中級天使ザキエル
とある村のはずれにある一つのみすぼらしい小屋。そこにはその小屋には似合わない美女が住んでいた。
「ああ、また君か。今日も話を聞きに来たのかい?」
その女性は私が来る時は必ず異国の文字で何かを書いていた。いやもしかしたらずっと何かを書き続けているのかもしれない。
「なに?いつも何を書いているのかって?昔の仲間と友たちとの記憶を忘れないようにと思ってな…。
ん?その話が聞きたいと。まあいいだろうが…信じないだろうしおとぎ話とでも思って聞いてくれ」
彼女はいつものように淡々と私に向けて語りだした。
「私は堕天した元天使だ」
「あれは忘れもしない二万六千四十五年前だ。私は彼女に会った時からこうなる運命だったのだろう」
六対の翼を持つ美しい天使が跪く天使に手をさし伸ばす。
「お前…私のもとに来ないか?」
「喜んでお仕えいたします」
天使…それは神に仕え、人や生き物を導き、時には罰を与える神の手足のような存在。その中でも上級天使、中級天使、下級天使の区分がある。その中級下の能天使がこの物語の主人公だ…
「おはよーございまーす!」
まだ神と人が共存していた時代、天を見上げると神々の国が見え地を覗くと人々の生活が見れた。
そんな時代の、地上界。明るく陽気な天使は空を飛び回り、人や獣、人ならざる者達に笑顔で会いに行く者がいた。
「あらザキエル様。おはようございます」
「天使のおねえちゃんおはよおございまう」
「ザキエル様ー、今日もパン焼けたけ後で来てくださいね」
彼女の名前はザキエル。地上に赴き人々と関わり、見守る使命を受けた天使である。
天使、それは神により生を受け神のために命を賜り神からの祝福を生命に与える役割を持った神の手足である。階級こそあれどそこに上下関係はないが尊敬の念を込め強い天使、威厳のある天使を敬うこともあり、敬われている主な天使は七大天使があげられる。ほかにも個人で敬われている個体も少なからず存在する。
上級三隊。その上位から熾天使、智天使、座天使。
中級三隊。その上位から主天使、力天使、能天使。
下級三隊。その上位から権天使、大天使、天使
神、それは光・空・海・自然・人・動物を作りし全能なる神。すべてのものは神によって創造れ、全ての魂は冥界に通じる。
天使は神から一つだけ役目をそれぞれ言い渡される。神界の護衛を務めるもの、神の補佐をするもの、そしてザキエルのように地上巡り、見守るもの。このほかにも多くの役目があり、それぞれの役目の天使が遂行している。
「みんなおはよー!今日もいい天気だねー」
「ええ、神の祝福に感謝します。ザキエル様は今日も見回りですか?」
「そうだよー。最近何か起きた?」
「最近ですか…。ああ、そういえば農夫のグリナスの妻が子供を身ごもりまして、良ければ祝福を与えていただけないでしょうか」
「赤ちゃん出来たの、とっても嬉しいことだね!」
まだ天使が人の前に姿を現す時代、良き人良き魂に対し天使は祝福を行った。祝福を行うことで病気が治る、生活がよくなるというようなことは出来なくもないがそれは神が人に対して与えた試練、人自らの手で解決しなければならないものなのだ。祝福とは神が人々を見るための一種の監視用具である。
そして祝福は神だけではなく天使も見ることが出来る。どの天使が与えた祝福かすら判別は容易にできてしまい、自分からの祝福を受けたものの居場所は遠くてもはっきりとわかり、それが誰かも分かる。そのため名前さへ聞けばその者がどこにいるのかすぐわかり、飛んでいける。
グリナスは村はずれの湧き水が湧く崖の下に畑を作り、農作業を生業として妻のメリルと二人で暮らしている。二人の暮らしは決して裕福なものではなかったが、それでも自分たちにとって一番の幸福を目指し穏やかに暮らしていた。
「おはよーございまーす!グリナスさーん、メリルさーん」
「あら、おはようございますザキエル様。今主人は隣町用事があって不在なのですがなにか急用でしたか?」
「ううん、ただねメリルさんが妊娠したって聞いたからおめでとう!って言いたくて来ちゃったんだ」
「村の人から聞いたんですか?私たちの初めての子供だからってみんな大騒ぎで。いろんな物を贈り物として下さるの」
「じゃあ私からも祝福を」
ザキエルはメリルの腹部に手を当て、直後暖かい光がメリルの全身を包む。
「これっで良しっと、元気な子供が生まれるといいね♪」
「ありがとうございますザキエル様。この子が生まれたらこの子に会いに来てください」
「うん!絶対行くよ!楽しみに待ってるね♪」
グリナスによろしくと伝えてくれとメリルに言い、別な村を目指して飛んで行った。