第十二話「射撃訓練」
グリステートの町の南にある荒地にやってきた。できたばかりの魔銃、M4カービンの試射を行うためだ。
モーゼスさんから一通りの説明を受けた後、銃の微調整を行い、射撃準備に入る。
「では、発射準備に入ります。槓桿を引いて……」
チャージングハンドルはコッキングレバーとも呼ばれるもので、一発目の弾丸を薬室に送り込むものだ。グリップを握った状態で薬室に弾が入ると、自動的に風魔術の魔法陣が起動し、圧縮空気を作り始める。
薬室の上に緑色の魔法陣が浮かび上がる。
「……魔法陣起動確認……」
8秒後に魔法陣が消える。これで起動用の圧縮空気が作られたことになる。
既にストックは肩に付け、左手で被筒を握り、照門の後ろに右目が来るように構えている。ちなみに光学式照準器は付けていない。
右手の親指でセレクターレバーを触る。
「セレクターレバー確認。“SAFE”から“SEMI”に切り替え。発射準備完了」
「了解。ここまでは問題ないね」
「ありません」
「なら、いつでもいいから自分のタイミングで発射して」
モーゼスさんの言葉に「了解」と応え、照星を標的に合わせる。
これまでの動作はモーゼスさんのM16で何度もやっているので迷いはない。
距離は30メートルと近いため、標的の中心にフロントサイトを合わせる。
「撃ちます!」と宣言し、多重発動のスキルをイメージしながら、引き金を引いた。
パンという高い音が響き、一瞬だけ銀色の魔法陣が8個、銃身の上に連なるのが見えた。
セレクターレバーを“SAFE”に切り替え、息を吐き出した。
アーヴィングさんがパチパチと拍手をし、「上手いもんだ!」と褒めている。
「見事だ、ライル殿」とローザさんも褒めてくれた。
僕の視力ではこの距離からはっきりとは見えないが、エルフや竜人の視力ではどこに当たったのか見えているのだろう。
「違和感はあったかね」とモーゼスさんが聞いてきた。
「ありません。多重発動もそれほど強くイメージしなくても撃てました」
「それはよかった」とモーゼスさんは安堵の表情を見せる。
自信はあったのだろうが、魔力注入式として実際に撃つのは初めてだったから設計者としては緊張していたのだろう。
「銃を見せてくれ」とグスタフさんが言ってきた。
マガジンを外した後、弾が残っていないことを確認する。
今回はマガジンに1発しか入れていないし、チャージングハンドルを引いていないので間違いは起きないが、こういうことはきちんと確認するように言われているためだ。
空のマガジンを取り付け、銃をグスタフさんに渡す。グスタフさんはハンドガードを外し、銃身部分の状態を丹念に確認していく。
「異常な発熱はないようじゃな。あと何発撃てそうなんじゃ?」
パーソナルカードを取り出し、残りの魔力量を確認する。
「あと9発です」
鍛冶師としては銃身が設計通りになっているのを確認したいのだろう。
「連続で撃ってもいいですか?」とモーゼスさんに確認すると、
「MPに気を付けて。あとは銃に異常があれば、すぐに中止すること。いいね」
それに頷き、グスタフさんから銃を受け取ると、マガジンを取り付けて発射準備を行う。
9発の銃弾をほぼ連続で標的に撃ち込んだ。連続と言っても圧縮空気を作るのに8秒ほど掛かるため、時間は1分半ほど掛かっている。
「撃った感触では問題はないと思います。といっても連射したのは初めてなので、自信はありませんが」
そう言いながら銃をグスタフさんに渡し、標的に向かった。
標的を見ると、中心近くに貫通した穴が空いていた。
「中心から半径10センチ以内とは。初めてとは思えんほど見事な腕だな、ライル殿は」
一緒に見に来たローザさんがそう言って褒める。
「距離が近いとはいえ、自分でも出来すぎだと思います」と言いながらも、彼女に褒められたので、少し気分がいい。
撃っている時には気づかなかったが、三重の円が描かれた木の標的の後ろにレンガが固定されていた。
レンガは完全に砕けており、その破壊力に驚く。
「それに威力も申し分ないようだ。モーゼス殿がおっしゃる通り、これほどの威力があるなら、オーガやトロールにも通用しそうだ」
「そうなんですか……でも、10発しか撃てませんから、実戦で使うには心許ないですね」
「確かにそうだな。ところで、魔力の方は大丈夫なのだろうか。かなり消耗すると聞いているが」
「ええ、残りは100くらいですが、気分が悪くなるほどギリギリというわけでもないです」
MPがゼロ、つまり魔力切れは頭が重くなり、風邪を引いた時のような気分の悪さを感じる。アーヴィングさんに言わせると“二日酔い”の時に近いそうだが、僕にはその辺りはよく分からない。
モーゼスさんたちも僕たちのところにやってきた。
「銃は問題ないようだ」と言いながら魔銃を返してくれた。
更に置いてあったレンガを確認し、
「威力もほぼ設計通りだろう。本当はコンクリートブロックでやりたかったのだが」
「コンクリートで何が分かるのですか?」
「硬い目標に対してどの程度の貫通力があるかが分かるのだよ。コンクリートが用意できなかったからレンガで代用するしかなかった」
コンクリート自体は流れ人が伝えており、家の基礎などに使われている。ただし、この辺りには材料が少ないらしく、土魔術を使っているところが多く、手頃のものが手に入らなかったらしい。
「当面の間はこの銃で射撃の訓練を行ってもらう」
「はい! 頑張ります」
撃ってみて分かったが、魔銃を撃つというのはとても楽しい。思わず声が弾む。
「走り込みの時にも銃を持っていくこと。これからは君の相棒なのだからね」
「これを持って走るんですか」
2.7キログラムと聞いているが、思った以上にずっしりとしており、今でも厳しいのにこれが加わるとなると更に辛くなることは間違いない。
翌日、午後の訓練の時に銃を背負って走ったが、結構辛かった。しかし、そのことをモーゼスさんに言うと、
「明日からは上に掲げて走るように。腕も鍛えられるから」と言われてしまう。
格闘術の訓練にも銃が使われるようになった。
銃剣だけでなく、銃床も使う戦い方で、モーゼスさんに教えてもらった。
最初に模範の動きを見せてもらったのだが、70を過ぎているモーゼスさんの動きに翻弄されてしまう。
「こんな感じで戦うんだが、元々人間相手しか考えていないから、魔物を相手にする方法は自分で考えてほしい」
モーゼスさんの技は対人戦に特化しているため、獣型や虫型の魔物に対して効果があるか分からないそうだ。
銃を受け取ってから6日後の11月7日。
遂に“銃の心得”のスキルを習得した。これにより、“魔銃士”という称号も得られた。
一日に10発しか撃てないことを考えると、結構早いのではと思っている。恐らく、実際に撃たなくても、射撃の手順を何度も練習したことが効いているのだと思う。
このことをローザさんやモーゼスさんたちに報告すると、自分のことのように喜んでくれた。
「素晴らしいぞ、ライル殿」
「ローザ君の言う通りだ。武術のスキルについて詳しいわけではないが、根を詰めて訓練しても半月以上掛かると聞いたことがある」
「ありがとうございます。皆さんのお陰です」
そう言って頭を下げる。
その日はモーゼスさんの家で僕のスキル習得を祝うパーティが行われた。
お酒好きの人が多く、夜遅くまで盛り上がり、こんな幸せな気持ちになったのはいつ振りだろうと心の中で思っていた。