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13 隣国ハーズへ赴く、ナックと令嬢たち。

 馬車がカタカタと揺れる。馬に乗った護衛たちに守られた一行は、一路隣国ハーズへと向かっていた。


 ナックはディートリンデとエレオノーラの側に付くことを許され、馬車の中で二人との雑談に興じている。


「わあ……わたし、エルフ族はおとぎ話の中でしか知りませんでした」


 エレオノーラが興味深々の様子でナックに笑いかける。


「お耳を触ってもいいですか?」

「……ドーゾ」

「お話で聞いた通り! 本当に長い耳なのね」


 エレオノーラがきゃっきゃっとはしゃぐ。ディートリンデが優しげな笑顔でそれを眺めていた。

 

 ディートリンデもエレオノーラも美しい。ディートリンデが夜半の月のような(はかな)さを帯びた美しさとすれば、エレオノーラは太陽のように明るい健全美がある。お姫さまの護衛を出来るなど、カミーレでの生活しか知らなかったナックにとってそれこそおとぎ話の世界のことだった。厄介ごとに巻き込まれるのは、森でひっそりと暮らすエルフらしからぬ挙動と、長の父ならばたしなめたかもしれない。だが、もう後戻りは出来ない。イルザへの襲撃が王都ゾンネンブルーメの街中でさえ行われたことを考えると、イルザもナックもカサンドラ一味に恨みを買ってしまったのは間違いがなかった。


 お姫さまたちを守る。男ならば、誰もが一度は憧れるポジションだ。イルザと一緒のときは、彼女の方が腕が立つためにナックはいつも守られる側にあった。これからは、ディートリンデやエレオノーラだけでなく、イルザまでも守れる存在になりたいと、ナックは強く思った。


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