姉の悩み
骨董品店の前には既に3人が揃っていた。
パタパタと走り寄り、ギョッと目を丸くさせる。三者三様。ライマはリツの顔を見て不安そうに顔を歪め、ナルシュは悔しそうにしている。クリスは興奮した様子でリツとクルヴァに手を振ってきた。
「リツにクルヴァ!ライマが杖を持った瞬間凄い一層輝いたんだ!」
「それって、ライマが女神になれるってこと!?」
「可能性が1番高い!」
「やった!」
「凄いじゃないか」
パァッと表情を輝かせライマに言ったものの、ライマの表情は浮かない様子だ。
それに気がついたクルヴァが、骨董品店前で騒いでも仕方ないだろ?と言い、ナルシュと別れ1度宿に戻る。
宿に戻った後リツは買い出しに行き、クリスは武器屋に剣の手入れの受付をすることになり、珍しくライマとクルヴァは2人きりとなった。
宿屋の受付近くのソファーに座った2人は、互いに黙りこくっている。
ガシガシと頭を掻いたクルヴァは、沈黙に耐えきれなくなったのか、ライマに問いかけた。
「なんで不安そうなんだ。あー、言いたくなければ言わなくて良いぜ?」
話しかけられピクリと体を揺らしたライマは迷ったように話し出す。
「もし、私が女神になってしまったら……リツは女神になれない」
「ん?そもそも女神力0のリツには無理な話だろ」
杖の輝きを見ただけでも光に耐えきれなかったリツが、女神になれるのを夢見てずっと待っていたら魔王は復活してしまう。
女神になれる資質があるなら気にしないでなってくれと思うのは、魔王復活を阻止したい者達の総意だろう。
でもライマはそう思わないようだ。
「リツは喜んでいたけれど、きっと内心悲しかったはず」
「そりゃそうかもな。……ならライマはここで女神探しを止めるのか?」
「それは……」
「女神になれる可能性があるお前が歩みを止めて魔王を復活させるつもりか?」
ライマがハッと目を見開いてクルヴァを見る。クルヴァの瞳には怒りの色が含まれていた。
「俺は嫌だね。対抗措置があるにも関わらず魔王復活を阻止するでもなく何もしないのなら、俺はお前を許さない」
少しだけ厳しく強めの声。ライマの脳裏にクルヴァと初めて出会った時の情景が思い出されていく。
クルヴァも同じ情景を思い浮かべているのか拳を握り締め俯く。
魔王が復活してしまえば、魔物がより活性化し、クルヴァが住んでいた村のような状況に陥ってしまう可能性が増えていく。あんな思いはもうしたくないし、させたくないと言うのは、村の情景を目の当たりにし、一緒に旅を続けている4人が1番知っている筈だ。
「リツに何を遠慮してるのか知らねぇけど、お前には話し合う口はねぇの?」
「え?」
「リツには話し合う口も、お前の話を聞く耳も無いとでも?」
「そんなことないわ!」
「ならお前の考えを話せよ。悩んでる今しないでどうすんだよ。勝手にリツの気持ち考えて、分かったつもりで、もしそれが違ってたらどうすんだ。それこそ話しておけばって後悔するんじゃないのか?」
悩んでいた内容を話してもらえなかったリツの心境を考えると、きっと物凄く悲しむだろうと簡単に予想出来る。そして最後は自分を責める筈だ。そんな思いをさせようとしているライマに、クルヴァの中で苛立ちが湧いてきてしまう。
「リツを悲しませるな。お前はリツにとってどんな存在だと思ってるんだ」
ライマを守るために、頭痛と吐き気がする中踏ん張っていた姿を裏切る真似はしてほしくない。
クルヴァはそう考えながら言うと、ライマの瞳に迷いが消えていく。
「私は、リツのお姉さんよ」
「だろ?アイツは家族を大切にする奴だと思うぜ。考え全部とは言わねぇが、話してやれよ」
「……ええ」
ライマの瞳に一滴の涙が溢れる。恥ずかしそうに微笑みながら涙を拭う姿に、クルヴァは目元を和らげ、頑張れよと告げる。
「ありがとう」
「いーや。後でリツが落ち込むと面倒なんだよ」
頬杖をつき外を眺めるクルヴァは、何かに気が付いたように立ち上がった。
ライマも視線を移すと、買い出しの紙袋を大量に持ったリツが歩いているのが見え微笑む。
クルヴァは本当に良く周りを見ているし、リツもそんなクルヴァを慕っている。
見ていて微笑ましいなと思いながら楽しそうに笑う2人を眺めていた。
そこから少し離れた場所で、朗らかな顔で笑うライマの姿を、クリスは複雑そうな表情で見つめていた。