20 戦闘、そしてアードラー王の敗北。
「風の伝言」で、時を告げられたナックはエルフの一族を率い、夜闇に紛れてそろりとアードラー城に近づいた。
できるだけ派手に、しかし民衆の被害は最小に。
城内の王だけを狙うこと、それがこの作戦の肝だ。
城下の退路は確認済みだった。
「構え……撃てっ!」
ナックはエルフたちに命じた。
何本もの火矢が、アードラーの堅固な城の壁に突き刺さる。たっぷりと油を含ませた火矢から、たちまちのうちに壁が燃えた。
アードラーの守り手たちがざわめく。
城壁は余すところなく火で覆われていった。
「みんな、退くよっ!」とナック。
火元に人が集まり、消火を始め、城外にも兵が出る動きを悟って、エルフ一団はいち早く退却を始めた。
森に入ればこちらのものだ。夜闇の森にエルフたちは慣れている。そこに、できるだけ外に出てきたアードラーの兵を多く引き寄せることが目的だ。
「あとは、任せたよ……イルザ姉ちゃん!」
ナックは「風の伝言」で、精霊にイルザへ作戦が進んだことを知らせるよう、言葉を託した。
◇ ◇ ◇
城の中は、怒号や悲鳴が溢れていた。
突然の敵襲に、アードラーの騎士たちは城壁の消火と、外の敵に対応するために、ほとんどの者が王から離れていた。
「戦え! 余の敵を一兵たりとも許すな!」
アードラー王は配下に威勢よくそう命じたかと思うと、身の回りの宝石や金銀を手に、自分は逃げるそぶりを見せた。
「陛下はこちらへ……!」
ダミアンが王を手引きする。
「うむ!」
そうして、王は城の最奥の部屋に、わずかな護衛兵を連れて入った。
「……せいっ!」
部屋に明かりが灯る前に、イルザが動いた。
護衛兵を次々と鞘入りの剣で薙ぎ払い、活路を開く。
「アードラー王!」
フォルクハルトが叫び、驚いた顔をするアードラー王を、ついに捕らえた。
「……貴様ら! 故国に戻って潜んでいるのではなかったのか!」
「降伏せよ、アードラー王!」とフォルクハルト。
「誰が小国の貴様らなどに! おい、早くこやつらを殺せ!」
アードラー王がダミアンと護衛兵に激しく命じる。
しかし、彼のために動く者は、誰一人としていなかった。
「貴様ら……余に逆らう気か!」
「……御免、陛下……!」
ダミアンの抜いた剣の先が、王の背を一閃、貫いた。




