第四十八話「対物ライフル無双」
4月23日の午前4時頃。
ガーゴイルとアンデッドが途切れてから一時間ほどが経過した。
睡魔に身を委ねていたが、ドシンドシンという地響きに眠気が吹き飛ぶ。
「ストーンゴーレムだ! ゴーレムバスターたちよ! 頼んだぞ!」
「「オオ!!」」
ゴーレム専門の探索者であるゴーレムバスターたちがの野太い声が響く。6人のゴーレムバスターはいずれも鬼人族や大型の獣人族で、長さ2メートルくらいあるメイスや直径20センチはある鉄球が付いたモーニングスターを手にしている。
「某も行った方がよいだろうか」
「ゴーレム相手だと黒紅でも厳しいから、隊長の指示があるまで待機していた方がいいよ」
そう言いながらも僕は立ち上がる。
「ここからはライル殿の独壇場だな」とローザは笑うが、一緒に立ち上がると僕の手を取った。
「この後、ゆっくり話す機会がないかもしれぬ。だが、最後まで一緒だ」
そう言って僕を抱き締めた。
「もちろんだ。僕より君の方が危険なんだ。絶対無理はするなよ」
それだけ言うと、短い口づけを交わし、射撃台に向かう。
射撃台では僕のために場所が開けられていた。
「よろしく頼むぜ、大物食い」と弓術士が言って、僕の背中をポンと叩く。
「頑張ります」と答えながら、M82アンチマテリアルライフルを準備する。
「凄い銃だな」と驚きの声を上げる。
「これならゴーレムを一撃で倒せますので」とだけ答え、迷宮の入口に銃口を向ける。
二脚が使えないので、射撃台の壁で固定する。
弾倉を取り付けるが、弾丸は通常の銅の弾丸だ。
使うモードは狙撃用のSPモードで、破壊力の大きいAMモードはまだ使わない。
防御力が高いゴーレムだが、動きが遅く、距離も近いため、弱点である魔力結晶を撃ち抜くことは難しくない。MPの使用量が大きいAMモードは上位種である魔法金属のゴーレムやこの後に出てくるオーガ、トロール、ミノタウロスの上位種まで温存する。
ドシンドシンという音が更に大きくなり、石で作ったブロックを組み合わせたようなゴーレムが姿を現す。
「ゴーレムバスターは敵の足止めを! 弓術士はマナクリスタルを狙え!」
ゴーレム自体は幅があるため、迷宮の入口で待ち構えれば、多くて3体しか一度に出てこない。2人で一体を足止めし、弓術士が弱点を狙う戦術のようだ。
続々と現れるストーンゴーレムに対し、巨漢の戦士たちが果敢に戦いを挑む。巨漢と言っても3メートルを超えるゴーレムに比べれば頭二つ分以上小さく、大丈夫なのかという不安が過る。
「ハァァッ!」という気合と共に鬼人族の戦士が巨大なメイスを叩きつける。
見事にストーンゴーレムの頭に当たり、頭は半分ほどに吹き飛んだ。しかし、ゴーレムはそれに構うことなく、腕を振り下ろす。
その攻撃は分かっていたようで、機敏に回避し、更に膝を攻撃していた。
「凄い……」と一瞬見入ってしまうが、すぐに気を取り直し、M82を奥で立ち止まっているゴーレムに向ける。
20メートルもない近距離のため、光学式照準器は付けていない。いつも通り、白い予測線に従って照準を付け、引き金を引いた。
“バシュ!”という音が響き、その直後に“バーン”という命中音が続く。
狙い通りストーンゴーレムの胸に直撃し、マナクリスタルを失ったゴーレムは光の粒子となって消えていった。
「凄ぇな。一撃かよ……」という声が聞こえるが、僕はその声を無視して次弾を装填する。
「次弾装填……冷却完了……発射準備完了」と呟きながら、次の獲物に狙いを付ける。
2体目も一撃で倒せたが、それでホッとする暇もなく、次から次へとゴーレムが押し寄せてくる。
そこからの記憶はあまりない。ほとんど機械的にゴーレムを葬り、リンゼイ隊長が肩を叩くまで敵を倒すことに集中していた。
「君は一旦下がってくれ。ご苦労だったな」
「えっ!? 大丈夫なんですか?」
「君のお陰でゴーレムの密度が下がったようだ。前衛も楽に戦えている」
「そうですか。でもまだ大丈夫ですが」
「そうなのか? 既に10分以上撃ち続けているが」
足元には空になったマガジンが4個落ちていた。僕のM82のマガジンには20発の弾丸が入っているから、80発以上撃ったことになる。SPモードでは1分間に8発だから確かに10分間戦っていたことになる。
MPは集中していても都度確認しており、まだ余裕はある。射撃で消費したのは2万ほどだが、レベルアップの効果もあって残量はまだ3万5千以上ある。
ちなみにこの10分でレベルは8つ上がり、262になっていた。
「分かりました。いつでも声を掛けてください」と言って射撃台から降りていく。
前線を見ると、ゴーレムバスターたちに加え、ローザも戦いに参加していた。
ローザの戦い方はゴーレムバスターたちとは異なり、ゴーレムたちの中に躍り込んで、膝関節を切り裂くというものだった。
踊るように刀を振るっているが、ゴーレムたちも無抵抗ではなく、何度も腕を振り下ろしている。ギリギリのところで避けているのだろうが、見ている方は気が気ではない。
僕は休みながら、使い切ったマガジンに弾を込めていく。
そこにローザが戻ってきた。
「見事な活躍だったな、ライル殿」
額の汗を拭いながら、僕の横に座る。
「集中していたからどれくらい倒したのかあまり覚えていないんだ」
「某が見ていただけでも50体は倒していた。あまりに見事なので某も戦いに飛び込んでしまったほどだ」
僕だけがレベルアップすると焦ったようだ。
10分ほどローザと一緒に休憩していたが、リンゼイ隊長が声を掛けてきた。
「ライル君、済まないが、射撃台に戻ってくれないか」
前線を見ると、ストーンゴーレムにアイアンゴーレムが混じり始めていた。
「無理をしない範囲で上位種を狙ってほしい。今のところ、数が少なければアイアンゴーレムでも対応できるが、少しずつ押され始めているんだ」
「了解です。上位種を間引くようにします」
それだけ言うと、ローザに「じゃあ、行ってくるよ」と言って立ち上がった。
「では、某も前線に向かうとしよう。少しでもライル殿に置いていかれぬように」
「無理はするなよ。この後にはオーガやトロールが出てくるんだからな」
「承知している。だが、ゴーレムを相手にできる者は少ないのだ」
そう言うと、片手を上げて前線に走っていく。
M82での狙撃を再開した。
さっきのように没頭することなく、一体ずつ敵を選んで前線の負担を軽減させるような戦い方に切り替えた。
調子よく倒し過ぎると、渋滞が解消されて上位種がより早く現れることに気づいたのだ。
アイアンゴーレムはその名の通り黒鉄色で、ストーンゴーレムに比べ少しだけスマートだ。動きは滑らかで腕を使って防御をすることすらある。
ストーンゴーレムに対しては危なげなかったゴーレムバスターたちもそれまでのような大胆な動きを封印し、回避しながら膝を攻撃する方法に切り替えていた。
動きが鈍ったゴーレムに対し、槍術士が胸のマナクリスタルを狙う。しかし、動きが鈍ったと言っても静止しているわけではないから、なかなか当たらない。
弓術士も矢で狙撃するが、同じように攻めあぐねている。
これほど苦戦するのはほとんどのミスリルランクのシーカーはゴーレムを苦手にしているからだ。
彼らはゴーレムの階層を突破した猛者たちだが、通常のシーカーはゴーレムの階層をできる限り早く通り抜けることを考える。
10階層ごとにいる門番以外とはできるだけ戦わない戦略を採り、迷宮内で遭遇した場合は相手の足の遅さを利用して撤退する。そのため、ゴーレムとの戦闘経験は少なく、今回のように苦戦してしまうのだ。
だからと言って、僕とゴーレムバスターたちだけですべてのゴーレムを倒しきれるわけではない。
スタンピードで外に向かう魔物の数は決まっていないが、それまでの魔物の動向を見る限り、500体近く出てくる可能性がある。
既に150体以上は倒しているが、それでもまだ3分の1くらいなのだ。
リンゼイ隊長もそのことに当然気づいており、魔術師を下げ、すべての弓術士を投入していた。
10人ほどの弓術士が一体のゴーレムに向けて集中的に矢を射る。
リンゼイ隊長は各個撃破で確実に倒すことにしたようだ。
その方法で確実にゴーレムを葬っていく。
一時間ほどすると、ミスリルゴーレムが現れた。
アイアンゴーレムに比べても動きはスムーズで、前衛が押し込まれていく。その頃には体力自慢のゴーレムバスターたちも休憩しており、剣術士たちがゴーレムの相手をしていたのだ。
「ライル君、ミスリルゴーレムを頼む」
リンゼイ隊長に言われるまでもなく、狙撃を開始する。
SPモードで急所を狙うが、思った以上に防御力が高い。マナクリスタルを撃ち抜いたと思ったのだが、一撃では倒せなかった。何となくだが、障壁のようなものがあり、それで1発目が防がれた気がした。
もう1発撃ち込むと、さすがのミスリルゴーレムも光の粒子となって消えた。
(確実に倒すにはAMモードの方がいいか……いや、このままの方がいいな……)
AMモードに切り替えると、発射回数が半分以下になり、更に消費MPが2.5倍になるので、SPモードで2発撃ち込む方が有利なためだ。
もし2発目を外しても、こうしておけば、僕以外の弓術士の攻撃も通る。
ミスリルゴーレムを10体以上倒したところで、前衛が警告の声を上げた。
「オーガだ! 上位種もいるぞ!」
「グガァァァ!」というオーガの雄叫びが響き、シーカーたちの間に緊張が走った。