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結界が崩壊した村

 街中は教会の人達による結界に守られ、外敵が入ってこないようになっている。でも、魔王の力が強まると共に結界は消滅し、外敵が街中に入ってくる危険が増えていく。

 外敵というのは魔物と呼ばれる謎の生き物だ。200年前の女神と魔物の戦い後に突如として現れたらしい。

 それに対抗するのが光魔法で、ライマが得意としている。杖で魔法を唱えて補助をしてくれたり、人々に癒しを与える魔法もある。

 そしてそのライマを補佐するのがクリスの剣。ライマを守ったり、剣で魔物を攻撃することも出来る。

 そしてリツの武器は拳だ。魔物を物理的に殴る。そんな人はリツ以外にいないと言えるのは、一般的な人は武器を持たずに近づくと、魔物の攻撃に耐えられないからだった。

 怪我をしたら治してくれるライマがいる。だから気合いでなんとかなる!と言うリツに、ライマとクリスは苦笑いを見せた。


 地図を見ると割りと近い場所に小さな村がある。

 まずはそこに向かい、計測器を使って女神力と魔王力を測っていく手筈だ。

 魔王力が強ければライマにより浄化をする。それで下がらなければ、魔王になる危険性があるということで教会に連れていくらしい。

 2人の説明を受けながら小さな村につくと、中から腐臭がしてきた。

 魔物特有の腐臭に3人の表情が強張っていく。

 小さい村では既に結界の崩壊が起こってしまっているようだ。

 ライマを後ろに下げ、クリスが先頭となり村の中心に進んでいく。

 民家はボロボロに崩れ、血を流した人が倒れている。


「生きてる人を探そう」

「うん。ライマ、気をつけて」

「ええ、2人も」


 ライマの返事を聞いた直後、キシャァァァ!と魔物の鳴き声が聞こえてきた。

 声の方向へ急いで駆けつけると、コウモリのように羽のついた魔物数匹と男性が1人で戦っていた。赤茶色の短い髪の毛。教会の男性が着るような深紫色のローブを改良し、裾は長めでも動きやすい服装をしている。魔物に対抗する武器は短めの双剣だ。片目を髪の毛で隠しているせいで動きにくいかと思いきや、魔物の攻撃を素早く交わして剣で突き刺していく。


 他にも魔物がいるようで、ライマは杖でクリスの剣に光を注いでいく。

 光輝く剣を構えたクリスは一気に走り出す。

 クリスの剣捌きは教会随一。その辺の魔物には負けないだろう。魔物の攻撃を避け剣を振るう。

 ライマを守りながら戦うリツは、クリス同様光魔法を拳に纏う。

 元々光魔法を貰えない体質だったリツも、様々な方法を試した結果ライマからの光魔法なら貰えた。それはライマがリツに合うようにと、光魔法を絶妙に加減してくれているお陰だろう。

 弱い人間から襲うつもりなのか、女の方に向かってくる魔物達を見据えた。

 足にも自信があるリツは、近くにある家の壁を手と足を使い登り、魔物と同じ目線に立った。


「残念!ライマの光を貰ったから怖いもの無しだよ!」


 家からジャンプし、魔物の中心に向かって拳を振り落とす。


「せぇぇぇのぉぉぉぉ!!」


 気合いを入れた一言と重い拳が魔物の脳天を殴り付けた。

 上からの勢いと叩き付けられた勢いで、魔物は地面にめり込んでいく。近くにいた魔物も風圧に巻き込まれたようで、家々の壁に激突していく。


「はー、スッキリした」

「こらリツ!ライマが近くにいるだろうが!」


 目一杯の力を籠めると、辺りの人間ですら吹っ飛ばしてしまう。

 クリスの言葉にハッと見ると、リツの行動は予想済みだったのか壁の後ろに避難していた。


「私は大丈夫。それよりあの男性の元に」


 ライマの言葉に直ぐに男性の元に向かうと、男性は一組の男女の元で跪いている。


「怪我はしてませんか?」

「ああ、助けてくれてありがとな」


 こちらに視線を向けずに2人をじっと見つめている男性の傍に寄る。

 泣いてはいないが、とても寂しそうな表情をしていて、見ているだけで胸の奥が痛くなる。


「知り合いなんですか?」

「……女は俺の初恋相手」


 ポツリと呟く言葉の意味は、恋をしたことがないリツでも複雑な心境なのだと良く分かる。きっと今も思い続けているのだろう瞳の揺らぎに、こちらまで悲しくなってしまう。


「長い間隣に住んでた。結婚してても忘れられない相手だ。……そんな女を助けられなかった」


 悔しげに言葉を吐いて、女性の手と男性の手を繋げた。女性は結婚してしまったようで、叶わなかった想いを、男性はずっと胸に抱えていたのかもしれない。

 こんな風に悲しい思いをする人が、魔王復活が近づくにつれ増えていく。そんな思いはさせたくない。


「お墓作ろう」


 ライマとクリスに伝えると、2人して目を瞬かせる。


「時間無いなら2人で先に次の街に行って。私1人でもやるから」


 知らない村の人達でも、こんな所で野晒しにしたくない。そう思って伝えると、2人とも苦笑いをしてリツの頭をポンと撫でた。


「この辺に広場ってないか?」


 クリスの言葉に男性は視線を上げる。


「あんたら正気か?この人数全員の墓を作るってのかよ」

「我が儘な妹がいるもんで」

「1度決めると頑固なんですよ」


 リツの性格を分かっているのか、諦めたように笑った2人は杖と剣を片付ける。

 その光景に男性は笑みを溢しリツを見た。


「広場はこの先にある。手伝ってくれるか?」

「勿論!力仕事は任せてください」


 ドン!と手を胸に当てて笑うと、男性もリツに笑みを返した。



 ***



 ***



 男性の名前はベル・クルヴァ。年はライマ達と同じ22歳らしい。

 女性は3歳年上の憧れの人だったらしく、一時期付き合っていたこともあるらしい。その時が1番幸せだったそうだ。

 その女性と結婚相手の男性を同じ墓に入れる。

 他にも小さな子供を守るように亡くなっている両親や、老夫婦が互いを守りながら亡くなっている姿があった。

 全員顔見知りの村で、必死に戦いながらも1人だけ生き残ってしまったクルヴァの心境を考えると悲しくなっていく。

 出来上がった墓の前でポタポタと瞳から涙を溢す。

 そんなリツの頭をポンポンと撫でてくれたクルヴァの瞳も、悲しそうに揺れている。


「知らない奴等のために泣いてくれてありがとな」

「これ以外何も出来なくてごめんなさい」

「いいや。率先して墓を作ってくれたんだ。謝る必要はない」


 立ち上がったクルヴァは3人の前に立つ。


「魔王復活の阻止。俺にも手伝わせてくれないか?」


 先程の戦いっぷりから見てもクルヴァは戦力になる。

 ライマとクリスは考えた末に笑顔で頷く。パァッと表情を輝かせたリツが、クルヴァの手を握りブンブンと振り回した。


「クルヴァさん。これからよろしくね!」

「おう。………痛い、痛い!」

「あ、ごめんなさい」


 パッと手を離し恥ずかしそうに笑うが、怪力女なのはバレてしまったようだ。そもそも墓作りの段階でバレていたか……と考え、照れた笑いを見せる。


「よろしくな」


 リツの頭をぐしゃりと撫で、村周辺の案内をするためにクルヴァが歩き出す。

 2人の様子を見つめ頬を緩ませたライマと、その光景を複雑そうな瞳で見つめるクリス。

 その瞳から分かるのは、仲間内の人間関係が複雑になりそうだということだろうか。

 先行きが不安になるような、そんなパーティーがここに誕生してしまった。






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