プロローグ
たぶん、パンツが丸見えだ。
ボーダーのやつだったか、レースのやつだったか、プチプラには違いないのだが、さっきお風呂から上がったばっかりだというのにもう忘れている。
直線を全速力で駆け抜けて、少し左にカーブ。
道路工事の砂が溜まってて少し滑った。こういうの、ドリフト走行って言うんだっけ。初めてやった。転ばなくて良かった。
スカートは制服、上はよれよれTシャツという謎の格好で家を飛び出してしまった。こんな姿で自転車の全力立ち漕ぎなんかしてたら、アタシの下半身はとんでもないことになっていることだろう。
だから、なんだ。こんな夜中にうろついている奴なんか、いやしない。
雑草だらけの土手が目立ってきた。もうすぐ公園の入口。もうすぐ。
スマホが鳴った。
街灯が見える。普通はあそこから入るものなんだけど、近所に住むからこそ知っている最短ルートがある。だから私は今ここ、この場所で自転車を乗り捨てる。ガシャンと。
降りたと同時に走り出す。肺が潰れるような苦しさ。またスマホが鳴った。
走りながらスマホを操作して、電話をかける。すぐにつながった。
大きな木の下、ベンチの上。人影が見える。私は叫んだ。
「死なないでよ!」
人影はスマホを耳に当てたまま振り返る。
「来てくれた」
涙を流す式森オサムがいた。