古びた建物の中で
「いや、それは、だって……『まだレポート書き終わってない』『◯日後には提出する』。そう、ちゃんと言えば良いのでは……。言いづらかったのね、すみません」
女はそう言って、ぺこりと頭を下げた。
課題に付き合ってもらっている身分で、あれこれ言えないのだ。
取り組んでいる課題に走らせていたペンを止めて、女は顔だけ奥の扉へ向ける。
気にしないようにと、テーブルを挟んで向かい側に座っている男に言われて、目線を紙に戻した。
戻したけれど、なかなか手は動かない。
ぽつぽつと、話し出す。
「問題は、その後なの」
指から離れたペンが、ころりとひとつ転がった。
「責めたくないわ」
護るために禁呪を使った。それは今も続いている。
奥の扉の向こうには、中身の知れぬ長持。捜索隊が出ていると聞く、それに纏わせているのは、賊を撃退するための雷魔法だ。
風神が統治するこの国で、雷魔法は一般人には扱うことを禁止されている。許可を得ている神官も、儀式の折にしか使わない魔法だ。ましてや罠になどと。
「だから、『私も』って言えるのがいい」
回避しようと思って、数え切れないほど考えて、それでもその結論しか残らなかったら、「自分も」と顔を上げて言える。
それは、駄目なことだろうかと。女は男の方を見て、告げた。