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第二十七話「努力の結果」

 3月10日。

 マーカスがこの町に来てから半年ほどが過ぎた。未だに隊長のままで、僕に対する嫌がらせは続いている。


 ラングレーさんたちが迷宮管理事務所に抗議を行っているが、管理事務所の所長も打つ手がないようだ。


「彼の上司である連隊長は理解を示してくれているんですが、それより上が動かんのですよ。相当偉い人が噛んでいるんでしょうな」


 マーカスの嫌がらせは僕だけではなく、関係する人にも向けられていた。

 モーゼスさんには素材を卸さないように商人に圧力を掛け、狩人組合(ハンターギルド)に対しても商人たちを巧みに使って魔物の素材の買取価格を下げさせている。

 以前の僕に対する訓練と称した暴行と違い、明確な証拠がないため、抗議しかできない。


 モーゼスさんは「シャンドゥに発注すればいいだけだから問題はないよ」と言ってくれたが、他の魔物狩人(ハンター)から「お前のせいで収入が下がった。どうしてくれるんだ」と言われることもあり、精神的には結構辛い。

 一度、この町を出ようと思い、モーゼスさんたちに相談したことがあった。


「君が出ていく理由はない。こんなことが長く続けられるはずはない。もう少し我慢したら、相手の方が先に潰れるはずだ」


 モーゼスさんの言葉にアーヴィングさんも頷き、


探索者(シーカー)やハンターのほとんどが君に同情的なんだよ。もちろん、この町の人も。君が出ていったら、この町の人すべてがあの隊長に負けたことになるんだ。だから、出ていくのはやめたほうがいい」


 実際、多くの人から「頑張れよ」という言葉を掛けてもらっている。

 そのため、今は我慢するしかないと耐えている。



 今日もいつも通り、午前中に山に入り、魔物を狩った。ギルドに魔物を売りに行った後、いつもの広場に来ているが、昼食後にいつも現れるローザがなかなか姿を現さない。


 どうしたのかなと思っていたら、ラングレーさんとディアナさんと共に広場にやってきた。

 ローザの顔を見ると、何となく目が腫れている感じで、何があったのか不安になる。


「ライル殿! (それがし)は遂にやり遂げたぞ!」


 ローザはそう言って僕の手を取る。僕が混乱していると、ディアナさんが説明してくれた。


「刀術の極意をレベル3にしたのよ。まさかこんなに早く上げるとは思わなかったわ」


 ラングレーさんたちがローザに出した実戦に出る条件は18歳になるか、刀術の極意をレベル3に上げることだ。


 “極意”というのは“心得”の上位スキルで、レベルを1つ上げるのは5年近い年月が掛かると言われている。ローザがレベル2になったのは2年ほど前なので異常に速いレベルアップだ。それも実戦を経験せずに訓練だけで上げるというのは前代未聞と言っていいだろう。


「お、おめでとう! あの頑張りが実を結んだんだね!」


「これでライル殿と一緒に戦えるのだ……」


 感極まったのか、それ以上言葉にならないようだ。


「で、坊主はどうしたい? ローザと一緒に迷宮に入るつもりか?」


 僕はすぐに首を横に振る。


「当面は山で経験を積むつもりです」


「それはなぜだ? 確かに遥かに金にはなるが、危険も大きいと思うんだが」


 僕が山に拘る理由はある。


「大物と戦う方がスキルの上がりがいいような気がするんです。特に戦闘の補助スキルはアーヴィングさんが驚くくらい上がっていますから。それにこの近くの山ならどこに危険があるか把握できていますからリスクは少ないと思うんです」


 魔力を使った索敵魔術でこの辺りの地形はほぼ把握している。そのため、どこに魔物が潜みやすいか大体分かっている。他にもどんな魔物がどこを通ることが多いかや、何時くらいに魔物が出やすいかなども分かってきた。


「それに迷宮に入るならレベル200くらいにはしておかないと、5時間くらいで戦えなくなってしまいます。そうなったら僕は完全な足手まといですから」


 数日前、殺人蟷螂(キラーマンティス)を接近戦で倒したことから、今のレベルは170にまで上がっている。そのため、MPは1万7千を超え、M4カービンをセミオートマチックで撃つなら100発以上撃てる。


 しかし、1時間に4回戦闘を行い、1回の戦闘で5発撃つとすると、5時間ほどでMPが枯渇してしまう。


 レベル200ならMPは2万5千を超えるはずだから8時間近く戦える計算だ。もちろん、休憩を行えば、その分MPは回復するので、もう少し長く戦うことができる。


 低層階では銃剣と格闘術で戦うという方法もあるが、それならレベルを上げておいて一気に迷宮を攻略していった方が効率がいいと考えたのだ。


「なるほど。まあ、その辺はローザと相談してくれればいい。しかし、2人だけでパーティを組むつもりなのか?」


「そうですね。そこは僕たちも悩みました。彼女と話し合った結果なんですが、僕たちの戦い方って結構独特なので、レベルが低いうちは仲間を募るのは難しいんじゃないかということになりました」


「確かにそうだな。レベルを上げたら俺たちのパーティに入るという手もあるしな」


 その日の夜はローザの極意レベル3の祝いの宴会を行った。

 モーゼスさんやアーヴィングさん、ドワーフのグスタフさん、ハンターのクライブさんらが祝ってくれ、ローザはすごく楽しそうにしていた。


 翌日、僕たちは二人で山に入った。

 ラングレーさんが付いていくと言っていたらしいが、ディアナさんに「邪魔をしないの」と叱られ、二人だけで行くことになった。


 ローザは緋色の袴に白の半着、当世具足と呼ばれる日本の鎧を模した、黒いラメラーメイルを身に纏っている。ヘルメットは被らず、気合を入れるためか白い鉢巻をしており、真っ赤な髪がより際立つ感じだ。

 腰には“日本刀”の黒い鞘があり、艶やかに輝いている。


 僕も彼女と一緒に山に入るということで、接近戦に備えていつもより重装備だ。

 革鎧は以前使っていた中古ではなく、部分的に金属板で補強されたものだ。それに硬革製のヘルメットと金属で補強された脛当て(グリーブ)を着けている。


 行く場所は既に話し合って決めてある。

 町から3時間ほど、距離にして8キロメートルほどのところにある、斜面が陥没してできた直径100メートルほどの窪地だ。


 この場所は背後と側面が切り立った崖になっていて、飛行型の魔物以外、背後から襲われる恐れはない。窪地には大木がないことから警戒も容易だし、緩やかな斜面になっているから僕が狙撃で援護しやすい。


 欠点は人気のない魔物しか出ないことと囲まれると逃げ場がないことだ。

 特に3方向が崖で逃げ場がないことは大きな欠点で、これにより他の魔物狩人(ハンター)はここを狩場にしない。


 僕たちにも同じ条件のように思えるが、僕の場合、転移魔術で脱出することが可能なので、欠点にはなり得ない。


 もう一つの欠点は出てくる魔物がアンデッドだということだ。


 クライブさんに聞いた話では、近くにアンデッドが多く出る管理されていない迷宮があり、そこから湧き出てきたもので、具体的にはスケルトンやリビングデッド、グールなどだ。


 アンデッドが不人気なのは倒すのが面倒な割に金にならないからだ。

 倒しても得られるのは魔力結晶(マナクリスタル)だけで、スケルトンが持っているボロボロの剣くらいしか換金できるものがない。


 レベルは120ほどとオークより弱いが、アンデッドは首を刎ねるか、頭を完全に潰さないと倒せず、腕を切り落とした程度ではそのまま襲ってくる。また、矢による攻撃に対しては強く、弓術士の支援の効果が薄い。


 通路幅に制限がある迷宮と違い、山では遠距離から攻撃できる弓術士は重宝される。そのため、ハンターパーティの弓術士の割合はシーカーパーティより高い。

 その弓術士の活躍の場がなくなるアンデッドは必然的に人気がないということだ。


 魔銃に関しても同じことが言えなくはないが、僕の場合、頭への攻撃(ヘッドショット)が主であるため、リビングデッドやスケルトンでも一撃で倒せる。ただし、M4カービンでは貫通力が高すぎて、当たり方次第ではスケルトンの頭蓋骨を完全に割ることなく貫通してしまう。


 そのため、M590ショットガンのスラグ弾を使うつもりだ。

 M4カービンのホローポイント弾を使ってもいいのだが、質量が大きいスラグ弾なら当たり所が少々悪くても衝撃で頭蓋骨を割ることができるからだ。


 ショットガンは射程が短いので100メートル以上の遠距離からではなく、50メートル以内での戦闘となり、ローザとコンビを組んで戦うにはちょうどいい距離と言える。


 午前7時に出発し、休憩を挟んで午前10時過ぎに目的地に到着した。

次話から隔日になります。

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『【ラスボスグルメ外伝】 ジン・キタヤマ一代記~異世界に和食と酒を普及させた伝説の料理人~』
まだ読まれていない方はご一読いただけると幸いです。
設定集もあります。
 「千迷宮大陸シリーズ設定集」
興味のある方は覗いてみてください。
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