第十五話「初戦闘」
実戦経験を積むため、グリステートの町の南に広がるアルセニ山地に来ている。
魔物狩人のクライブさんが先導し、アーヴィングさんと僕がそれに続く。クライブさんもアーヴィングさんも弓術士であり、遠距離攻撃の人ばかりという偏ったチームだが、2人ともレベル300を超えるベテランであるため不安はない。
目的地はグリステートから南に5キロメートルほどのところにある崖の上で、岩で出来た尾根になっており、視界を遮る高い木は少なく、周囲が見渡せる。
到着すると、クライブさんが言っていた通り、下は渓流があった。
水量はそれほどでもないが、200メートルほど先が緩やかにカーブしており、長さ50メートル、幅20メートルほどの河原を作っている。川岸に木が生えているものの、枝はあまり張り出しておらず、狙撃がしやすそうだ。
「あそこにはよく水を飲みに来る魔物がいるんだ。向こうからは見えないが、たまに飛行型の魔物も来るから油断だけはするな。まあ、飛行型の大物が来ることはほとんどないし、運悪く来たとしても岩陰から撃つ分には奇襲されることはないだろう……」
クライブさんの注意事項を聞いた後、狙撃に適した場所を探す。
大きな岩の陰に伏せ撃ちができそうな場所を見つけ、腹ばいになってみた。
革鎧があるため、訓練中と同じく収納魔術からクッションを取り出し、岩が露出している地面に置いていく。僕のアイテムボックスは容量こそ少ないが、多重発動のスキルで16個も作っているので小さな物なら割とたくさん入れられる。
「昼寝ができそうだな」とクライブさんに笑われる。
ポジションを決めると、双眼鏡をアイテムボックスから取り出し、河原を丹念に見ていく。
「集中しすぎるなよ。周囲への警戒も必要なんだからな」
「分かりました」と答えるものの、早く撃ちたくて河原の方にだけ意識が向いてしまう。
30分ほど経った頃、ようやく最初の魔物が現れた。しかし、その魔物は思った以上の大物、トロールだった。
M4カービンでは難しいが、対物ライフルなら充分に倒せる。
「どうしますか?」と確認すると、アーヴィングさんが少しだけ迷っていた。
「あの威力ならいけるが……」
「大丈夫なのか? 俺たちでも手に余るが」とクライブさんが言っている。
「狙撃銃なら十分に倒せます。やらせてください」
「……いいだろう。失敗してもこの場所なら奴も気づかないだろうし」
その言葉を聞き、カービンを横に置き、M82A1に模したアンチマテリアルライフルをアイテムボックスから取り出す。
素早くライフルを組み立て、二脚を展開する。20秒ほどで準備を整え、トロールの様子を確認する。
河原の真ん中辺り、距離にして200メートルほどの場所で膝を突いて川の水を飲んでいた。
「狙撃します」と宣言し、スコープを覗き込む。
「目標確認。障害物なし。距離200。風はなし。狙撃モード確認。射撃準備開始」
そう言ってから遊底レバーを引く。
ガチャリという音がして、弾倉から薬室に12.7ミリ弾が送り込まれる。
薬室の上には風魔術の緑色の魔法陣が浮かび上がる。
8秒ほど経ったところで、魔法陣が消えた。
トロールはまだ膝を突いたまま顔を下げており、狙撃の絶好のチャンスだ。
「発射準備完了。狙撃します」
スコープの十字線の真ん中にトロールの不細工な頭が映っている。撃ち下ろしであることと距離が200メートルと近いため、重力分の補正はほとんど考えなくてもいいはずだ。
呼吸を止め、引き金を引くタイミングを計る。
いけると思った瞬間、“発射”と頭の中で呟き、トリガーを引いた。
トリガーを引いた瞬間、15個の銀色の魔法陣がM82の銃身に貫かれるように浮かび上がり、パーンという空気を震わす高い音が響く。
同時に反動によってストックが肩に押しつけられるが、瞬きすることなく、敵を見続けていた。
スコープの中ではトロールの頭が半分以上吹き飛び、ゆっくりと横倒しになっていく。
「標的に命中、狙撃成功。冷却開始」
左手のリアグリップから魔力を送り込むと、銃身の上に水色の魔法陣が15個浮き上がる。
スコープから目を離し、水色の魔法陣が消えたことを確認した。
「冷却完了……ふぅぅ」と大きく息を吐き出す。
初めての実戦で緊張していたが、手順は何百回も練習しており、思った以上にスムーズに行えた。
「ご苦労様」とアーヴィングさんが労いの言葉を掛けてくれた。
「ありがとうございます。思った以上に上手くいきました」
「凄ぇな……」とクライブさんが呟いた。
「本当にすごい銃です。僕でもトロールが倒せたんですから」
「確かにこの銃って奴は凄ぇ。トロールっていうのは再生能力が無駄に高いから魔銀級のパーティでも倒すのに10分は掛かるんだ。そいつを1発ってのは驚きだが、それ以上に驚いたのはお前さんにだ」
「僕にですか?」
「ああ、お前さん、実戦は初めてなんだろ。よくそこまで冷静に撃てるもんだと感心しているんだ」
「そうだね。緊張の欠片も見えなかったよ。荒地で訓練している時と全く同じに見えたね。普通なら興奮するなり、緊張するなりするんだけど」
アーヴィングさんは呆れたような声で言ってきた。
「標的のつもりで撃ちましたから。でも、おかしなことですか?」
人を撃つならともかく、魔物は駆除しなくてはいけない対象だ。
今回は都合がいいことに全く動いていなかったから、標的と同じように撃つことができ、外すことは考えられず、緊張する理由がなかった。
「まあいいや。獲物はどうする? トロールは素材としてはあまり役に立たないけど、魔力結晶は1500ソル(日本円で約15万円)くらいしたはずだよ」
魔力結晶は魔物の心臓辺りにあり、レベルによって大きさが変わる。レベル300を超える魔物の魔力結晶は高値で取引されるため、アーヴィングさんは聞いてきたのだろう。
「降りるルートがあれば取りに行きますが、ここから降りられるんですか?」
クライブさんに確認すると、
「ここから直接降りたことはないが、ロープがあればそれほど難しくないんじゃないか」
「なら、僕が取ってくるよ。クライブとライルは周囲の警戒を頼むよ」
そう言うと、持ってきた収納袋からロープを取り出した。
マジックバッグは仕留めた魔物を持ち帰るためにモーゼスさんから借りたものだ。比較的大型のものらしく、トロールクラスの大物でも余裕で入れられるそうだ。
念のため、野営道具やロープなど、山で何かあったとしても対応できるように道具類が入れてあった。
岩にロープを括りつけると、アーヴィングさんはスルスルと降りていった。その身軽さに驚くが、周囲の警戒に集中する。
5分ほどで下まで降りると、そのままトロールに近づいていく。横倒しになっているトロールを足で仰向けにし、短剣で心臓付近を切り裂いた。ベテランらしく、すぐに魔力結晶を取り出し、川で洗った後、こちらに戻ってきた。
「頭が吹き飛んで、なかなかえげつない状態だったよ」と言いながら、魔力結晶を渡してきた。
魔力結晶は直径4センチほどで、黄色掛かった茶色の宝石のようで、思った以上に美しい。
「初討伐の魔力結晶だよ。記念に持っておいたら」
そこまで言ったところでクスリと笑う。
「普通は1センチくらいの小さなものなんだけど、こんな大きなのを記念っていうのも変な気がするよ」
「それについては同感だな」とクライブさんも笑っていた。
それから10分ほど経った頃、トロールの血の匂いに誘われたのか、鎧トカゲが現れた。
アーマードリザードは体長4メートル、体高1メートル弱ほどの大型のトカゲの魔物だ。全身が頑丈な鱗で覆われており、剣や槍が効きにくい。動きも早く、レベル200台の魔物としては面倒な魔物だと教えてもらった。
「あれも倒していいですか?」と聞くと、アーヴィングさんは頷く。
「あの鱗は結構厄介だが、大丈夫か? まあ、ここには登ってこられんから外しても構わないが」
クライブさんは難しい顔でそう言った。
「大丈夫だと思います。今度はカービンで狙ってみます」
そう言ってM4カービンを手に取る。
狙撃用にスコープが取り付けてあるから、この距離であの巨体なら確実に当てられる。問題は絶えず動く、比較的小さな頭に当てられるかということだ。
慎重に狙いを付け、引き金を引く。
M82に比べ、軽いパンという音が山にこだまする。5.56ミリ弾がトカゲの目に命中した。
「こいつも一発かよ」とクライブさんが呆れている。
これもアーヴィングさんが回収に行ってくれた。今度は皮や身も使えるため、そのままマジックバッグに収納して戻ってきた。
その後2時間ほどで、アーマードリザードをもう1匹と巨大アリを3匹倒した。すべて一撃だった。
この出来に自分でも驚いている。
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