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22 危篤のディートリンデ、フォルクハルトの告白。

 イルザたちは急ぎ馬車を走らせてカミーレの森に着いた。エルフの里にはすでにディートリンデが運び込まれており、エルフたちによる懸命な看病が始まっていた。


「……父さん! ディートリンデさまのご容体(ようだい)は!?」


 ナックが聞くと、エルフの長である彼の父は難しい顔をして首を振った。


「……意識が朦朧(もうろう)とされていてな。薬師(くすし)の見立てでは、五分五分だそうだ」


 長の声は張りが無かった。


「……長よ。頼む、リンデを救ってくれ……!」とフォルクハルトが(うめ)く。


「我々の最善は尽くしましょう。今はお(そば)に」


 フォルクハルトとナック、そしてイルザは、寝台に眠るディートリンデの部屋に通された。


「リンデ……!」

 

 フォルクハルトがディートリンデの手を取った。


「……ナック……」


 意識が混濁(こんだく)したディートリンデの口から、意外な名が()れた。


「僕……!?」


 フォルクハルトの横に、驚きの表情を浮かべたナックが(ひざまず)く。


「……ナック……わたくしの、騎士さま……」


 かすかにディートリンデが微笑んだ。 


「うん、うん、僕はここにいるよ! だから良くなろう、ディートリンデさま!」


 ナックは懸命にディートリンデに呼びかけた。


「……ナック。リンデの手を」 


 フォルクハルトから彼女の手を託され、ナックはそっと優しく自分の手で包んだ。


「……イルザ。すこしいいか?」


 フォルクハルトが、イルザを連れて部屋を出る。


 隣の部屋の椅子に腰かけ、フォルクハルトは深いため息をついた。


「……フォルクハルトさま。ディートリンデさまは助かります。必ず」


 気を落としたフォルクハルトの肩に、そっとイルザが手を添える。


「……しかし五分五分だ。それに、どうやらリンデは彼が好きらしい」

「それは……私も心得ておりますが……」


 イルザも、幾分(いくぶん)気落ちした顔つきになる。


「彼の気持ちはどうなんだ?」とフォルクハルト。


「……憧れの姫君として、ナックもディートリンデさまをお守りしたいと考えているようです」と、イルザは答えた。


「イルザ。……ここは本気で、私との婚約を考えないか?」


 フォルクハルトが真剣な眼差しでイルザを見た。


「何をおっしゃるのです、フォルクハルトさま!?」

「……もしもリンデが死んでしまったら、とは、いつも考えてきたことなのだ。リンデは、もともと体が弱いゆえな」


 フォルクハルトの口調は落ち着いていた。


「リンデにとっても、清浄な気に満ちたこのカミーレの森で、エルフの少年とともにあったほうが幸せなのかもしれない」

「そんな……」

「この度、よく働いてくれた知略に富む君を、我が妻として迎えられれば国も安泰なのではないか。そう考えてしまうのだ」


 イルザは静かにフォルクハルトの言葉を聞いていた。そして、しばらくの沈黙の後。


 パン、と彼女は王子の頬をはたいた。


「なっ……!?」

「これはディートリンデさまのお気持ちの分です。フォルクハルトさま」


 イルザはまっすぐに彼の瞳を見据える。


「ナックに寄せるディートリンデさまのほのかな思いは、これまで殿下に捧げてきた献身に勝るものではありません」

「しかし、ナックもリンデを好いているのだろう!?」

「それは確かに。しかし、……私はナックを、それでも好いております」

「イルザ……」

「フォルクハルトさまの妻になる御方は、ディートリンデさまおひとり。お言葉とお気持ちはうれしく思いますが、ここだけの話と致しましょう」


 イルザはフォルクハルトへ、複雑な気持ちに決別するかのように、優しい微笑みを向けた。


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