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episode:1

夏は短し、恋せよ乙女。


“六番線に列車が参ります、黄色い線の内側でお待ちください。”


いつもとなにも変わらない、夕方。

周りはザワザワと忙しそうに動いている。

そんな中に、夏目梨々花はしゃがみ込んだ。


ズキッ


「痛い…頭が割れそう。」

頭の中を雷が落ちるような頭痛が走り動くことすらできない。

(誰でもいいから…誰かに連絡…)


鞄の中を必死に探るがこういう時に限って携帯電話が見つからない。



「おい、女。どこか悪いのか?」

上から声が降ってきて、思わず上を向く。

そこには、同じ高校の男子生徒が立っており、こちらの様子を伺っている。


「鞄を持ってやるから、近くのベンチまでとりあえず行くぞ。」


「ちょ…、触らないでよ、無礼者!」


「弱ってるときにつべこべ言うなよ。めんどくせなぁ。」


グイッ

腕をひかれ、近くにあるベンチへと移動する男女。


それが彼との出会いであった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「梨々花ちゃん!昨日は大丈夫だったの?」

甘い匂いを振りまく幼馴染が教室へとやってきて心配そうにこっちを見ている。

(うらら)、おはよ。昨日は心配かけたわね。」

もうすっかり元気よ!とウインクして見せた。


「昨日はものすごく顔色も悪かったから…梨々花ちゃんが死んじゃったらどうしようかと…」親友の春野うららはウルウルと今にも泣きそうになっている。


「ちょっと!勝手に梨々花のことを殺さないでよね!」


「ところで、昨日の男性は誰だったの?」

「男性?」

「ほらっ、ベンチで一緒にいた人だよ!私が来たらすぐに帰っていったけど…。」

もしかして…恋人さん?


「ねぇ…麗。この梨々花が恋人を作ると思う?あの夏目梨々花様だぞ?」

「思わない、かな。梨々花ちゃんは男性がすごく苦手だもんね。」

「麗にだけは言われたくない。あとひとつ言うけど。苦手じゃなくて、嫌いなのよ。」


「せっかく梨々花ちゃんかわいいのに。」


確かに可愛いです。

この世の中に虜にならない男女なんていないもの。

100人に聞けば、きっと95人は可愛いといって寄ってくるだろうし、

後の5人は負け惜しみで「大したことがない」なんていうでしょうけど、

梨々花の顔と交換してあげると言えば、確実にyesと答えるはずよ。


人生でなに不自由なく生活をしていた。

ただ一つ、男性という生き物がどうしても好きになることができなかった。


「昨日の人なんて顔も覚えていないわ。」

まぁ、梨々花の腕に触れただけ感謝をするべきよ。


梨々花の男嫌いは有名であり、全校生徒が知っていた。

そのため、誰も自ら声をかけてくる男性なんて近くにはおらず

誰の名前・顔も認識が全くないのであった。


「お礼は言いに行かなくていいの?」

「お礼?梨々花に声をかける無礼者に伝える礼なんてあるわけないじゃない!」

「もしかしたら運命の出会いかもよ?」

「それ以上言ったら、許さないわよ。」


最近妙に親友は恋愛へと繋げたがる。

理由は「恋愛漫画」の影響らしい。

人間関係が苦手な親友が漫画を見て、現実離れをしていることがバカバカしいと思っている。

「もっと現実を見ることね。麗はまず、人見知りをどうにかしなさいよ。」

「大丈夫!今ね、主人公が人見知りだけど、徐々に周りと仲良くなっていく話の漫画で勉強をしるの!」それで恋もして~恋人だってできちゃうんだから!

と笑顔で話している。


そんなだから春うららなんて周りに言われるんでしょ…。


麗は、既に自分の世界に入っており言葉なんて、耳に届いていない。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





女子高校生がこんな話をしているなか、男子たちは密かにざわついていた。


「昨日見たやつがいるんだって!」「あの夏目梨々花の腕をつかんだ男が?」

「梨々花ちゃんと話してる男なんてみたことないけどな…」「うらやましい。もしかし彼氏かな?」「いや…まさかな~。」



学校中の男性は朝からこの話でもちきりであった。

「おい、幸太郎。お前ちょっとこっちにこい!!」

机で伏せて寝ていたとある男子高校生は、幼馴染にたたき起こされ、人気の気のない階段へと呼び出されていた。


「あんまり引っ張るなよ。」

「お前、どういうつもりだよ!」


「いきなり挨拶もなくなんだよ?主語がねぇし、意味が分からない。」



「夏目梨々花!!!」


なつめりりか?誰だそれ。

「おい、言いたいことがあるならはっきり言えってば。」

「俺、見たんだからな!お前があの夏目梨々花とベンチに座っているところを!!」


…?

「いやいやいや、なにとぼけてるんだよ!!昨日の帰りだよ!か・え・り!!」


昨日の帰り…なにかあったか?


「17時半ごろ!!駅のホーム!!」


駅のホーム…あ~

興味が無いせいですっかり忘れていたが。

「そういえば…したな。人助け。」


柄にもなく行った人助け。

相手の名前も顔も知らない。そういえば、同じ学校の制服着ていた気がするな。


「その相手が問題なんだよ!」

「知らない女だったな。」



「幸太郎、お前…それでも男かよ。いいか、お前が助けたその女は夏目梨々花だ。この学校で1・2を争うであろう美少女だ。噂では、親は社長でお金持ちだし。いわゆる高値の花だ。」


そしてなにより、男が嫌い。


幼馴染の(りょう)によると男と話している姿などは見たことないほどと。


「そんな高値の花が男と話している姿が昨日目撃されてだ。学校中は大騒ぎだぞ。」


俺にとっては別にどうでもいい話だった。

「心底興味が無いね。」


「あ~お前はそういう男だったな。」


生まれてこの方女なんて興味のかけらもなく高校生にまでなった。


「俺は、悲しいよ。こんな幼馴染をもって。」



“ザワザワ”


「今日の梨々花ちゃんもかわいい!」「目の保養だ~~」

「麗ちゃんと歩いてる!!」「今、こっち見たよな!!」


女子・男子ともに廊下で盛り上がっており、ちらっとそちらへ目を向けた。


「おおお!噂をすれば!!今日もかわいいね~~あの二人!梨々花ちゃんと麗ちゃんだぜ。遠くから見ていてもオーラが違うよな。」


俺にはよくわかんないけど…



「まぁ、昨日よりは顔色はいいんじゃね。」


「ん?なんかいったか?」


「なんでもねぇよ。それよりそろそろ教室に戻るぞ。」




「梨々花ちゃん?どこ見てるの?」


はっ。


「いたのよ。昨日の男。」


「え!!どこどこ?!」


「遠くにいただけよ。もうどこかへ消えたわ。」

正面を向きなおし不機嫌に歩行の速度を速める。


「なんだ~昨日梨々花ちゃんのことで一杯いっぱいだったから顔をよく見てなかったのに~。」

「別にみるだけ無駄よ。あんな無礼者。」


「運命かもなのに~。」


普段は通らない道を通ったせいか、見たくもないやつを見てしまうし。

今日も災難な日かもしれないわね…。



それにしてもあの男、梨々花を目の前にしてなにも感じないのかしら。

あんな不愛想に睨み付けてきて。



男性に睨まれたことなんて人生の中でなかった彼女にとっては初めての経験であった。

周りは相変わらずザワザワと盛り上がっていたが、彼女の表情は氷よりも冷たかった。


(なんで梨々花がこんな気持ちにならなくちゃいけないのよ。梨々花よ、可愛い梨々花なのに。)


イライラと過ごした授業はとても早く感じ、気が付けばお昼休みとなっていた。


「梨々花ちゃん!今日のお昼はどこで食べる?」


「午前中があっという間だったせいで全然お腹が空いてないのよね。」


「なんかずっと難しい顔していたもんね。」

難しいというか…威圧的というか…不機嫌というか…


「じゃあ気分転換も含めていつものところ行っちゃお!」


「麗は遊びたいだけでしょ。」


ご機嫌斜めな梨々花の手を引き向かった先は

特別室3と書かれた部屋であった。



ガチャ



「今日は今はやりの恋愛漫画を持ってきたの~」


「あら。先約がいるみたいよ。」


いつもは熱い空気がこもっている教室だが今日はかすかに風が通っている。

そこには、窓へ手をかける2人がおりヒラヒラと手を振っている。


「久しいわね、麗に梨々花。」


「おおお!珍しく全員そろったな!」


そこで待っていたのは幼馴染の冬城華恋(ふゆきかれん)千秋真琴(ちあきまこと)である。


「あっ!2人ともこっちにいたんだ!」


「私は今朝の飛行機で帰ってきていてね。時差ボケをしているみたいだから、すぐに帰るわ。」


華恋は世界を飛び回っており、あまり日本では会えない人物である。

今回はロンドンへ行っていた影響か、顔には疲労が表れていた。


「ロンドンって私はいったことないんだよね~いいな~いいな~」

英国紳士!と言わんばかりに目をキラキラさせる麗がいた。


「麗はまた本にはまっているのね。男性はたくさん見てきたけど…あまり違いはわからないわ。」


「本じゃなくて!ま・ん・が!」

プクッとほっぺたを膨らましている。


「梨々花は変わりないの?」


「えっ?!なによ急に…別に変わりないけど。」


「だって、会ってからずっと眉間にしわが寄ってるわよ。」


それは昨日からずっとであった。無意識に難しい顔へとなっていたらしく。

朝から友人たちには突っ込まれてばかりであった。


「たまには梨々花にだって悩みぐらいあるのよ。」


「悩み…それは恋しかない。」

麗の思考回路には今日一日でだいぶまいっていしまった。

ルンルンと楽しそうに話す麗を睨み付けたのであった。


「おおお、梨々花がものすごく睨み付けているぞ。これは俗にいう、図星とやらだな。」

「真琴…あんたまで梨々花にそんなこと言うの?!」


「恋なんてめでたいではないか!しかし風紀は乱すなよ!!

私は生徒会長としてそれは見逃せないからな!!」


千秋真琴は適当であるが生徒会長であり、風紀に対してはうるさいのよね…



「話が盛り上がってるところ申し訳ないけど、恋をするなら死んだほうがまし。」


なんか文句ある?



男と近づくなんて考えただけで、ぞわっとする。


「私はそろそろ家に帰るわ。」

凍り付いた空気を破ったのは、華恋であった。


「おお、私も生徒会室に戻るとするかな。」


時計を見るとすでに半分しか昼休みは残っていなかった。


「麗、早くご飯を食べないと。」


二人は弁当を広げた。


「あっ!今日ね駅前で買い物をしようと思ってるんだけど…」

梨々花ちゃんも一緒に来て!


お願いっ!と麗は上目遣いをした。


「え~あんな人込み行きたくない。なんで梨々花があんなところ行かなくちゃいけないのよ。」


「お願い。お願い。お願い!!」


「別に買い物なら執事さんにでも頼めばいいでしょ。」

「自分で見て決めたいの!!」


必死に頼まれた挙句、仕方がなく麗についていくことにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



下校途中に連れていかれたのは、駅前にある本屋さんであった。


「麗…まさか…」


「今日ね、新作の恋愛漫画の発売日なの!」


(しょうがなく来た用事が、恋愛漫画のためって。)


麗が漫画コーナーを隅から隅まで見ている間、梨々花は用もなくプラプラ歩いていた。


(本屋に来るなんて、何年ぶりかしら…なんだか)

久しぶりに来ると新鮮かも。


と思いながらいろんなコーナーを歩いていた。



歩いているうちに図鑑コーナーとなり目の前にあった、魚の図鑑を手に取ってペラペラとめくってみた。


「おねぇちゃんもお魚さんが好きなの?」


“ビクッ”



急に下から声がして思わず本を落としそうになった。


「え?あっ、魚?いや…あんまり生きている姿は見たことないわね。」


下には知らない女の子が立っており、目を丸くしていた。


「おねぇちゃん…泳いでるお魚さん見たことないの?」


「…そういわれると、無い。お皿の上でしか見たことないかな。」


「お皿の上…?じゃあさっちゃんね、今度お兄ちゃんと水族館いくの!おねぇちゃんも一緒に行こう!」


そして梨々花は小さな手に引っ張られていった。


「えっちょっと、どこにい…」「おにいちゃん!!いた!!!」


前をみると昨日の男、幸太郎が立っていた。


““ゲッ””


お互い明らかに嫌そうにしており、場の空気が一瞬止まった。



「あーえっと、ごめん。ほらっさちか、知らない人に迷惑をかけちゃダメだろ。ほら、謝るんだ。」



「さっちゃんね、おねぇちゃんと一緒に水族館に行くんだ~~!」


ねっ!


こういう時の小さい子の破壊力にはさすがに勝てないところがある。

キラキラと目を輝かせている小さい少女に梨々花は動けないでいた。



(ちょっと、なにこの状況…)


梨々花と幸太郎は凍り付きしばらく動けないでいた。


沈黙を破ったのは幸太郎であった。


「ほ、ほら、さちか!帰りにお菓子を買ってやるから!」


「やだ!!お母さんだって一緒に行けないじゃん!ヤダ!」


少女の声も少しずつ大きくなり、周囲の注目も集め始める。



「お母さん一緒にいけないの?」


急に言葉を発した梨々花に2人の視線が集まる。


「おかあさん…調子が悪くてね。一緒に行けないんだって。」

「おい、さちか!」


「私は別に、行ってもいいけど。」



…。

「おまえ…何言ってるの?!」


「同情で行ってあげてもいいわよって言ってるの!」


予想外の展開に全然ついていけない幸太郎と

目をキラキラさせてピョンピョンはねているさちか。

なぜそんなことを言ったのか自分でもわかっていない梨々花。


そして陰から一部始終をのぞき見していた麗がそこにはいたのであった。




「ねぇ。梨々花ちゃん?」

「…。」


「ねぇってば~」

「…。」



「梨々花ちゃん…水族館いくの?」


ビクッ


「な、なんの話よ。私がほんとにあんな庶民の行く場所に行くと思う?」


「じゃあさっきのは嘘ってこと?」


「…。麗あんたもしかして…全部聞いてたの?!」


だって…と唇を尖がらせている麗に向かって梨々花は冷たい視線を送るが

効果は無いらしく。


「梨々花ちゃんばっかりずるい。」

「昨日の借りを返すだけよ。」



「昨日の借りって、まさか昨日の男子高校生?!」


麗の目はキラキラと輝きを放っていた。


(借りは返さないとね。あんなやつに借りなんて作ってたまるものですか。)



幸太郎とさちかは明日の休みに水族館へ行くらしく、

さちかの願いをかなえるため、自分のプライドを守るために


行ったことのない水族館へ足を運ぶことを決意したのであった。



「ねぇ!梨々花ちゃん!何かあったら絶対に報告してね!」



「なにか?無礼者を蹴飛ばしたり、殴ることは避けるつもりよ。」


「それは…世間的にやめといてください…。」



しばらくしてお互いに迎えを呼び、それぞれの車へと乗りこんでいった。


「ねぇ、桐。あなたは水族館へいったことある?」


突然の主人の問いに、使い人である(きり)は驚いていた。


「梨々花様からそのような質問が出てくるとは思いませんでした。」

なにかあったのですか?


桐は心配そうにルームミラー越しに視線を送っている。

「ちょっとね。明日水族館とやらに行こうと思ってね。」


「明日ですか、ずいぶん急ですね。水族館は、魚が大きいな水槽で泳いでる感じですよ。」

「お皿に乗っている魚以外は別に興味ないんだけどね。」


「梨々花様…水族館でおいしそうは禁句ですよ。」


「!?失礼ね!そんな食いしん坊な発言しないわよ!」


「出過ぎた真似をしました。麗様達と行くのですか?」

「いやっ…麗じゃなくて」


“無礼者と小さなその子分と行くの”



桐は嬉しそうに微笑み、梨々花に優しい視線を送った。


「明日は駅の前で待ち合わせだから。間違えても後をつけてこないでよ。」



「かしこまりました。」



(そういえば…あいつの名前も連絡先もしっかり聞いてないけど…大丈夫だったのかしら…。)


本屋では、その後すぐに麗が登場し待ち合わせ場所と時間のみ伝えてすぐに帰ってきたのである。


(まぁ、なんとかなるわよね…。)


その後いくつか桐にアドバイスをもらい、気が付けば家へとついていた。


「今日はご飯はいらないわ。」

「梨々花様…それは健康に悪いですよ。」

「大丈夫よ、麗と少し食べてきたの。それに準備もあるから、忙しいのよ。」


「かしこまりました。」と桐は部屋へと向かう梨々花を見送った。


“ガチャッ”



この後、何時間か梨々花は携帯とにらめっこをしていたのであった。

外はとっくに暗くなっており、月がきれいに見えていた。


「水族館には、ラフな格好と…」



検索ワードは“水族館を楽しむには”



待ち合わせまで後12時間、梨々花は着々と支度を始めたのであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


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