数値0人間
200年に1度復活する光の女神と闇の魔王。
2人が揃う時、熾烈な戦いにより、国は戦火へと巻き込まれるだろう。
災いを防ぐためには、女神の力により魔王を倒さなくてはならない。
魔王を倒すことが出来れば、また200年の平和が訪れるだろう。
それがこの国に古から伝わる言い伝えだ。
そして今年がその200年目。
未だに魔王どころか女神すら出てきていない、平和な日常が続いている。
焦ったのは女神復活を待ち望んでいる聖女神教会の人間だ。いつ魔王が出てくるか分からない今、何としても女神を見つけ出さなくては。
そう考え、街にいる人々を集め女神力と魔王力を測っている。
この世界には女神力と魔王力なるものがある。
丸い機械に手を添えると、自動的に数値を計測してくれる機械により女神力や魔王力が分かるらしい。
白い計測器は女神力を測る機械。黒は魔王力を測る機械だ。
人々の数値は様々で、100は女神として崇められる。女神を発見すると、神々しい輝きを発する機械を見れるらしいが、200年も生きている人がいない今、誰も見たことがない。
50から99までは女神候補。一般的に聖女と呼ばれている。聖女は女神に仕えることが出来る、名誉ある資格を持つ。しかも女神力を上げられれば、女神となることも可能かもしれない。
なんて言われれば、聖女になれる人は皆聖女神教会に入る。そこで光魔法を学んだり、教養を学んだりしていく。
1から49までの数値の人は一般市民。特に階級があるわけでもないので、街で働き幸せに暮らせているらしい。
街の入り口や教会の窓口にも計測器が置いてあり、いつでも教会の人が測ってくれる。なので市民もたまに測り、数値が上がった所で聖女となることも可能だ。
だから……と教会の窓口に立つ1人の少女がいた。
窓口の係員は少女の顔を見て辟易した顔を見せる。
「0。お前はやっても意味がないだろ」
「今日だって皆のお手伝いしたし、少しは成長してるかも!」
「はいはい」
計測器をポイッと投げられた、0と呼ばれた少女は、キャッチした所でピー!ピー!というエラー音が鳴り、不満の声を漏らす。
「やっぱり壊れてる」
「お前はいつもそうだろ。なぁ、0ちゃん?」
「もー、私の名前はリツだってば!」
計測器は誰でも測ってくれる上に、細かい数値まで計測してくれる。
なのにリツは係員の言った通り、いつも0数値を出す上に、エラー音まで出してくる。こんな人間はリツ以外にはいないだろう。
何故そんな体質なのかと言えば、リツがこの世界の人間ではないからだった。
女神と魔王の力を探る魔法を開発途中に、誤って違う世界から召喚されてしまった。それがリツだった。
当時4歳のリツはパジャマ姿で、どよめいている人々を見回した。
すくっと立ち上がり、警戒心を露にする教会の人間たちの中でリツは、パアッと表情を輝かせた。そして言った言葉は、私元気だ!だった。
「4歳の女の子がパジャマ姿で男神の間で、私元気だ!だぜ?呆気に取られたよな」
「だって走り回ったことなかったんだもん」
生まれた頃から体が弱く、遠巻きに見つめる家族しかいなかったあの世界では、あまりいい思い出がなかったし、あの時は病死寸前だった。
だからこの世界に召喚されて、自分の体がこんなにも軽いのだと知って、テンションが上がってしまい、教会の人々を驚かせてしまった。
「パジャマ姿で息が切れるまでピョンピョン飛び跳ねてたな」
疲れ果てるまで飛び回り、感激しボロボロと泣いていた。そんなリツに近寄ってきたのは、召喚してしまった張本人の、ナルスナ・ジェフだった。
ジェフはまだ得体の知れないリツを抱っこし、楽しかったか?と問い掛けてきた。
「うん!おじさんだーれ?」
「おじさんか?おじさんは、この建物の中で働く偉い人だ。君をここに呼んでしまったのは、おじさんなんだ」
「おじさん私に会いたかったの?」
「そうだな。君は寝る所だったのかな?」
ジェフの言葉に首を振ったリツは、今病院にいることと、もうすぐ死ぬかもしれないことを伝えていく。
「夢でいっぱい走れて嬉しい!走っても苦しくないもん!」
「そうかそうか」
ニコニコと聞いてくれるジェフの暖かさに包まれ、リツはうとうととし始める。
「ん……起きたら、おじさんもういない……?」
「いるよ。だから安心して眠りなさい」
そうして眠りについたリツをジェフが抱え上げ、客間で寝かせてくれたそうだ。
翌日、名前や年齢を聞かれ素直に答えていった。4歳の頭で考えるのは難しかったけれど、もう病院で1人でいなくていいこと。病気で苦しまなくて大丈夫なこと。教会の人達が家族になってくれることを知って、ここで暮らす!となったのは、今でも良く覚えている。
呼んだのだから帰せる方法も分かるのかと思いきや、偶然の産物らしく分からないらしい。
それでも良いと思えるのは、帰ってもどうせ死ぬ運命だったからなのと、ここの人達のリツを見る目が、とても暖かかったからだった。
教会で暮らして早14年。リツは今年18歳となった。
例え0数値だろうと、今では皆に慕われる存在となっている。リツもそれに答えるために日々雑務をこなしている。
「リツ!ちょっと手伝ってくれ!」
「はーい。じゃあね!」
「もう来んなよー」
計測器を持ちながら手を振る係員にべーっと舌を出し、呼ばれた場所に向かう。
どうやら古くなった家を解体して新しい家を建てるらしい。
よし!と気合いを入れて瓦礫を運んでいると、リツ!と焦ったような声が聞こえてくる。
上を見上げると、大きなレンガが頭上に降ってきた。
これは逃げられないと分かった時点で、リツは両足を開き力を込める。
「はぁぁぁぁぁ!粉砕!」
右の拳をレンガに突き出すと、レンガは木っ端微塵に崩れていく。右手は勿論無傷だ。
この世界との相性が良かったのか、体は丈夫になった……と言うよりも丈夫になりすぎている。風邪も引くこともあるし、怪我も一応あるけれど、何よりこの力はおかしい。体術が異様なくらい発達していて、拳1つで何でも粉砕出来てしまう。
「流石怪力女」
「もしかしてそれのせいで0なんじゃね?」
「まあ、違う世界から来たってのもありそうだけど」
この街の人間はリツがどういう人なのか分かった上で受け入れてくれている。それは父親代わりとなったジェフのお陰もそうだが、リツの明るさによるものもあるだろう。
そんなジェフを喜ばせたい一心で、教会で頑張りいつか女神か聖女になりたいと願っている。
それなのにいつまでも0のまま。
一応慰めてくれているだろう市民をキッと睨む。
「私は女神か聖女になりたいのー!」
「無理だろ」
「まず市民を目指せよ」
突っ込み通り市民すらも遠い。ガクッと項垂れるリツを、市民や教会の人達が取り囲んで慰めながらも笑う。
それがリツにとって、守りたい大切な日常だ。