プロローグ
あらすじにもある通り、ラスボスグルメと同じ世界観です。
本作品は1話3000~5000文字と私の作品にしては短めです。その分、更新頻度を上げるつもりでおりますので、ご容赦ください。
(目標確認。障害物なし。距離300。風……ほぼなし……狙撃モード確認……)
魔物狩人であるライルは崖の上の岩場にうつぶせになり、対物ライフルであるバレットM82A1を模した大型魔銃の光学式照準器を覗き込んでいた。
銃床にしっかりと肩を付け、ストックの下部分にあるリアグリップを左手で握る。
そして、ゆっくりと息を吐く。
彼の眼にはスコープの十字線と、標的である大型の魔物、オーガの頭部が映っていた。
そして、呼吸を止め、引き金を引くタイミングを静かに待っている。
“発射”と頭の中で呟き、引き金を引く。
次の瞬間、十数個の銀色の魔法陣がM82の銃身に貫かれるように浮かび上がり、パーンという空気を震わす高い音が響く。
反動により、彼の肩にストックが押しつけられ、浮かび上がっていた魔法陣は一瞬にして消えた。
銃身の先にある矢尻のような形状の銃口制退器から、圧縮された空気が噴き出し、薄い霧を作る。
スコープの中では、オーガの頭が半分以上吹き飛んでいた。
「目標1体目、駆除成功……次……」
オーガは5体いた。
そのうちの1体の頭が突然吹き飛んだことに、オーガたちは恐慌を起こす。そして、音がした方に視線を向けた。
しかし、彼らの位置からは腹這いになったライルの姿は見えず、キョロキョロと周囲を見回すことしかできない。
そんな様子を見ながら、ライルは素早く遊底レバーを引き、次弾を装填する。
「……次弾装填完了。発射準備……」
ボルトレバーを引いたタイミングで、弾倉の上部に緑色の魔法陣が浮き上がる。
銃身には発射直後に現れた水色の魔法陣が残っており、緑と水色の魔法陣が美しく輝いていた。
次の標的を見つけ、再び照準を合わせる。
「目標、最右翼のオーガ……」
水色の魔法陣が唐突に消えた。
「……冷却完了」という呟き、その直後、緑の魔法陣がゆっくりと消えていく。
「発射準備完了……」
一瞬の間を置き、心の中で“発射”と呟き、引き金を引く。
再びオーガの頭が吹き飛び、ゆっくりと倒れていく。
それでも知能の低いオーガは何が起きているのか理解できず、喚き散らすことしかできなかった。
ライルは何の感情も見せることなく、次の目標に照準を合わせていく。
僅か1分ほどで5体のオーガは全滅した。
全滅を確認したところで、ライルはふぅぅと息を吐き出す。しかし、気を抜くことなくすぐに立ち上がった。
身長は170センチほどと比較的小柄で、やや長めの黒髪が左目に掛かっている。銃を撃っている時は冷徹さが垣間見えたが、まだ少年の面影を強く残している。
(今日はこれまでだな。血の匂いで魔物が来る前に死体を回収しないと……)
レベル350を超えるオーガは魔物が跋扈する、ここアルセニ山地でも強力な魔物と認識されている。一流の探索者である魔銀級のパーティですら苦戦するほどで、僅か18歳の若者がたった一人で倒したことは異常と言っていい。
ライルはM82のセレクターレバーを“セーフ”に切り替え、二脚を畳むと、収納魔術に入れる。
そして、M4A1を模したアサルトカービンを取り出し、肩に掛けた。
もし彼の姿を“流れ人”と呼ばれる異世界人が見たならば、その姿に違和感を覚えたことだろう。
使い込まれた飴色の革鎧に硬革製のヘルメット、武骨な革のブーツに金属で補強された脛当て。
腰当がない腰には太いベルトが巻かれ、右側には大型の回転式拳銃が吊るされ、左側には銃剣にもなるナイフが革のホルダーに収納されている。
それだけでも違和感があるのに、近代的なアサルトカービンを肩に掛けていた。
21世紀の地球から迷い込んだ流れ人なら、中世と現代が混じったようなちぐはぐさを感じたはずだ。
しかし、流れ人の感覚を持たないライルには、今の自分の装備は珍しいというだけで、違和感を覚えることはなかった。
周囲を索敵魔術を使って走査し、魔物がいないことを確認する。安全を確信した後、僅か5メートルという極短距離転移魔術を使って、岩場を転々と飛び始めた。
その動きに迷いはなく、いつもの決められた動作であることが分かるが、その行動も異常と言える。
高さ30メートルの崖とはいえ、転移距離は高さ分しかない。“わざわざ5メートルずつ飛ぶ必要はないのでは?”と見ている者がいれば思うことだろう。
10秒ほどで崖を降り切ると、オーガの死体がある場所まで慎重に進んでいく。そして、草むらで息を潜めると、もう一度周囲を確認した。
(敵影なし……さっさと回収するか……)
警戒を緩めることなく、大型の収納袋に死体を収納していく。
すべてを収納したところで、僅かな殺気を感じた。
(ん! 血の匂いに誘われた魔物か……)
M4カービンを構え、セレクターを“セーフ”から“バースト”に切り替えながら、銃口に銃剣を取り付ける。
周囲をゆっくりと見回しながら、敵が出現するポイントを探っていく。
彼のオリジナル魔術、“サーチ”は感知されない程度の微弱な魔力を扇状に放ち、その魔力波を乱す魔力、すなわち魔物や人を探知できる便利な魔術だが、一つの扇の幅が狭く、全周を走査するには時間が掛かる。
また、範囲も最大300メートルほどしかなく、速度がある相手の奇襲に対しては効果が薄い。
そのため、気配察知のスキルを併用して周囲を警戒していた。
(来る! 速い!)
右側に殺気を感じ、身体を向ける。
彼の視線の先には体長2メートルを超える巨大なカマキリがいた。
(殺人蟷螂か! 厄介だな……)
キラーマンティスはレベル350程度の魔物だが、危険度はオーガ以上だ。耐久力こそ低いものの敏捷性は高く、鋭い鎌は攻撃範囲が広いだけでなく、ライルの着る革鎧など紙のように切り裂けるほど鋭い。
ブォーンという低音の羽音を響かせながら器用に木々を避け、巨大な鎌を振り上げ、羽を拡げて飛んでくる。
ライルはキラーマンティスが大木の陰から飛び出すタイミングでカービンの引き金を引いた。
ダッダッダッという小気味のいい発射音が響く。
本来のカービンなら薬莢が飛び出し、地面に落ちる音が響くはずだが、彼の銃からは薬莢は排出されない。
高速の銃弾がキラーマンティスの柔らかい腹部を貫通していく。しかし、痛覚を持たない魔物は、透明な体液を撒き散らしながらもスピードを落とすことなく、ライルに迫っていく。
キラーマンティスはライルの目の前に着地し、その鋭い鎌をクロスさせるように振り下ろす。
しかし、その鎌は彼を捉えることなく、空を切った。
キラーマンティスは何が起きたのか分からず、複眼のついた首を忙しなく動かす。
そして、自分の真後ろに獲物がいることに気づいた。
ライルは鎌を振り下ろされた瞬間に転移魔術を使い、キラーマンティスの後ろに跳んでいたのだ。
「とどめだ!」と言って、いつの間か持ち替えていた、S&WM29を模した44口径リボルバーの引き金を引いた。
至近距離から放たれた44口径の重い銃弾がキラーマンティスの頭を吹き飛ばす。
頭を失ったキラーマンティスは闇雲に鎌を振り回したが、そのまま倒れていった。
(M4は貫通力が高いから、敵の突進を止めにくい。ショットガンならよかったんだが、運が悪かった……反省は後だ。早くここから離れないと……)
キラーマンティスの死体を回収し、森の中を走る。
5分ほど走り、安全な場所まで来たところで緊張を緩め、大きく息を吐き出した。そして、右手の甲から銀色のカードを顕現させる。
このカードはパーソナルカードと呼ばれる、この世界の人間なら誰でも持っているものだ。そこにはステータスなどの情報が記載されており、彼はその情報を素早く読み取る。
(あと2連射で魔力が切れるな。ここから先は比較的安全だが、できるだけ早く町に戻ろう……)
しかし、無傷で強敵を倒せたことには満足だった。
(今日も調子がいい……それにしても最近は順調だな。あの頃では考えられないくらいに……)
今は大陸暦1120年3月。
2年半ほど前に実家から追い出され、魔導学院を辞めさせられた頃のことを思い出していた。
本作品をお読みいただき、ありがとうございました。
あらすじにもありますが、本作品で登場する銃は地球の銃を模したもので、動作原理や性能は異なります。というわけで、地球のBarrett M82には“SPモード”や“AMモードはなく、本作のオリジナル設定です。
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