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搭の杖

 街での測定の結果は思わしくなく、とりあえず魔王力がある人がいなくて良かったと思うことにした。

 これ以上ここに滞在しても仕方ない。

 地図を見て次の街に目星を付けていると、ブルーのロングヘアーでゆるふわパーマの女の子に話しかけられた。


「お待ちなさい!」


 両腕を組んで仁王立ちしているのは、リツよりも年下の10才くらいの女の子。どこかの令嬢のようなふんわりとしたドレスを着ている。


「何でしょう?」


 不躾な視線を向ける女の子に、ライマは厳しい目を向けている。

 礼儀作法に厳しいライマだから女の子の態度が許せないのだろう。クリスがライマをソッと下げて女の子に向けて笑いかけた。


「俺達先を急ぐんだ。もし女神力を計測したいなら、教会支部に行ってくれないか」

「いいえ。女神を探す旅はここで終了ですわ」

「何でだい?」

「決まっているでしょ。私こそが女神に相応しいからよ」


 女の子の発言に皆でポカンしてしまう。1番に気を取り直したのはライマだったようで、計測器を出し女の子に渡す。


「どうぞ。数値を測ってください」

「ええ、もちろんよ」


 自信満々に計測を開始した女の子の表情は、数値を見てみるみるうちに沈んでいく。


「……もー!何で49なのー!!」

「お、ギリギリ一般市民か」

「うるさいうるさい!!」


 クルヴァの言葉に地団駄を踏んだ女の子は、どうやら数値に納得がいっていないらしい。その気持ちは良く分かるなと眺めていると、クルヴァがチラリと視線を寄越してきた。まるでお前と似てるなと言わんばかりの視線に、ムッと頬を膨らませる。


「もう!視線がうるさいよクルヴァさん」

「おー、似てる似てる」


 膨らませたほっぺを突っつくクルヴァに、もー!と更に怒るとゲラゲラと笑い始めた。

 そんな2人に呆れた視線を向けていたライマとクリスだったが、女の子の言葉にピクリと反応をする。


「やっぱ数値を上げる道具が必要かしら……」

「道具?」

「この街から暫く歩くと、200年前に展望台として使っていた塔があるの」


 200年前と言えば前女神と前魔王が戦った年だ。その頃から塔に魔物が住み着き、市民が使えなくなってしまった。そんな塔にある、数値を上げる道具とは?と女の子の発言に注目する。


「その塔の屋上に女神力を高められる道具が置いてあるって。私はそれがどうしても欲しいの!」


 女の子の話ではその道具に触れるだけで女神力が増えるらしい。

 眉唾物だけど、もしそんな道具があれば教会に報告するべきだ。

 ライマを女神に出来る可能性も増えるし、何より自分自身の女神力が増えるかもしれない。

 はいはい!と手を上げてライマを見つめる。


「リツ……」

「ライマお願い!教会にだって報告書作った方が良いでしょ?」


 ライマの腕を握り必死に訴えると、眉を下げ困ったように笑っている。


「調べるだけよ?」

「やったーーー!!」


 両手を上げてガッツポーズをすると3人に笑われ、女の子も驚いたのか目を丸くさせた。

 そんなことも気にできないほどテンションの上がったリツは、スキップをしながら早速塔を目指していった。



 ***



 ***



 塔に向かい始めて30分。水辺があったために小休憩を取る。あの女の子は魔物がいる場所に連れていけないとなり、渋々諦めてもらったために、いつも通り4人で行動をしている。

 クリスはライマの隣で剣の手入れをしていて時折何か話している。そんな所に邪魔をしに行くのは野暮だと、クルヴァに教えてもらった。

 なので1人で水辺で泳いでいる魚を眺めていると、クルヴァが隣に座ってきた。


「噂本当なら良いな」

「うん!そうしたら0だってもう迷わないで済む!」

「0なのはお前がこの世界の人間じゃないからなんだろ?」

「多分」

「なら悩んでも仕方ないんじゃないか?」

「うーん……そうなんだけど、0じゃなくてせめて1でもあれば、微々たる物だけど光魔法が使えでしょ」


 1なら魔力は微々たる物で、無くても一緒と思える位の魔力だろう。それでも光魔法を使えるようになってライマやクリスの力になりたい。

 そう真摯に伝えると頷いて頭を撫でられた。クルヴァは本当に頭を撫でるのが好きなんだな……と思いながらも、その心地よさに微笑んだ。


 塔の入り口は硬く閉ざされている。ギィィッと重い扉を開けると腐臭が漂ってくる。吐きそうになる気分を無理矢理抑え、剣を抜き入るクリスに続き入っていく。

 ライマの光魔法により薄暗い室内に光が灯る。

 慣れてきた目で見えたのは、埃が溜まりまくっている室内。螺旋階段が壁沿いについていて、上がっていけば直ぐに屋上まで行けそうだ。でも、無数にいる魔物達が行く手を阻む。

 一斉に襲いかかってくる魔物達を吹っ飛ばすと、魔物は塔の壁に激突して塔が揺れた。


「おいこら塔を壊す気か!ライマだって無事じゃ済まねぇだろ!」

「リツ!無闇に敵を吹き飛ばさないで!」

「おいおい、道具見付ける前に死ぬぞリツ」

「ごめんなさいー!」


 3人に一斉に非難されペコペコと謝る。この狭い室内では自分の力をセーブしながら進まないとならなそうだ。

 無闇に力を使わないように蹴りやチョップに変更したり、もっと狭い場所ではクルヴァとクリスに敵を倒していってもらった。

 何とか屋上につくと、中心の台座に禍々しい雰囲気を醸し出す杖が突き刺さっているのが見える。

 ただ突き刺さっているだけなのに、誰もがあの杖に近づけない迫力がある。

 ライマは光魔法で防御膜を作り1歩を踏み出したものの、杖が拒絶するように黒い風を吹き荒らしてきた。


「もしかして魔王の関係か……っ、ライマ!?」


 クリスの言葉にハッとライマに視線を移すと、膝をつき荒い息をしているライマの姿があった。

 女神力が高いライマに杖が反応してしまったようで、異様な威圧感を放っている。ライマの前に立ち杖を睨む。

 立っているのがやっとなほど、ズキズキと頭痛がしてくる。今にも逃げたくなるほどの吐き気だ。

 それでもライマが苦しんでいるなら助けたい!と仁王立ちをする。


「ライマを苦しめる杖なんて……たとえ女神力を上げる杖でもいらない!」

「良く言ったなリツ」


 ポンッと頭を撫でてくるクルヴァに1度微笑みかけてから杖を見ると、杖は元々もう崩れ行く運命だったのか、ボロボロと崩れて原型を留めていない。

 禍々しい空気はもうなくなり、緊張感から解放されて4人で座り込む。

 ボロボロの杖だったものを眺めると、ああは言ったものの悲しくなってしまう。もしあれに触れていたら女神力が増えていたかも……と、崩れている杖へと手を伸ばすものの、伸ばしていた手をクルヴァに取られてしまった。


「止めとけ。何があるか分からないだろ」

「そうなんだけど……」

「ま、道具に頼んなってことだ」

「それもう一生女神力上がらない気がする」

「そうなったら……まぁ、うん……」


 遠い目をするクルヴァの肩を叩こうとしたものの、まだ手を握られていたことに気がつき首を傾げる。


「クルヴァさん、ありがとう」


 だから大丈夫だよ?と言っても、クルヴァは手を離す素振りを見せない。


「どうしたの?」

「んー?リツがまたそれに手を伸ばさないようにしてる」

「もうしないよ」

「そうだなぁ」

「クルヴァさーん?」

「んー」


 上の空のクルヴァは空返事。話を聞いていないようで、ボーッとしながらただ空を眺めている。


「何か見える?」

「リツ」

「え、私?」


 空に自分が見えるなんて目が悪いんじゃないか?とクルヴァを見ると、杖があった場所に視線を移していた。


「ありがとな」

「何が?」

「リツがリツらしくいてくれて良かったよ」

「何それ」

「真っ直ぐな姿を見てれば迷わないでいられる。……俺はお前さんのような単純さが欲しいな」

「クルヴァさん、それ褒めてないよね?」

「いーや。褒めてる褒めてる」


 くぐもったように笑ったクルヴァは、そこで漸く手を離してくれた。

 何だか納得はいかないけれど、そろそろ行くぞとクリスに言われ立ち上がる。

 もう1度杖があった場所に目を向けると、もう跡形もなく消えていた。



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