく閉じて打ち付けられる罠、毒ガス、痺れガス、眠りガス。落とし穴の底が鋭い剣山になっていたり、斧の振り子、猛毒針。


殺意の塊のような多種多様な罠に歓迎されていた。


ゴブリンやコボルトと違ってスキル的な罠が少ない一方で、ダンジョンギミック的な罠が増えてきているのは、単にオークという種族がゴブリンコボルトと比べて、罠を使うことが少ないからだと思われる。



「こりゃ、モンスターにまで手こずってたら、精神ガリガリ削られそうだな。罠が凶悪過ぎる」


「そうですね。レンテにはこれまで以上に頑張ってもらわないといけません」



戦闘中の子供のように輝いている笑顔より、今の黒い笑みの方が可愛らしく思えるのが、テューラの怖いところだな。


現在三十六階層の下へ向かう階段がある方のステアーズルーム。


ここまで4時間半と実に好調なタイムであり、日付変更まで残り13時間なので、目標の40階層までは余裕を持って辿り着けそうである。


ただし、時間的な余裕はあるが、今日は余った時間で40階層より先に進まない予定だ。


まあ、それもイレギュラーなく順調に済めばな話だが。


と、ここで闖入者が現れた。



「おや、ボアオークですか。ステアーズルームに侵入者というのも稀ですが、1匹かつレアモンスターというのも珍しいですね」


「なあ、どう考えても称号が生えてからレアモンスターの頻度がおかしいんだけど、まさかそのうちボスまでレアが現れたりしないよな?」


「レアなダンジョンボスというのは聞いたことがありませんわね」



これでボアオークは3体目である。


掲示板を流し見た感じ、20階層以下にもレアモンスターは存在するらしいのだが、クー・シーに遭遇するまで欠片も気配がなかったのに、いきなり出現回数が増えるとなると、原因はひとつしか思い当たらないわけで。


まあ、クー・シーに関しては1匹目はともかく、2匹目以降はフェアリーズ効果というか、1匹目のクー・シーのせいもあるんだろうし一概には言えないが、ボアオークはホイホイ現れ過ぎだ。


もしかして、レアモンスターによって出現確率が違ったりするのだろうか?


ともかく、ボアオークは二足歩行であることは変わらず、豚というより猪のようなモンスターだ。


黄ばんだ鋭牙と毛深いのも特徴的だが、なんと言ってもでっぷりしたオークより幾分かスマートに思える。


強さに関してもなかなかで、ヒートストロークとコールドスナップの[熱病][凍傷]をレジストされた時は驚かされたものだ。


テューラの攻撃を二発耐えた上に、俊敏さもなかなかのもので、レアという呼称に相応しい強さを兼ね備えていた。


だが、それでもイレギュラーというには些か物足りないがな。


建ててしまったフラグが即回収されてしまったが、反応した脅威が火力不足な模様。


部屋に侵入してきた瞬間に、急接近したテューラの猛攻に耐えられず沈んでしまっている目の前の光景がそれを物語っていた。



「あともう少し手応えが欲しいところですが、下層に期待するしかありませんね」



変な高望みをぼやきながらテューラが戻ってくる。



「レアボスとは違いますが、死の祝福(イレギュラー)はボスでも起こりえますよ」


「イレギュラー?」



レアボスよりも厄介そうな単語だ。



「冒険者の間で死の祝福と呼ばれるイレギュラーは、ダンジョンより地上で度々耳にする事象なのですが、全てのモンスターに起こり得ることでもあります」


「レンテは人族とモンスター、その違いが何処にあるか考えたことがございますか?」



セレスの問いに頭を巡らせる。


人族とモンスター。


スキルがなくても意思疎通が可能という点でいえば、知能だろうか。いや、違うな。意思疎通なら、コボルトシャーマンだって戦闘指揮をしていたわけだし、会話ができるかどうかならともかく、意思疎通となると別か。


であれば、知能指数的な話か?


こっちも微妙だと言わざるをえない。それなら、モンスターとの差異というより、人族と動物の違いでも同じ答えになってしまう。まあ、一部の動物は人間より頭が良いって話も聞くし、モンスターであっても、まだ見ぬドラゴンとか圧倒的に人より頭良さそうだよな。


ちなみにだが、このMLの世界にもモンスターとは別で動物はいる。街中では犬や猫、森では小鳥やリスなど見かけることがあるあれらは、モンスターではなく動物の場合が多い。


じゃあ、モンスターと動物の違いがなんなのかという線引きだが、プリムスの図書館で読んだ本に書いてあったのは、体内の魔石の有無が大きな違いなのだとか。体内に魔石を保持しているモンスターは、詠唱時間を極端に短くすることが可能で、武技や魔術の行使速度は精霊をも凌駕するらしい。


なんてここまで考えているが、プレイ初期に読んだ書物の知識がスラスラと思い出せるのは、ゲームならではの便利な機能だな、と改めて思う。


それはともかく。


エルフ族やドワーフ族、獣人族と一緒に、人族と一括りにされることがある我々にも、魔石を持つ種族は存在するらしく、彼らのことを魔族と呼称するようだ。


なので、人族とモンスターという括りに変えて考え直しても、魔石の有無が二者を別ける要素とは言えないだろう。



「う〜ん…。色々と思い当たる節はあっても、これ!と断言できるような答えは出てこないな」


「人族とモンスターの明確な違いは、モンスターは魔素と瘴気から生まれてくることです。特定の種族同士の差異であれば、細かな違い、天使族には翼があり空が飛べますが、ゴブリンは飛べないなどありますが、それはまた別の話ですからね」


「瘴気とは、負の感情から発露するエネルギーとも、邪神が溢す陰鬱な気配とも言われますが、未解明な部分が多いのですわ。という瘴気の話はともかく、人族とモンスターにはそれ以外に大きな違いは殆どないということですわね」


「端的に言えば、モンスターも成長します。経験値や熟練度を稼ぐことでレベルを上昇させ、進化する、そうやって本来発生するはずのない場所で、生まれてしまった脅威のことをイレギュラーと、屍の上に築き上げられた絶望という意味を込めて、死の祝福と呼ばれているのです」


「なるほど、モンスターも俺たちを倒せばレベルアップするのか。でも、地上のモンスターなら分かるけど、ダンジョン内は個別空間なんだから関係ないような気がするんだが」



ダンジョンには二種類あるという話はテューラから聞いた話で、この洞窟型のダンジョンはインスタンス、パーティ毎に別の空間に飛ばされているはずなので、通常モンスターならともかく、ボスは階層移動で自ら経験値を稼ぎに遠征でもしない限りレベルが上がるとは思えない。



「なにも経験値を得る方法は、モンスターを倒すことだけではありません。戦闘行為以外にも、主に生産行為でも経験値は取得できます。そして微量ではありますが、日々生活しているだけでも経験値を取得しているのです」


「ダンジョンボスは特に薄暗い洞窟の中でお暇でしょうし、訓練でもしていらっしゃれば、経験値はそこそこ入ってくるのかもしれませんわね」


「つまり、人の手が入っていないダンジョンの深層ほど、初回は手強いボスがいる可能性があるってことか?」


「このダンジョンは封印されていましたので期待してたのですが、今のところ死の祝福の気配が無くて残念ですね」


「そんなこと考えてたのかよ…」


「一応補足しておきますと、ダンジョンの死の祝福には、モンスターのレベル上昇以外で起こる例外がありまして、それがダンジョン内で短期間にモンスター以外の生物が一定以上死んでしまった場合に発生する、ダンジョンからモンスターが異界を超えて地上に溢れてしまう現象で、ダンジョン特有の死の祝福としてスタンピードと呼ばれますね」


「じゃあ、冒険者が大量に流入してる今ってヤバいんじゃ…」


「ちょっとやそっとでは起こらないので大丈夫ですよ。とは言っても、スタンピードはこのダンジョンが封印されていた理由のひとつでもあるのは否定出来ませんが」



もう既にイレギュラーが指し示す現象が存在するんですね…。


イレギュラーがー、フラグがーと何も考えずに出た言葉だが、すみません。スタンピードの話は心の奥底にしまっておこう、うん。


だって、もし仮に明日にでも起こってしまったら、俺が原因じゃなくても、俺発信で出回った情報だと色々と憶測が飛び交いそうだし。


緊急クエストから昨日の今日でスタンピードは大変不味いんです!


決してまんじゅう怖いではありません!


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― 新着の感想 ―
[一言] 現実逃避は良くないなぁ……仮想現実の中だけど どう考えてもイレギュラーが発生してそうなんだよねぇ……
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