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第四十七話「一時の休息」

 4月23日午前3時頃。

 迷宮入口での戦いは激しさを増していた。


 理由は比較的弱いアンデッドであるスケルトンやゴーストなどが減り、上位種であるスケルトンナイトやワーウルフが主体となり、更には300階の守護者(ガーディアン)である吸血鬼(ヴァンパイア)まで現れたためだ。


 また、300階層の魔物、ゴーレムの一種であるガーゴイルも加わり、上下からの攻撃に前衛の消耗が激しい。前衛だけでなく、魔術師の魔力(MP)も残量を気にするレベルになっており、この後に出てくるゴーレムやオーガなどと戦える可能性は限りなく下がっている。


「後衛はガーゴイルとファントムに集中しろ! 前衛は上からの攻撃にも気を配るんだ!……」


 指揮を執る守備隊のリンゼイ隊長が声を枯らして命令を怒鳴り続けている。

 僕がいる第1班も前衛が2人負傷し、魔術師が1人魔力切れで下がっている。負傷者は治癒魔術によって復帰しているが、遠距離攻撃要員が減ったことから僕は射撃用の台からM4カービンとM590ショットガンを併用して攻撃していた。


 2つの銃を併用している理由だが、敵に効率よく対応するためだ。

 M4カービンではミスリルの部分被甲(パーシャルジャケット)弾を使い、物理攻撃が効かないファントムやヴァンパイアを狙い、ショットガンでは通常の銅のスラグ弾を使って頑丈なガーゴイルを狙っている。


 いちいち代えるのは面倒なのだが、既にパーシャルジャケットの5.56mm弾を100発近く消費しており、この後に出てくる上位のアンデッドに対して少しでも弾を残しておきたいと考えたためだ。

 だから、射撃もフルオートではなく、セミオートに切り替え、一発で仕留めるように慎重に狙撃している。


 この頃になると、班分けは曖昧になり、僕はほとんど出ずっぱりだった。理由は弓術士ではガーゴイルに有効なダメージを与えられないことと、魔術師のMPが底を尽き始めたからだ。


 レベル350程度の魔術師のMPは1万に満たないほどだそうで、今の僕の5分の1ほどしかない。僕はレベルアップしている分、消費したMPより増えたMPが多くて、残量的には厳しくないが、同レベルの魔物を倒しているだけのミスリルランクの魔術師は僕ほど大きくレベルを上げておらず、MPの残量が厳しくなっているのだ。


 ローザも積極的に前線に出ていた。

 理由を聞くと、この後のことを考えていた。


「今のうちにレベルを上げておかねば、この後の大物に対処できぬゆえ」


 僕の今のレベルは250を超えたところで、彼女も僕より少し低いくらいだ。敵はレベル300くらいあるから、レベル差は50くらいだ。そのため、僕たちのレベルは順調に上がっており、特にローザは一撃の威力がずいぶん増したと言っている。


「今ならサイクロプスでも斬り裂ける自信があるほどだ」


 実際、他の剣術士たちが苦戦しているガーゴイルを一撃で叩き切っている。剣聖の称号を持ち、世界一の硬度を誇るアダマンタイト製の名刀、“黒紅”を使っていることもあるが、それ以上にステータスの上昇が大きいらしい。

 僕の場合、レベルアップのご利益はMPの増加くらいしかないのであまり実感はない。


 僕たちが前線に立っている理由は他にもある。

 それはこの後に出てくるゴーレムに対し、専門のシーカーチームを温存するためだ。


 ゴーレムは動きこそ鈍いものの、硬い身体による高い防御力により、通常の剣術士や槍術士では有効なダメージを与えられないだけでなく、武器を損傷する危険があった。


 そのため、メイスやフレイルといった打撃武器を使うゴーレム専門のシーカーたちが対応することになっている。


 彼らは“ゴーレムバスター”と呼ばれ、ゴーレムに対しては有効だが、通常の鋼を使ったメイスなどはアンデッドにはダメージが通りにくく、途中から後方で待機していたのだ。

 その穴を埋めるべく、志願という形でローザが前線に出ていた。


 その後、一旦敵の姿が少なくなった。

 スタンピードが終わったわけではなく、移動速度の速いガーゴイルだけが先行したため、足の遅い通常のゴーレムが遅れ、隙間ができたのだ。


「前衛はその場で待機! 弓術士はドロップ品を片付けろ!」


 迷宮の入口には魔物たちが落とす多くのドロップ品が散乱していた。硬貨やマナクリスタルは邪魔にはならないが、武器や防具は邪魔になるため、それを片付ける必要があった。

 他にもオークが落とした肉などもあるが、そのほとんどが魔物に踏みつぶされており、迷宮の中に投げ捨てていた。


 僕は射撃台から降り、ローザのところに向かった。


「怪我はない?」と聞くと、


「今のところ一度も掠りもしておらん。この後もゴーレムとオーガたち故、まだまだ余裕はある」


 レベルアップしたことによる高揚感なのか、今までより自信に満ちた表情だ。


「油断したら駄目だぞ。これからまだまだ相手は強くなるんだから」


「うむ。承知しているつもりだ」


 自分でも舞い上がっていることに気づき、少しばつが悪そうな表情になっていた。

 少し強く言い過ぎたかなと思ったので、彼女が話したいだろう話題を振る。


「分かっているならいいよ。それよりレベルはいくつになったんだい?」


「うむ。この2時間で更に15も上がっている。今のレベルは243だが、ライル殿はどうなのだ?」


 予想通り表情が明るくなった。


「僕は12上がって254だよ。そろそろ追いつかれそうだね」


 そんな話をしていると、アメリアさんが小声で話しかけてきた。


「戦力的には最初の7割を切りました。そろそろ脱出のことも考えておいた方がよろしいかと思います」


「3割も……」と言って周囲を見回す。僕たちのように余裕がある者は少なく、前衛の多くが大の字になって寝転がり、魔術師たちは壁にもたれかかるようにして目を瞑っている。


「オーガ、トロール、ミノタウロスが出てくれば恐らく戦線は崩壊します。お嬢様方はどうされるご予定ですか?」


(それがし)は……」とローザが答えようとするのを制し、


「撤退の指示が出たところで、鐘楼に上がってそこから狙撃するつもりです。ローザにも来てもらい、僕の護衛をしてもらいます」


 鐘楼は城壁の端、管理事務所の屋上にあり、迷宮の入口を見通せる場所だ。直線距離で50~60メートルほどでそこから狙撃すれば大物でも倒すことができる。また、鐘楼の入口は小さく、中の階段は狭い螺旋階段であるため、気づかれたとしても飛行型の魔物以外は数で押し切られる可能性は低い。


「鐘楼ですか。囲まれたら逃げ場がなくなりますが」


「その時は転移魔術で脱出します。転移距離は短いですが、二人だけなら5メートルくらいは一度に飛べますし、連続で発動させれば敵から逃げることもできます。この方法は以前から山で練習していますから心配はいりません」


「なるほど。私よりお嬢様をお守りできそうです。では、私はご一緒しない方がよろしいですね」


「いや、アメリアも一緒でよいのではないか」


「心配していただくことはありがたいのですが、ライル様の負担になるだけでございます。それに私だけなら対処のしようもございますので」


 アメリアさんは気配を消すことが得意だし、身のこなしも素早いから囲まれさえしなければ逃げ延びることは可能だろう。


「鐘楼を脱出した後はモーゼスさんの地下室に行くつもりです。何かあれば、そこで合流することもできると思います」


 自分の言葉だが、あまり信じてない。この後、更に強力な魔物が出てくるので、合流できる見込みはほとんどないだろう。しかし、こう言っておかないと、ローザが納得しないと思ったのだ。


「分かりました」と言ってアメリアさんは頷いた。


 夜食を食べ、少し休憩すると睡魔が襲ってきた。ローザも同じようで2人で壁にもたれかかり、舟をこぎ始める。


「お二人とも休めるうちに休んでください」


 アメリアさんの声が遠くに聞こえたが、そのまま意識を手放した。


肉が踏みつぶされる……西の迷宮にいる人が激怒しそうです(笑)。

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同一世界観の作品のリンクを貼っておきます。

『【ラスボスグルメ外伝】 ジン・キタヤマ一代記~異世界に和食と酒を普及させた伝説の料理人~』
まだ読まれていない方はご一読いただけると幸いです。
設定集もあります。
 「千迷宮大陸シリーズ設定集」
興味のある方は覗いてみてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なんて罰当たりな! お肉のドロップを踏んだモンスター、塵に還されますね♪ 同時進行の深層ボスのお姉さんの怒りに触れて…。 トリニティとの違いが感じて、ワクワクしながら夢中で読み進…
[一言] 本来なら回収されるお肉が踏みつぶされるのは誰かさんのせいだから……冒険者たちを甲斐性なしと罵るなんで鬼のようなことをしてはダメですよw
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