14 ハーズでの、窮地。
ハーズの城に馬車が到着すると、すぐにエレオノーラの父である王に謁見が許された。
「エリィ! 久しいな。元気だったか? そう言ってもお転婆なお前のことだ、付き合う相手も困っているかもしれんがな」
ハーズ王が顔をほころばせた。エレオノーラが王に駆け寄り、ぎゅっと抱きついた。
「お父様! ひどいわ、元気なわたしが可愛いとおっしゃって育ててくださったのはお父様なのに」
王の腕の中でエレオノーラが頬をふくらませる。
「はは、すまんすまん」とハーズ王。
ディートリンデとナックは、そんな和やかなハーズ王とエレオノーラの姿を微笑ましく見つめていた。
「すまん! 急ぎの用だったな。ディートリンデ嬢」
ハーズ王が我に帰って冷静な声になる。
「いえ、久しぶりの再会ですもの。仲の良いご様子なのでほっとしましたわ」
ディートリンデが微笑んだ。
「第一王子の婚約者である侯爵令嬢の貴方がここに来るとは、よほどのことだろう」
「……第二王子様のご婚約者であったカサンドラ姉さまの件がありまして」
「ほう」
「カサンドラ姉さまは、第一王子フォルクハルト殿下の妻となるため、わたくしや先の婚約者さまに害をなしていたのです。そのことが、ここにいるナックや、イルザのおかげで明るみに出ることとなり、ひとを殺した罪でカサンドラ姉さまは牢に入りました。しかし、カサンドラ姉さまのお父上である大公が、家族もろともに牢からカサンドラ姉さまを出し、故郷であるアードラーへ逃げ去ったのです」
「なるほどな」
「今、アードラーへはフォルクハルト殿下が様子を見に行かれました。その間、王都ゾンネンブルーメにわたくしたちがいても危ういかもしれないということと、アードラーと事を構えるようになったもしものときのために、ご助力を願うためにわたくしたちはここハーズに参りました」
「アードラーと事を構える、か。穏やかではないな」
「お願いでございます。ハーズ王、わたくしたちにどうぞお力をお貸しくださいませ」
「エリィからもお願いします、お父様!」
二人の姫の願いに、ハーズ王は苦渋の表情となった。
「……力になりたいのは私の本心なのだがな……」
「どうかしたのですか、お父様!?」
そのとき、謁見の間のカーテンの奥から、ものものしい騎士たちが現れた。
彼らが身に付けている紋章に、ディートリンデは目を見開いた。
「……あなた方は、アードラーの……!」
彼らはアードラーの騎士たちだった。
「なんてこと」とエレオノーラが呟いた。
「ディートリンデ様! お守りします!」
ナックが背の矢に手を伸ばす。
「やめてください、ナック。戦って勝てる状況ではありません。アードラーの騎士たちよ、わたくしが虜囚となりましょう。このナックは、王都にハーズがアードラー支配下となった状況を伝えさせるためにも自由の身としてやってくださいませ」
毅然とした態度で、ディートリンデがナックを諭し、アードラーの騎士たちに懇願した。
「……いいだろう」
騎士の代表らしき男がうなずいた。
ディートリンデは捕らわれの身となり、ナックは城から追い出された。
「……イルザ姉ちゃん……!」
ナックは『風の伝言』を使い、風の精霊に、アードラーへと向かっているイルザへと言葉を託した。




