必勝アドバイス
街に向かう途中にあった小川の近くで、今日は野宿をすることになった。
クルヴァは小さな火を出すくらいの、火属性の魔法を使えるそうで、火起こしの役を買って出てくれた。
クリスが釣ってきた魚を焼くのはクルヴァとライマ。焚き火の木々を拾ってくるのはリツの役目となっている。
木々を拾っている途中、リツ!とクリスが呼ぶ声が小川の方から聞こえてきた。
何事!?と思い木々を抱えながら走っていくと、大きな石の上に座りイジイジといじけている。
これはもしや……と隣に座る。
「ライマのことで何かあった?」
クリスが悩むのは大抵ライマのことで、物事が上手くいかない時には、こうしていじけていることがある。
「リツ~」
今にも泣きそうで情けない顔を見せるのは、かなり参っている時だ。お兄さんらしさの欠片もない背中をポンポンと撫でて、クリスの話を聞いていく。
「ライマがクルヴァに惚れそうかも」
「え!?」
まさかそんなことに?と魚を調理しているであろう2人の方を見る。クルヴァは誰とでも仲良く出来るタイプなのか、聞き上手で話しも面白いからかライマも楽しそうに話をしている。
その光景を微笑ましく見ながらクリスに視線を移す。
「クリスには宣言したと思うけど、私ライマが幸せになるんだったらクリス以外の応援もするからね」
「何だよ。妹なら応援してくれたって良いだろ」
「お兄ちゃんを応援はしてるよ?でも、ライマの幸せが1番だから」
小さい頃から女神力が強かったライマは、リツと同じくずっと教会育ちだ。そんなライマが外の世界の人に興味を持つことは良いことだと思っている。
「それにクリスだって、ライマを思うだけで何の行動もしてないでしょ?」
「具体的に何すれば良いと思う?」
「うーん……贈り物とか?ライマ花好きだし」
キラキラした金色の髪の毛の美人と花。想像しただけで美しくも綺麗で、絵になる光景だろう。
「花か……」
「ライマに花の贈り物ねぇ」
「そうそう花……ってクルヴァさん!?」
「うおっ!」
まさかクルヴァが聞いているとは思わず、2人してビクッと体を揺らす。
さっきまでライマと一緒にいたはずと、焚き火の方を見ると、ライマが片手に魚を持って手を振っている。
「魚焼けたぞ」
どうやらクルヴァは人をからかうのが好きらしい。ニヤリと笑う姿から見ても思ったよりも意地悪そうだ。けれど、真剣に悩んでいるクリスに向かってアドバイスをしてくれるようで、面倒見は良いようだ。
「まずは、隣にいて言葉をかけることだ。ちなみにライマの趣味は?」
「ライマは本を読むのが好きだな」
「じゃあまず、街に行ったら本を読める場所のチェック。少し位は自由時間あるだろ?」
「まあ、多少は」
「そこで欲しそうな本をチョイスして、然り気無く買ってやったり、好きな物を食わしてやったり……まあ、まずは相手に意識してもらうことを優先してみりゃ良いんじゃないのか?」
クルヴァの最もらしいアドバイスに思わずパチパチと拍手をしてしまう。クリスはいつも傍にいるだけで満足してしまうから、ライマの好きな物に一緒に触れるのは良いかもしれない。
「ライマが花も好きならそれも渡しても良いかもな。どんな花が好きなんだ?」
「ライマはピンクの花!」
「確かにピンクも好きだけど、ライマは黄色!」
ピンクが似合うと自信満々に言ってみたけれど、クリスと意見が合わなかった。呆れた顔を見せたクルヴァは、暫く考え込んで近くにある花を眺める。
「この中だったら?」
これ!と指差す2人の意見は全く合わない。こうなったら勝負しかない。
「クルヴァさんも参加して!」
「は?何に?」
「ライマに似合う花を選ぶんだよ!」
「……はぁ」
何で俺までと面倒臭そうな態度を見せたクルヴァも、渋々参加してくれている。
川辺にある花は結構色とりどりで、どれがライマに似合うかな……と考えながら選んでいく。
3人それぞれ選んだ花を布に包み、どれが誰が選んだか分からないようにライマに見せた。
「ライマ。この中でどのお花が好き?」
「え?そうね……これかしら」
綺麗な指で取ったのは白い花。それはクルヴァが選んだ花だった。
「そんなぁぁぁぁぁ!!」
「俺はダメな奴だぁぁぁぁ!!」
叫びながら崩れ落ちるリツとクリス。その光景を見てクルヴァは腹を抱えて笑っている。
ライマはその光景に驚きながらも、全ての花を貰った後頬を緩ませ花の匂いを嗅ぎ、ピンクや黄色の花を暫く嬉しそうに眺めていた。
***
***
プレゼント以外でも、クルヴァの指導は的確で、旅の疲れを癒す方法や言葉のかけ方などのアドバイスを、クリスは真剣な様子で聞いている。
そして休憩時間になるとライマに話しかけ、アドバイス実行……となる筈が、緊張してオドオドして失敗するを繰り返してしまった。
そんなことを数回繰り返した所で、ライマは杖でガツン!と地面を叩いた。
「クリス!一体さっきから何なの!?」
「えっと」
「言いたいことがあるならハッキリ!」
「は、はい……」
昔からライマが怒ると怖い。クルヴァも初めて目の当たりにしたからか目を丸くさせている。
それでも何とか出来ると信じていたけれど、怒られてシュンと縮むクリスを見て、リツとクルヴァは顔を見合せ同時にため息を吐いた。
どうやらクリスのライマ攻略は、まだまだ遠いようだ。それよりもライマは好い人を見つけてしまうのでは?と思ってしまったのは、クリスには言えていない。