15 アードラーへ向かう、フォルクハルトとイルザ。
馬車の中で、イルザはナックからの言葉を受け取った。
「どうした? イルザ」
フォルクハルトが尋ねる。イルザの表情は硬かった。
「アードラーに先手を打たれました。ハーズがアードラーの支配下となり、ディートリンデさまが捕らわれたようです」
「何!?」
「うかつでした。アードラーとて何か策を講じてくるものとは考えておりましたが、こちらの予想以上に早く行動されてしまいました」
「リンデは無事か!?」
「分かりません」
「アードラーにはこちらから決別する! 王都に帰るぞ、イルザ」
「……いえ。ディートリンデさまが人質となってしまった今、殿下が事を荒立ててはいけません。アードラーでの謁見はこのまま行いましょう」
「……何か考えがあるのだな?」
「はい、殿下」
イルザは確固とした面持ちでフォルクハルトを見た。
「聞こう」
「アードラー王との謁見では、思う存分決別なさってください。その結果我々も捕らわれの身となりましょうが、今回はそれが狙いです」
「わざわざ捕まりに行くのか!? ずいぶんと危険な賭けだな」
「向こうはおそらく、殿下とディートリンデさまを人質にして、次は我々の国を手に入れるために動くでしょう。逆に言えば、すぐに殺されることはないということです」
「ふむ」
「王都ゾンネンブルーメに大公一家の密偵がいたように、私にもアードラーにつてがあります」
「本当か!」
「辺境の貴族は、良くも悪くも、国外の者とも懇意にしているものですよ」
「そうなのか……」
「はい。しかし今回はそれが役に立ちます。『風の伝言』でアードラーの協力者に私が言葉を伝えましょう。捕まったあとに逃げられるよう、手筈を整えてほしいと」
「そうまでしてアードラーにおめおめと捕まる理由は何だ?」
「……それは、私たちがアードラーの城を移動するときに、城の見取り図を協力者に用意してもらうこととなりますが、その見取り図がどうしても今後の我々に必要なのです」
「なるほど分かったぞ! 反旗を翻すときに必要なのだな」
「さすがは殿下。おっしゃる通りでございます」
「分かった。そうと分かれば、捕らわれの身となること、大いに結構だ!」
フォルクハルトが豪快に笑った。
一路、フォルクハルトとイルザを乗せた馬車はアードラーへと向かっていった。




