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頼りになる人

 光魔法は便利な物で、光によって手紙を届けることが出来る。

 それにより野宿をしている4人の元に教会から手紙が届いた。

 受け取ったライマが手紙を開き、表情を強張らせる。


「この先の高原で、魔物が暴れてるらしいわ」

「えっ、なら行かなきゃ!」


 魔物が暴れて、そのまま近くの街にでも来たら、クルヴァがいた村のようになってしまう。

 クルヴァも村を思い出したのか眉間に皺を寄せている。そんなクルヴァの袖を叩く。


「クルヴァさん。行こう」

「ああ、頼りにしてるぜリツ」


 ニッと笑いながら拳をコツンと合わせる。何だか戦友見たいで嬉しいなと笑みを浮かべる。

 クリスともして、クリスはライマとしたかったようだったけれど、プイッと顔を背けられ悲しげな顔をしている。

 苦笑いを見せ労うように肩を叩くと、リツ~!とまた情けない声を出した。


「もう!魔物の所行くよ!」


 中々気分が上がらないクリスの背中を押して、魔物が現れているという高原に向かっていった。



 ***



 ***



 晴れた高原は草花の良い匂いがある筈なのに、魔物特有の腐臭がしている。警戒して辺りを見回している花の傍でと女性が1人倒れていた。

 杖を構え駆け出そうとするライマの腕を掴んだクリスは、厳しい目をさせながら首を横に振る。


「ライマ、ダメだ」

「何を言ってるのクリス?早く助けに行かなくては」


 クリスの腕を外そうとするライマの言うことは聞けないようで、決してライマから手を離さずリツに目を向けた。


「リツ行けるか?」

「うん。クルヴァさんは?」

「いつでも。ライマ、あの女の足を良く見ろ」

「足?」


 クルヴァの言葉にライマは女性の足を見る。女性の足は裸足。高原で裸足になる女性もいるだろう……と思ったようだったが、ハッと目を見開く。


「土の汚れがない?」

「ご名答。クリスが止めてくれて良かったな」


 倒れていた女性が立ち上がりドロドロと溶けていく。


「うげ、気持ち悪……」

「割りと綺麗な女の姿だったのになぁ」


 残念そうにいうクルヴァに批難の視線を投げ掛けると、悪びれもせずに笑っている。


「クルヴァさんは一途なくせに」

「綺麗な女を綺麗だって思うのは男として当然」

「2人とも来るぞ!」


 女性だった者の手から粘り気のある泥が投げられる。近くにあった石に当たると、その部分から腐臭がしてくる。

 あれに当たりたくない。先にライマに光魔法で膜か何かを作ってもらいたいなとライマを見ると、杖を両手で掴み焦った表情をし落ち着かない様子だ。


「リツ、クルヴァ。本体を頼む」

「了解」


 ライマはクリスに任せれば大丈夫。そう信じ2人は走り出す。

 ライマの前で剣を構えたクリスは、ふぅ……と息を吐く。ライマに飛んで来る泥は、全て剣で切り落とし排除している。

 剣を振るい、前方を見据えながらもクリスはライマに向かって語りかけた。


「ライマ。見破れなかったからって落ち込むな。失敗したって良い」

「ダメ。私が失敗して皆に迷惑をかけたら、聖女失格じゃない!」

「聖女だって失敗するさ。……何のために俺がいると思ってるんだよ。ライマを助けるためだろ?」

「クリス……」

「慌てないで良い。どんなことがあっても、俺にとってライマは、世界一の最高の聖女だ」


 軽く後ろを見て微笑むクリスにライマも笑顔を向けた。その表情はもう落ち着いている。

 いつだってライマを落ち着かせるのは、隣で支え続けているクリスの役割だ。

 杖を構えて詠唱を開始すると、ライマの周りに光の魔方陣が出現した。


「光の女神よ我らに力を授けたまえ」


 杖の先端が光輝きクリスの剣に光が宿る。

 短くお礼を言ったクリスが飛んで来る泥を切ると、さっきは切ったら落ちていくだけだった泥が、一瞬にして跡形もなく蒸発していく。


「流石ライマ」

「……ありがとう」


 嬉しそうに微笑んだライマは、前方を見てハッと目を見開いた。

 本体に向かったリツとクルヴァの周辺には、泥から作られた無数の泥人形が並び取り囲んでいる。

 2人で駆け出し加勢に移ろうとしたけれど、リツとクルヴァは良いコンビのようだ。


「クルヴァさん!」


 リツがクルヴァの近くにいた泥人形を粉砕すると、今度はクルヴァがリツの背後にいた泥人形を短剣で突き刺し消滅させる。


「リツありがとな。お前もよそ見すんなよ」


 背中合わせに互いの視界に移る魔物を倒していく姿は、最近会ったばかりなのに息が合っている。戦いの相性が良いのかもしれない……と2人で軽く笑い合い、そのまま攻撃を続けていく。

 そうは言っても無限に泥人形を作れるのか、倒しても倒しても出てくる敵に遂にリツがキレた。


「もー!ライマ、クリス!お願い!」

「仕方ないわね」

「クルヴァ、一度後ろに下がってくれ」

「ん?ああ」


 何をするんだ?という疑問を持った表情のクルヴァは、1度魔物との戦いを止め、素直に後ろに下がる。


「光の女神よ我らに力を授けたまえ。悪しき者を裁く力を」


 杖を構えたライマは、先程よりも強い光を杖の先端から発生させる。

 若干だが光魔法を使えるクリスは、女性だった魔物と泥人形を光の円で囲んでいく。

 ライマから光の力を借りたリツはすぐさま走り出し、自慢の脚力を使い高くジャンプをする。

 その瞬間、ライマとクリスが右手を大きく掲げた。

 円から目映い光が発せられる。円の中に入っていた魔物達が全員光の力によって浮いていき、一ヶ所に集まっていく。


「行っくよー!!」


 ジャンプだけでその上に到達したリツが、渾身の力を振り絞り右手を振り下ろす。

 光でボロボロに崩れていく泥人形。最後まで残った魔物をそのまま地面に叩き付けた。

 土埃は上がるものの、光の円に守られ辺りには被害が及ばない。

 段々と収まる円の中心には、満足そうな笑みを浮かべるリツの姿があった。


「やったね!」


 ブイサインをするリツは、クルヴァが呆気に取られた顔を見せているのに気がつき、どうだ!と言わんばかりの得意げな顔を見せる。


「……お前らすげぇわ」


 近寄ってきたクルヴァは、破壊されて大きな穴が空いた地面を見る。


「お前怒らせたら体に穴が空きそうだな」


 労うように片手でタッチをしたクルヴァの言葉に思わず乾いた笑いを溢す。


「は?誰かの体壊したのかよ?」

「違うよ!えーっと、家はちょっとね」


 瓦礫撤去や工事の手伝いでも、力任せにすると瓦礫や工事が手からすっぽ抜け、その拍子に近くの民家を壊してしまったことがあった。

 その度ジェフに怒られていたなと当時の記憶を思い出す。

 あれは申し訳なかった……とため息を吐いているとポンポンと頭を撫でられた。


「まあ、悪気無かったんだろ?」

「それはもう!すぐに修繕させて貰ったし」

「お前がわざとやるような人間じゃないって、家壊された奴も分かってるさ」

「うん!民家の人もそう言ってくれたんだ。……ありがとうクルヴァさん」


 クルヴァの言葉に分かってくれて嬉しい!と満面の笑みを浮かべ、手をブンブンと振り回す。


「あ、痛いよね。ごめんなさい」

「いや。それよりリツ、ちょっとこっち」


 リツだけに聞こえるほど小さな囁く声。クルヴァに頷いて着いていくと、高原からほど近い場所の木々が生い茂った場所についた。


「クルヴァさんどうしたの?」

「あれ」


 クルヴァが示した先を見ると、ライマとクリスがお互いペコペコと頭を下げながら話している姿。


「2人きりにしてやろうぜ」


 恋愛のれの字も知らないリツにとって、2人きりにするなんてことは考えつかなかった。

 クルヴァに色んなことを教えて貰ってるなと、感心したように頷く。


「女性を喜ばせる方法を知ってて、こうして2人きりにしてあげる優しさ……ちゃんとライマの好きそうな花も選んでたし、クルヴァさんってもしかして」

「なに?」


 良く見れば顔立ちも整っているし、これは絶対にそうだとクルヴァを見つめる。


「モテる!それかスケコマシ!」


 女性を騙す人には見えないけど、顔と話術で女性を物にしていきそうだ。そう思い言うと、スケコマシかよ!とゲラゲラと笑っていたものの、すぐにニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。


「リツ、俺がスケコマシか試してみるか?」

「え?」


 トンと肩を押されリツの体は木に凭れかかる体勢になった。呆気に取られた瞬間、顎を持たれ至近距離に迫られて悲鳴を漏らす。


「ぎゃっ!」

「はは、色気のないお子ちゃまだな」

「ク、ク、クルヴァさん!」


 今まで近づいてきた男性は父のジェフと、小さい頃に抱っこをしてくれた人だけだ。こんな風に迫られた経験が皆無なせいで、正常な判断が出来ない。


「で、試してみてどうだ?」


 フワリと香る匂いが、女性とは違う男っぽい匂いで、何だか緊張してしまう。

 迫られた感想なんて、恥ずかしいからこっちに来ないでくらいだ。他に何を……と考えた時に、クルヴァの顔をじっと見つめる。


「クルヴァさんの瞳は綺麗だね」

「……そうか?俺の目なんて怖がられるだけだろ」

「そう?赤くて宝石みたいで、私は好きだよ」


 赤というよりは深紅色の瞳。この世界で他に見たことがなく、見惚れてしまうほど綺麗だ。こんなに綺麗な瞳を誰が怖がるのだろうか。クルヴァに向かい笑みを浮かべると、クルヴァは肩を震わせ笑い始めた。


「この目、珍しいからか不気味がる奴が多いんだよ」

「えっ、もし言われたら言って!私がその人の何倍もクルヴァさんの瞳は綺麗だって言うから!」

「……」

「だ、だめ?」

「いいや。ありがとな」


 ぐしゃぐしゃと髪をかき回され悲鳴を上げる。

 文句を言おうとしたけれど、嬉しそうに微笑むクルヴァに文句を言う気は失くなってしまった。

 ほんの少しだけ。クルヴァの心に触れた気がして、この先もクルヴァの心に触れる機会があればいいなと思えた。




































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