第十四話「狙撃銃の完成」
僕の最強の魔銃、バレットM82A1に模した対物ライフルに問題が発生した。
弾丸との摩擦によって銃身が過熱し、銃身が歪む可能性があるというのだ。
結局、その改修に10日掛かり、3月25日の今日、再び試射を行うことになった。
設計者であるモーゼスさんと鍛冶師のグスタフさん、そして、魔法陣を描くアーヴィングさんの3人で協議して決めた対策は2つ。
1つ目は強制冷却用の魔法陣を組み込むことだ。
水魔術の“冷却”を使い、強制的に銃身を冷やす。僕の魔力放出量では冷却能力が小さいことと、可能な限り均一に冷やすため、15個の魔法陣を組み込んだ。発射後、この魔法陣に4回魔力を通して冷却を行う。
これにより、10日前の試射の時と同じ威力は確保できるが、冷却に必要な魔力消費量が多く、当初の3倍近くにまで跳ね上がる。
2つ目の対策は僕が提案した威力を落とすことだ。
発射速度をM4カービン並みに落とすことで、摩擦による発熱量を抑える。これでもカービンの運動エネルギーの10倍ほどあり、威力としては充分だし、弾丸が重いから、風や重力の影響を受けにくく、狙撃銃としての能力も問題ないらしい。
ただし、発熱量がどの程度になるかは不明であるため、冷却の魔法陣を使う可能性が残っている。
試射場に到着し、前回と同じように200メートルの距離から試射を行う。
「最初はSPモードで。冷却は私が指示するまで起動しない」
「了解しました。SPモードで試射を行います」
SPモードは威力を落とす対策のことで、威力をそのままにした方はAMモードと名付けられている。
セレクターレバーで切り替えが可能で、SPモードは遠距離からの狙撃用、AMモードは金属系のゴーレムなどの硬い魔物用として使い分ける予定だ。
「発射準備完了です。撃ちます!」
標的に照準を合わせて引き金を引く。
音は10日前に聞いたAMモードより軽く、反動も少ない。
スコープの中の標的を見ると、ほぼ中心を撃ち抜いていた。
「セレクターをセーフに」と言われ、すぐにそれに従う。
モーゼスさんがM82に近づくと、被筒を外し、銃身を確認していく。
「発熱量は予定より少し多い。ライル君、冷却の魔法陣を起動してくれないか」
「分かりました」といってリアグリップを握り、魔力を注入する。
15個の水色の魔法陣が銃身に浮かんでいく。
5秒ほどで冷却の魔法陣は消えた。
「十分に冷えたようじゃな。冷却のムラも少ないし、これならば問題なく撃てるじゃろう」
グスタフさんの確認を終え、次はAMモードでの試射となるが、その前に威力の確認を行う。
前回同様、標的の後ろには岩がある。
岩の状態を確認すると、AMモードに比べ岩の欠け具合は小さいが、それでも大きく弾けており、威力としては十分だ。
「これならオーガの身体に風穴が開けられるね。この威力で十分じゃないかな」とアーヴィングさんも言っている。
「敵によって切り替えるというのはありですね」とモーゼスさんがそれに答えていた。
標的の確認を終え、AMモードの試射を行うため、元の場所に戻る。
「魔力は大丈夫かね」
「大丈夫です。まだ1100以上ありますから、4回の冷却を行ってもMP切れになることはありません」
僕の答えに「では頼むよ」とモーゼスさんはいい、少し後ろに下がる。
何度も練習した射撃準備を行っていった。
「AMモード確認。発射準備開始……」
緑色の魔法陣が輝き、20秒後に消えた。
「発射準備完了。撃ちます!」
トリガーを引くと、SPモードとは明らかに違う反動を肩に感じる。
命中を確認した後、すぐに冷却用の魔法陣に魔力を注入する。5秒で魔法陣が消えるため、再び魔力の注入を行った。
3回目の冷却を終えたところで、モーゼスさんとグスタフさんが銃身の確認を行う。
もう一度必要という結論になり、計4回の冷却が必要であることが分かった。
「今のでMPはいくら使ったかね」
「950です。今の僕だと一発しか撃てません」
「そうだね。このAMモードは切り札だが、今のレベルでは不要だろう。当面はSPモードだけで十分ということだ」
「SPモードでも4回しか撃てませんが、明日から山に入ってもいいんでしょうか」
「私はいいと思うが、アーヴィングさんの意見は?」
「僕もいいと思う。まずは近いところで、カービンを中心に使ってレベルを上げるというのでどうかな。当面は僕も一緒に行くから」
「ならば、某も同行させていただきたい」
「それはラングレーとディアナに確認して。僕では判断できないから」
ローザはそこで肩を落とす。
ラングレーさんたちは迷宮に入っており、次に戻るのは明後日だからだ。
翌日、僕とアーヴィングさん、それにハンターのクライブ・ヴィッカーさんと共にアルセニ山地に入っていく。
クライブさんは主に弓を使う斥候だ。ここグリステートで10年ほどハンターをやっているベテランで、今回はモーゼスさんの依頼で僕たちの案内役をしてくれる。
飴色の革鎧に革製のヘルメット、茶色いマントを羽織っている。
腰には短めのショートソードと矢筒、手には複合弓を持ち、いかにもハンターという出で立ちだ。
日に焼けて浅黒く、目つきが鋭いので、最初はちょっと怖かったが、話してみると気さくないい人だった。
「モーゼスさんからは敵から見つかりにくく、動きの遅い魔物がいる場所に案内してくれと言われている。この辺りは俺の庭みたいなものだから、安心して付いてこい」
アーヴィングさんも革鎧に身を固めているが、こちらは少し緑掛かった色で、普通の革ではなさそうだ。ところどころ金属で補強されており、魔導具職人という印象は全くない。
こちらもコンポジットボウを持ち、腰には細めのロングソードを差している。
僕の装備はグリステートに来る時に着けていた古い革鎧で、肩にはM4カービン、右の腰にはホルスターに入った回転式拳銃のS&W M29だ。左の腰にはナイフ代わりに銃剣が装着してある。
バレットM82とショットガンのモスバーグM590は収納魔術に入れてある。
アイテムボックスには弾丸や、もしもの時のために魔力結晶を使うM16ライフルも入れてある。このM16はモーゼスさん愛用の銃だが、予備の武器として貸してくれたのだ。
「凄ぇ武器だな。これがモーゼスさんの魔銃か」
黒光りするM4に興味を持ったのか、クライブさんがしげしげと見ていた。
山に向けて出発する。
クライブさんもアーヴィングさんも弓術士ということで、僕を入れても全員が遠距離攻撃要員だ。大丈夫なのかと思って聞いてみたが、アーヴィングさんはもちろん、クライブさんもレベル300を超えているそうで、町に近い場所で狙撃をするだけなら、危険はないそうだ。
早春の山ということでまだ木々に葉はあまり付いておらず、見通しは思ったよりいい。この辺りは広葉樹が多いが、奥に行くと冬でも葉を落とさない針葉樹が増えるから見通しは悪いそうだ。
心配していた山道だが、思った以上に疲労は少ない。
基礎体力を付ける訓練を始めて1年半も経っているから、今ではカービンを持っても20キロくらいは走ることができる。だから、この程度の山道はそれほど苦ではない。
1時間ほど歩いたところで、一度休憩に入る。
「思ったより体力はあるな」とクライブさんは笑顔で褒めてくれた。
しかしすぐに表情を引き締め、
「ここから先は今までとは違う。周囲の警戒は俺がやるが、迷宮と違って山ではどんな大物が出てくるか分からん。気を張っていけ」
迷宮ではイレギュラーで強い魔物が出ることはあるが、基本的には階層で決まっているが、迷宮外の魔物は突然強い魔物が出てくることがあるためだ。
「分かりました!」と気合を入れて答える。
「この先にいい場所があると聞いたけど、あとどのくらいで着くんだい」
アーヴィングさんが確認する。
「30分くらいですよ。高さ30メートルくらいの崖の上に出るんです。崖の下に川が流れていて、魔物が通るのがよく見えるんです」
「なら、そこから狙撃だね」
休憩を終えると、クライブさんの言う崖に向かって歩き始めた。
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