『運命の赤い糸』にクソッタレを
物心ついたときからそれが見えていた。左手の小指から伸びる赤い糸は、何かを探すようにあっちへふらふら、こっちへふらふら。人々の間を彷徨い、他人の赤い糸と交わっては離れてを繰り返す。
母親から伸びる糸が、父親とは別の男に繋がる瞬間を見たのは偶然だった。
糸が見える範囲はそれほど広いわけじゃない。母親に連れられて散歩に出た先で、母親と男は出会った。
その瞬間、二人の赤い糸は互いに絡み合い、溶け合い、そして母親は俺たち家族を捨てた。
家族として積み上げていた諸々が、一瞬の出会いに負けた。クソッタレな赤い糸に負けた。
運命の赤い糸だと? だったら俺はなんだ。俺たち家族を捨てた母親が、運命でもなんでもなかった父親と作った俺はなんだ!?
父親の赤い糸と、再婚した女の赤い糸が繋がっているのはなんだ!?
切り落としてなくなった俺の小指があった場所から、それでも伸びてくるクソッタレの赤い糸はなんだ!?
その糸がお見舞いにきたクラスメイトと繋がったのはなんだ!?
こんなのは間違ってる。クソッタレな赤い糸に負けるなんてありえない。
浮遊感は一瞬で、衝撃が全身を襲った。
目に入った血で視界が真っ赤に染まり、クソッタレな赤い糸は見えない。
痛みよりも安堵を感じて目を閉じた。
俺は運命に勝った。