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第二話「邂逅」

本日3話目です。

 僕は魔術師として生きていくことを諦め、恩師カールソン先生が提案した魔導具職人になる道を目指すことにした。

 魔導具職人に必要な付与魔術は持っているし、僕の弱点である魔力放出量の少なさも、人より時間を掛けることで対応できるはずだ。


 それに時空魔術が使えることも大きい。

 時空魔術は物流に欠かせない魔導具、収納袋(マジックバッグ)を作るために必須の能力で、この才能を持つ職人は好待遇が約束されていると聞いたことがある。


 僕は職人を募集している店を探すため、世界最大の魔導具店街、“魔術(Magic-)師通(street)”と呼ばれる一画に向かった。


挿絵(By みてみん)


 魔術師通は入り組んだ路地と怪しげな看板が並ぶ怪しいところだった。

 学院時代に聞いた話では紛い物の魔導具やポーションが平然と売られ、人体実験のために人攫いが出るという噂まであるような怪しげな場所だ。

 だから、今まで一度も足を踏み入れたことはなく、ビクビクしながら路地を歩いていた。


 残暑が続く9月初旬の晴れた日の正午過ぎだというのに、ここはなぜか薄暗く、肌寒い感じすらある。フード付きの黒いローブをまとった怪しい雰囲気の者が多く、足を踏み入れたことを後悔し始めていた。


 それでも30分ほど魔導具店に見習いの募集の貼り紙がないか探したが、一つも見つからない。


 そこで僕はあることに気づいた。

 ここは販売店が軒を連ねているが、実際に作っているのは“職人(Artisan-)(Town)”ではないかと。


 自分のあまりの迂闊さに、情けなさで一杯になる。

 職人街はシャンドゥの東側にある地区で、様々な職人が物作りをしているが、貴族が行く場所ではなく、今までその存在すら忘れていたのだ。


 職人街に移動するため引き返そうとした時、一軒の魔導具店の奥が偶然目に入る。

 そこには魔術を付与した武器が並んでいた。


 魔術が付与された武器は魔導具の一種で、使用者の魔力を注入して起動する物が多い。

 剣の才能はないから魔剣であっても意味はないが、魔力だけは多いから僕にも使える武器があるかもしれない。


 現在の僕の保有魔力(MP)総量は中堅どころの魔術師並みらしい。

 今のレベルから考えれば異常なほどの量で、その無駄に多い魔力を有効に使える武器があれば、弱点である放出量の少なさをカバーできるのではないかと思いついた。

 今更ながらそのことに気づき、自分の迂闊さに愕然とする。


 気を取り直して店の中に入ると、店主らしい老婆がギロリと睨んできた。


「見せてもらってもいいですか」と恐る恐る聞くが、老婆は愛想のない顔で小さく頷くだけで言葉すら発しない。


 一応了承が得られたと考えて武器を見ていく。

 魔剣や魔槍、魔弓などの定番の武器があった。

 魔弓なら使えるんじゃないかと考えていると、しわがれた声が響く。


「そいつは上級者向けじゃ。お前さんでは引くことすらできんよ」


 驚いて振り返ると、老婆が嘲るような口調で説明を始めた。


「魔剣も魔弓もレベル300を超える魔銀級(ミスリルランク)探索者(シーカー)向けじゃ。値段もそうじゃが、そもそもお前さんのような学院のボンボンのステータスでは扱うことすらできぬよ。魔力がなくても使える魔銃なら別じゃが。まあ、弾一つが1千ソルもするから金がいくらあっても足りんがの。ヒヒヒ」


 1千ソル(日本円で約十万円)は一般的な労働者の月収の半分ほどだろう。資金援助を受けているとはいえ、恒常的に使う武器にはなり得ない。


「そんなに高いんですか……」と諦めると、老婆がニヤリと笑う。


「弾代がほとんど掛からぬ物もないわけではないぞ。まあ、お前さんのような若造なら一発も撃てずに魔力切れで気絶するがの。フォフォフォ」


 その言葉に思わず反応した。自分の長所である大きな魔力保有量を使えると期待したためだ。

 老婆への恐れを忘れ、「どの魔銃ですか?」と聞く。


 ライルの問いに老婆は煩わしそうに「そこじゃ」と言って、一番奥の棚を指差す。


 そこには黒光りする鋼でできた見慣れない形で、長さ25センチほどの角張った作りの筒と握り(グリップ)、指を通す金属製の輪の中に細い金属の鉤爪があった。


 値札には1万ソル(日本円で百万円)と書かれており、他の魔銃の十分の一以下という安さだ。


「魔力充てん式の魔銃じゃ。名は“コルトガバメント”とか言ったかの。変わり者の職人が趣味で作った物での、魔力はアホほど食うが、当たり所がよければオークを一発で倒せるほどの威力がある。まあ、こいつをまともに使うにはレベル100以上の魔術師でなければ無理じゃがな」


「レベル100ですか……なら撃てそうですね」


 その言葉に老婆がギロリと睨む。

 レベル100は“初心者(駆け出し)”を卒業したレベルで、通常は22~25歳くらいだ。学院を優秀な成績で卒業した者でも普通にやったら2年は掛かるから、常識的には20歳を超えている。


「お前さんの歳でそんなに高いレベルになっておるわけがない。それともパワーレベリング(インチキ)でもしたのかの」


 老婆は馬鹿にしたような顔で見ている。

 僕は賭けに出た。


「レベルは10しかありませんが、絶対に撃てます。試し撃ちをさせてもらって、もし撃てなかったら金貨を1枚進呈します。逆に撃つことができたら、こいつを半額で売ってください。どうですか?」


 何とか自信満々という顔を作り言い切った。

 今の僕の所持金は5千ソルを少し超えている程度しかないから、金貨1枚100ソル(日本円で約1万円)で老婆を煽ったのだ。


「面白ことを言うのぉ。いいじゃろう。どうせ撃てぬしの」


 そう言うと店の奥に向かって声を掛ける。


「ボビー! この坊やに魔銃の試し撃ちをさせてやりな」


 その声に30代半ばくらいの髭面の大男がノソリと現れる。


「魔銃がどうしたんだ?」と訝しげに聞く。


「この若いのがブラウニングの魔銃を撃てると豪語しておる。撃てねば金貨を1枚くれるそうじゃ。相手をしてやれ」


 ボビーと呼ばれた男は魔銃を手に取ると、小さく首を振り、僕に向かって諭し始めた。


「坊主、悪いことは言わん。こいつは無駄に魔力を食うからやめておきな。金貨ももったいないが、魔力切れは気絶するだけじゃねぇ。結構辛ぇぞ」


 それでも僕は笑顔を浮かべたまま、


「大丈夫です。それにもし撃てたら半額にしてもらうという約束をしていますので、僕にもメリットがありますから」


「そうか」といい、


「万が一、撃てたら大ごとになるから町の外に行くぞ」


 そう言って僕に付いてこいというように親指で外を示した。

 ボビーさんと共に歩き始めた。


■■■


 ライルとボビーの後姿を見ていた老婆はそれまでの憎らしげな表情から、叡智を感じさせる賢者のような表情に変わっていた。


(あれがセブンワイズのいう“希望の星”か。確かに凄まじい才能を秘めておる。しかし、奴らの言う通りにすることがよいことなのじゃろうか……)


 そして、小さく頭を振り、


(儂に選択肢はない。できることと言えば、信頼できる者に預けることくらいじゃ……ブラウニングは彼らと一緒におるはず。ならば……)


 老婆は彼らを見送ると、店の奥に入っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ブラウニング 昔は日本人でBrowningをブラウニングって発音する人は アメリカの銃事情に詳しいガンマニア位だったような 最近はどうなんでしょうね。 Brownはブラウンだから ingつ…
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