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第八十二話「救出作戦:その2」

 時は白の賢者が傀儡(くぐつ)にされた頃に遡る。


 その頃、黒の賢者は7人の賢者が集まる会議室、通称“賢者の間”にいた。

 既に灰の賢者と白の賢者を除く、4人の賢者と共に円卓に座っており、静かに全員が集まるのを待っている。


 白の賢者からは実験中であり不参加の連絡があったが、筆頭である灰の賢者はなかなか現れない。


 イライラとしながら5人は待ち続け、20分ほど経った頃に、灰の賢者が慌てた様子で姿を現した。


「遅かったではないか」と黒の賢者が言うが、灰の賢者は一言、「あなたのせいよ」と告げる。


「どういうことだ?」


 何のことか分からない黒の賢者は訝しげな眼を灰の賢者に向けた。それに対し、灰の賢者は呆れたような表情を浮かべた。


「彼の仲間を研究所に引き入れてしまったのよ、あなたは。その対応で遅れたの」


「何? 実験体の仲間だと……」と絶句するが、すぐに開き直る。


「それがどうしたのだ? 私の掛けた暗黒魔術を解除できるほどの者はおらぬのだ。何もできぬ」


 そこで灰の賢者は肩を竦めるような仕草をする。


「既に行動を起こしているわよ。白の賢者が拉致されたの」


「白の賢者が?」


「まだ確認できていないけど、傀儡にされた可能性が高いようよ。今、私の部下が彼らを追っているわ」


「無駄なことを」と黒の賢者は嘲笑し、


「白の賢者といえども、私の施した暗黒魔術を解くことはできん。無駄な努力だ」


「それならよいのだけど……まあいいわ。いずれにしてもこれはあなたの失態。責任をもって、この件を片付けなさい」


 その上から目線の物言いに黒の賢者は苛立つが、自らの失敗であることは明らかであるため、何も言わずにその場を立ち去った。


 残された5人の賢者は誰一人動こうとしなかった。彼らは念話で部下たちに指示を出したものの、白の賢者があっさりと拉致されたという事実に、自らを危険に晒す場に行くつもりはなかった。


 赤の賢者が野太い声で発言する。


「本当に大丈夫なのか? 黒の賢者の失態とはいえ、僅かな時間で白の賢者を拉致とした手際は侮れんが」


「そうね。私たちと同等の能力を持つ存在、つまり魔王軍の手練が絡んでいる可能性が高いわね」


 灰の賢者はそう言うものの、あまり危機感のある言い方はしなかった。


「ではどうするのだ? あれを奪われるのは惜しいのだが」


 赤の賢者はハイヒュームとなったライルを確保しておくべきと考えていた。


「それに関しては同感よ。でも、それほど悲観していないわ。思慮の浅さはともかく、あれでも大陸有数の暗黒魔術の使い手だから」


 その言葉に赤の賢者は頷く。更に灰の賢者は続けた。


「潜入してきた間者がどの程度の腕を持っているかは分からないけど、魔王でも来ない限り、彼の魔術が解かれることはないわ」


 そこで青の賢者の中性的な声が話に割り込む。


「そこまで楽観してよいのか? ハイヒュームについては分からないことが多い。自力で解除する可能性は否定できないと思うのだが」


 黒の賢者は自らの能力が疑われると考え、ライルが自力で魔術を解除する可能性については言及していなかった。しかし、研究棟にある多層魔法陣を利用することから、青の賢者はその可能性に気づいた。


「それは見落としていたわね。なら、全員で黒の賢者を支援した方がいいと思うのだけど、どうかしら?」


 見落としていたと言ったものの、灰の賢者は最初からその可能性に気づいていた。しかし、他の賢者たちの協力を取り付けるため、黒の賢者だけに任せられないという芝居を打った。

 灰の賢者は面倒だと思いつつも、癖の強い同僚たちをどう上手く使うか常に腐心していた。


 灰の賢者の作戦は成功し、4人が同時に頷く。


「では、それぞれの対魔族部隊を黒の賢者の研究棟に集めてもらえるかしら。指揮は統一したいから、黄の賢者にお願いしたいわ。他だと研究棟を壊し兼ねないから」


 対魔族部隊はストラス山脈にいる魔族を監視するだけでなく、研究所に潜入しようとする魔族の間者を撃退する部隊だ。身体能力が高く、セブンワイズの中では戦闘力はずば抜けている。


 黄の賢者は土属性の魔術師だ。

 4人の中では最も温厚な性格であり、土属性も施設の封印に適していることから妥当といえるだろう。


「貴殿が指揮を執ると思ったのだが」と黄の賢者が確認する。


「万が一、転移魔術で逃げようとしたら、私が直接阻止しないといけなくなるかもしれないから」と答える。


 この研究所には転移魔術を防止する特別な魔法陣が設置されているが、彼女自身も同じように時空魔術を妨害できるため、二段構えの措置が必要だと訴える。

 4人の賢者はもっともだという感じで頷いた。


 4人の賢者が会議室から出ていくと、灰の賢者は自身の部下に念話を飛ばし指示を出していった。


『監視を続けなさい。何かあればすぐに報告を……』


 灰の賢者は指示を出し終えると、会議室を出ていった。



 黒の賢者が研究棟に到着した。

 そこで部下から白の賢者が現れ、ライルのところに向かったと聞かされる。


「警備担当を早急に向かわせろ。実験体以外の生死は問わん」と命じた。


「白の賢者様が囚われておりますが」と部下の一人が聞くと、


「白の賢者も実験体の重要度は理解しているはずだ。傀儡になった時点で自らの生死に拘泥しておらぬから気にする必要はない……」


 そう言った後、命令を変えた。


「奴らを発見次第、攻撃を加えよ。第一目標は白の賢者だ。万が一、実験体に掛けた隷属魔術を解除されると面倒だからな」


 その命令に部下は頷き、即座に命令を伝達していった。


 黒の賢者の命令を受けた警備担当の兵士と魔術師は多層魔法陣の部屋に向かった。

 部屋は地下にあり、急いで階段を下りていく。


■■■


 ライルを確保したローザたちは研究棟にある多層魔法陣がある地下室に向かっていた。


 多層魔法陣はモーゼスが考え出した汎用型の魔力増幅魔法陣で、複数の魔力結晶(マナクリスタル)から効率的に魔力を取り出し、対象となる魔法陣もしくは術者に集中させるものだ。それにより、発動させる魔術の出力を飛躍的に上げることができる。


 汎用型と呼ばれる所以は属性に依らず、純粋な魔力を集めることができるためだ。今までは目的に合わせた魔法陣を一々作り直す必要があり、その構築だけで長い時間が掛かっていた。


「その魔法陣を使えば、ライル殿は解放されるのだろうか」とローザが不安そうにモーゼスに聞く。


「白の賢者が、時間が掛かると言ったのであれば可能だろう。魔力を増加させることで時間短縮は可能なのだからね」


 モーゼスはそう言ったものの、内心では難しいと考えていた。


(白の賢者の能力に依存する。もつれた糸を強引に引きちぎるのなら可能だが、解くのであれば、魔力の量は関係ないのだから。だが、このことはローザ君には言えぬな……)



 先行していたローザたちだったが、催眠状態のライルや老齢のモーゼスの歩みが遅かった。目的地に着く前に後ろから複数の足音が聞こえてきた。


「この場は某が時間を稼ぐ。アメリアはライル殿とモーゼス殿を頼む」


「しかし……」とアメリアが言いかけるが、ローザはそれを遮り、


「暗黒魔術の使い手がおらねば何が起きるか分からぬ。それにこの通路は狭い。某が一人で戦った方が都合がいいのだ!」


「分かりました」とアメリアは答え、ライルの手を引きながら案内役のモーゼスの後を付いていった。


 すぐに兵士と魔術師が現れる。

 セブンワイズの本拠地ということもあり、兵士の質は高く、レベル400に迫っている。しかし、レベル570のローザの敵ではなかった。


 3人の兵士が問答無用で斬りかかるが、ローザは愛刀の黒紅(くろべに)を一閃させ、瞬く間に斬り伏せる。

 更に魔術師から火属性や風属性の魔術が放たれるが、刀で打ち消しながら魔術師に肉薄し、10人ほどの追撃部隊は1分も掛からずに全滅した。


「この程度ならば、某だけでも十分だな。あとは賢者が出てくるかだが……」


 そう考えつつ、アメリアたちに追いつくべく、廊下を走り始めた。


HJ小説大賞2020後期の1次選考を通過しました!

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同一世界観の作品のリンクを貼っておきます。

『【ラスボスグルメ外伝】 ジン・キタヤマ一代記~異世界に和食と酒を普及させた伝説の料理人~』
まだ読まれていない方はご一読いただけると幸いです。
設定集もあります。
 「千迷宮大陸シリーズ設定集」
興味のある方は覗いてみてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 戦力の逐次投入は愚行……狭い通路なら射出系魔術で飽和攻撃すればいいのに、とか考えてはいけない。ローザには頑張って時間を稼いでもらわないと。 ……ローザのピンチにはギリギリのところで間に合って…
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