終わりは突然に
「手がお留守になってるぞ」
「あん! もう!」
課題を提出できなければ退学だ。
護るべきものも気にかかるが、退学の憂き目にあえば今度は今後の生活が厳しい。
「安請け合いするからいかんのだ」
「分かってるわよ……でも、他に頼める人がいないと言われて、おいそれと見過ごせないじゃない」
ペンを再び持ち上げて、レポートをまとめていく。
その速度はまだまだ遅い。
「今ごろあいつ、どうしてるかしら」
「がんがん責め立ててやれば良い。護神の柱をほっぽらかして、何してたんだってな」
「だーからー、責めたくないの!」
「そうやって自分のことは責めてるんだ。違うか? 使ってはならなかった禁呪を使った自分のことを」
「そうよ……捕まったらどうなるか分からないのに」
「あいつは、その禁呪が使えるお前のところにわざわざ護神の柱を持ってきた。完全に意図的なもんだ。だから言うのさ。責めてやれば良いんだとな」
「そうね。捕まったら、あいつに無理やりやらされたんです! なんて言える自分だったらいいんだけど」
彼女にとってそれは現実的ではない願望だったけれど。
少しでも笑える余裕が戻ってきたことに満足して、男は手伝っていた分の課題を仕上げた。
* * *
「本当に良いのか? ひとりで」
「ええ。少なくともあれを預かる期限は後一時間だけだから。
さすがにもう大丈夫でしょ。
あとは時間になったら護りの呪法を解いておくだけ。
簡単だわ。
これまでありがとう。助かっちゃった」
何かあったら呼ぶように連絡先を渡された。
彼女は再度礼を言って男を見送ると建物に戻っていく。
後の一時間は、何事もなく過ぎた。
そして禁呪の解呪も、あまりにもあっけなく。
ただ──ひとつ。
「!?」
雷魔法を解除した途端、激しい水蒸気が長持から立ち込めて、視界を埋め尽くした。
白一色の景色の中で手探りで長持を探ると、火傷しそうなほどの熱を帯びているのが分かる。
「なに……っ」
何をすることもできないまま時はすぎ。
ようやく水蒸気が晴れたころには、もう護神の柱が格納されていた長持は跡形もなくその場から消え失せていたのだった。
そのことに気付いても、彼女はしばらくの間、何もできずに呆然とそこにへたり込んでいた。
何が。
どうして。
頭の中身がくるくる回る。
けれどもできることは何もなく。
日常が戻ってきたのだと言うことに、彼女がようやく気づく頃には、日付が変わっていたのだった。
終