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第七十話「黒の賢者の偵察隊」

第三者視点です。

 4月24日の午後6時頃。

 スールジア魔導王国の王都、シャンドゥのある屋敷に魔術師たちが円形のテーブルについていた。

 その数は7人。それぞれ違う色の仮面を被り、仮面と同じ色のローブを身に纏っている。


 テーブルの中央には一枚の手紙があった。

 灰色の仮面を被った魔術師、灰の賢者が話し始める。その声は威厳に満ちているものの、若い女性のものとしか思えないソプラノだった。


「スタウセンバーグからの伝令がノーラ・メドウズを通じて送ってきたものよ。送り主はモーゼス・ブラウニング。内容だけど端的に言えば、私たちに対する脅迫。黒の賢者が設置した大規模な魔法陣が魔物暴走(スタンピード)の原因だと噂になっているという内容よ」


「あれはスタンピードを起こすようなものではない」と黒い仮面の男、黒の賢者が反論するが、灰の賢者はそれを無視して話を続ける。


「黒の賢者が推薦したマーカス・エクレストンが問題を起こしたわ。彼は魔術至上主義者のネイハム・ラヴァーティを呼び寄せ、ブラウニングを殺そうとしたそうよ。これも黒の賢者が関与しているとね」


「私は知らんぞ」と黒の賢者は言うが、他の6人は無視している。


「その上で七賢者(セブンワイズ)が今回のスタンピードの終息に寄与しないのであれば、黒の賢者が怪しい実験を行ってスタンピードを引き起こし、それに気づいたブラウニングを抹殺しようとしたと告発すると書いてあるわ」


「そのような戯言は無視すればよい」と黒の賢者が言い放つ。


「その意見には同意するわ。ブラウニングが告発しようが、スールジアの王宮は動かないし、私たちの権威に傷一つ付けることはできないのだから」


 灰の賢者がそういうと、黒の賢者は満足げに頷く。


「ただし、あなたが何もしなくてもいいという話でもないわ。そもそもスタンピードを放ってここにいること自体、おかしな話よ。あなたが引き起こしたことなのだから、責任をもって後始末をしてもらわないとね」


「何度も言っているだろう! あれは私の起こしたものではない! 全くの偶然なのだ!」


「そんな戯言を言っている時間は過ぎたのよ。少なくともセブンワイズとして何らかの行動を起こさないと、ブラウニングとは関係なく、変な噂が独り歩きしてしまうわ。だから、あなたが何とかしなければならないの」


 灰の賢者の言葉に、黒の賢者を除く5人が頷く。


「少なくとも避難民の救助にいくべきだったわね。今更だけど」と低い女性の声の白の賢者が発言する。


「そうね。ブラウニングがこの手紙をスタウセンバーグに届けさせたということは既に避難民は王国軍に保護されているということ。次に打つ手としては、誰かがグリステートに行って、状況を確認することね。スタンピードが始まって既に3日も経っているから、スタンピード自体は終息しているはず。ただ、魔物で溢れていることは間違いないから、その確認をして、今後の対応方針を決める必要があるわ」


 スタンピードは短くて50時間、長くても80時間で迷宮から魔物が出てこなくなる。これは過剰となった魔物が外に出たことで、迷宮が正常に戻るためだ。しかし、一度外に出た魔物は迷宮の(くびき)を逃れ、自由に行動し始める。


 前例から判断すると、グリステートのパーガトリー迷宮で発生したスタンピードは既に終息しているか、終息の直前という状況だ。今から向かえば、確実に終わっている。

 しかし、ほとんどの魔物は人がいる町を目指すものの、その場に留まるものも少なくなく、スタンピード終息直後の迷宮周辺は危険だ。


「それを私にしろと?」と黒の賢者が不機嫌そうに灰の賢者に言った。


「ええ。もちろん、1人で戦ってくれてもいいのよ。その方が私たちとしても面目が立つのだから」


 黒の賢者はその言葉を無視して立ち上がった。


「確認に行けばよいのだろう!」と言って、テーブルをバンと叩くと、不機嫌さを隠そうとせずに部屋から出ていった。


 黒の賢者はすぐに部下を呼び、高速型の魔導飛空船を用意させる。

 そして、部下たちと共にグリステートに向けて出発した。

 もちろん、グリステートに自ら乗り込むつもりはなく、100キロメートルほど離れた場所から偵察隊を出すためだ。


 飛空船を使ったのは彼の部下の移動能力ではシャンドゥから直接向かえないためだ。また、比較的人が少ない南から接近することで、スタンピードで溢れた魔物との接触の可能性を下げることも目的の一つだ。


 翌25日の午前9時頃、目的地に到着した。

 黒の賢者は飛行魔術が得意な部下、5名を選抜する。


「グリステートの状況を確認せよ。あの町に潜入していた者を見つけ出し、あの者がどうなったかも確認するのだ」


 この時、黒の賢者はライルを監視させるために潜入させた部下3名が既に全滅していることを知らなかった。少なくとも1人くらいは生きており、報告のため移動中だと考えていたのだ。


 選ばれた5名は死地に向かうことになるが、絶対的な権力者の命令に不平を漏らすことなく、転移魔法陣を使ってスタウセンバーグに飛んだ。


 黒の賢者の部下たちはグリステートに向けて出発した。

 グリステートまでは100キロメートルほどしかなく、レベル400を超えた彼らの能力なら2時間もあれば到着できる。


 しかし、偵察を命じられた魔術師たちはグリステートに着くことはなかった。町の近くでデーモンと遭遇し、なすすべもなく全滅したためだ。


 日付が変わった26日になっても偵察隊は黒の賢者の下に戻ってこなかった。

 黒の賢者は苛立ちながらも、偵察隊が全滅したことを認め、その日の午後、再び偵察隊を派遣する。


 前回の失敗を教訓に、今度は転移魔術が得意な者4名を選んだが、暗黒魔術が専門の黒の賢者の配下には時空魔術が使える者は少なく、レベル300を超えた程度の魔術師しかいなかった。


 そのため、100キロという距離を一日で飛ぶことはできず、魔力(MP)の少なくなった魔術師たちは途中で野営を余儀なくされた。


 グリステートに到着したのはその翌日の日が落ちようとしている午後5時過ぎだった。

 警戒しながら町に入るが、そこに魔物の姿はなかった。迷宮から脱出してきたシーカーを見つけ、声を掛けた。


「王国軍の者だが……」


 相手は黄金級(ゴールドランク)のシーカーの若者で、王国軍と聞いて「助かった……」と言い、安堵の息を吐き出した。


 王国軍と言ったのは黒の賢者の配下というと、魔法陣のことで反発されるかもしれないと思ったためだ。実際、彼らは王国軍にも属しているので、嘘ではない。


「状況を教えてほしいのだが」


「スタンピードは3日くらい前に終わったよ。まあ、俺たちが出てきたのは一昨日なんだが……」


 そのシーカーから23日の深夜に迷宮の入口が閉じ、地上に残っていた魔物は町を守っていたシーカーによって倒されたと聞かされる。


「誰が倒したのか教えてほしいのだが」


「ああ、俺より若い奴なんだが、ライルとローザのコンビだ。ローザはブラックランクのラングレーさんの娘で、ライルは魔銃っていう珍しい武器を使う魔物狩人(ハンター)だった奴だ」


 更に迷宮管理事務所に向かい、話を聞くと、潜入していた間者らしき人物が遺体となって見つかったことも判明した。

 偵察隊の4人は翌朝、黒の賢者に報告するため、魔導飛空船に向かった。


 4月29日の午後5時頃、偵察隊は魔力切れの兆候を見せながらも魔導飛空船にたどり着いた。そして黒の賢者に報告を行った。


 黒の賢者はスタンピードの終息について興味を示さなかったが、ライルが生き残り、更に活躍していたと聞き、「上手くいっていればよいのだが」と期待に満ちた声で呟く。


 黒の賢者は部下たちに魔導飛空船でグリステートに向かうよう命じるが、自らは転移魔術を使って移動した。


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まだ読まれていない方はご一読いただけると幸いです。
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 「千迷宮大陸シリーズ設定集」
興味のある方は覗いてみてください。
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