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3,彼女との出会い、友との別れ

 あの一件から一夜が明け、廃墟の壁に寄り掛かって休んでいた俺の前にはある女性が立っていた。


「わっちの使い魔になりなんし」


急に言われたその一言で頭上に『?』が浮かぶなか、まずその女性の姿に目がいった。


 ベージュ色の長髪に三つの大きなロールのかかった髪型が特徴的で、日本の文化があるのかと思うほど振袖に良く似たものを着ており、薄紫のその振袖には少し禍々しさのある模様が入っていて、所々に骨のような装飾をつけている。そしてそれを肩まではだけさせ、脚も正面をはだけさせて艶めく脚がチラチラと見える。


(うん、エロい……じゃなかった! 凄く綺麗な人だ)


 その姿はただただ見る者を魅了する姿だったが、俺が気になったのは肌が人間と同じ肌色で、ぱっと見ただけだと人間にしか見えないこと、よく見てみれば耳が尖っていたりして魔族なのがわかるが、とにかく綺麗な人だ。そうして口を開けて眺めているとその女性が口を開く、


「どうしんしたか? わっちの顔に何か付いていんすか?」


首を傾げて尋ねてくる姿は絶世の美女そのものだった。


「す、すみません! つい見惚れて……じゃなくて、使い魔って!?」


必死に誤魔化す俺を見て察してくれたのか、話を本題へ戻す。


「話がいきなりすぎんしたか? そうでありんすねぇ、まずはわっちの自己紹介が先でありんしたね」


そう言って口元に当てていた扇をカシャっと閉じた。その瞬間、風が吹きはじめて彼女の髪をなびかせる。


「わっちはメイフィーレ・シャーデルと申しんす。メーレと呼んでくださいまし」


そう言って微笑み、扇を開き直す。


「メーレ……さんですか、あっ俺の名前は尺央進です! 皆んなにはジャクオウってそのままで呼ばれてます」


すると扇の裏でクスッと笑い、


「知っていんすよ、先日の噂はわっちの耳にも届いていんしたから」


心の中でどこまで広がってるのか気になったが、今はいいだろう。


 話を聞くと、先日のあの一件が魔王城の兵の間でも噂になっていたらしい。気になって兵に聞いたところ興味が出て一目見てみたいと思って来てみたら『好み?』だったそうで、是非使い魔に……とのこと。


(って言うか物凄く気になってたんだけど、冒険者3、4人倒したくらいで何でこんなに噂になるんだ?)


いい機会だと思い彼女に聞いてみると少し驚いた表情を見せて俺の事情を聞くと、


「ぬしは新兵でありんしたか、それでは知らなくても無理はないでありんすねぇ」


 そう言って優しく丁寧に教えてくれた。この魔王軍では下級魔族、中級魔族、上級魔族と部類されていて、俺がいる下級魔族は冒険者や勇者を足止めするか消耗させるのが主な目的で、下級魔族の中では自分達で冒険者や勇者を倒すなんて無理だといつのまにか決めつけてしまっていたそうだ。ゲンちゃんのように下級魔族ではない者が戦場に混ざる事もあるが、その場合は隙を作ったり補佐するのも仕事だという。


「大体こんなものでありんすが、分かりんしたか?」


そう丁寧に尋ねてきたので、コクコクと頭を縦に振り御礼を言う。


 そして、使い魔の件については『主人が死ぬまで一生使い魔の契約を消すことができない』といった契約なので返答は明日の夜にこの場所で、ということになって彼女はその場を後にした。


 その後、どうすればいいのか悩んでいた俺はエルンのもとを訪れる。事情を話すとエルンは何故か飛び上がり、


「えぇぇぇ!? ちょっと待てぃ、その女性が自分の名前をメイフィーレ・シャーデルって言ったのか!?」


何を慌ててるのかと思ったが、そうだと頷くと、


「その女性……いや、その方がどなたか分かってないだろ! その方は色翼十四将しきよくじゅうよんしょうが一人『亡者アンデッド女王クイーン』のメイフィーレ様だぞ!?」


どれだけ凄いお方なのかを必死に伝えようとするエルン、


「『亡者アンデッド女王クイーン』……それに色翼十四将しきよくじゅうよんしょうって一体……」


改めてエルンに詳しいことを聞いてみると、“あの”エルンが珍しく真剣な表情で話してくれた。


 まず『亡者アンデッド女王クイーン』という二つ名について。彼女は死霊しりょう亡者もうじゃを操る『ネクロマンサー』なのだが、この世界では『最上希少種』でネクロマンサー最後の生き残りなのだという。


 そして色翼十四将しきよくじゅうよんしょうについては、魔王様より各色の『魔王の翼』をたまわりし十四人の魔王軍幹部たちだ。この幹部たちは魔王様の直属の側近で、これまで冒険者や勇者を葬ってきたほとんどがこの幹部たちだ。


「これでメイフィーレ様の凄さが分かったか! とんでもないお方に使い魔に選ばれたんだぞ、勿論なるんだろ?」


もう結論が出ていると言わんばかりの言い方でそう言ってくるエルン、俺は顎に手を当てて悩み、


「じゃあ、あと一つだけ聞いて良いか? あの人が言ってた『主人が死ぬまで一生使い魔の契約を消すことができない』ってのはそのままの意味なのか?」


そう聞くとエルンは少し難しい顔をして、


「そうだなぁ、その言葉はそのままだな。だけど説明としては不十分かなぁ、もっと詳しくいえば『死ぬんだよ』……主人が死ぬと使い魔も」


その言葉に一瞬息が詰まるような感覚があったが、少し風に当たってくると言ってその場を後にした。


 少し歩き、ひらけた草原であぐらをかいて黒い空を見上げて考えていると、


「天なんて見上げちまって……何か悩んでるみたいだな」


太い声で後ろから話しかけてきたのはゲンちゃんだった。ゲンちゃんは俺の隣に座って話を聞いてくれた。


「そうか……そんな事があったのか、確かに幹部の使い魔になれるのは誇らしい事だな……だが冒険者や勇者が討伐しにくるのは幹部や魔王だから危険がつきまとう、俺らのような弱い魔物は奴らの眼中にはないからな」


そう言ってゲンちゃんは天を見上げると、フッと笑って俺の背中をその大きな手で叩く。


「安全か危険かで悩まずに、主人を守りたいかどうかで決めたら良いじゃねえか!」


そう言って立ち上がり、背中越しに別れを行って帰って行った。


(守りたいか……かぁ)


 そして次の日の約束の夜、前にいた廃墟に向かうと既に瓦礫に綺麗な布を敷いて彼女は座っていた。気配を感じたのか、俺の方を見てニコッと微笑む。


「お待たせしちゃってましたか?」


そう聞くと首を軽く振り、


「わっちも先程着いたばかりでありんす……答えは……出していただけんしたか?」


少しだけ不安げな表情にも見えたが、自分で決めた答えを伝える。


「はい、色々と考えたんですけど……自分にメーレさん……いや、メーレ『様』を守らせてください!」


照れながらまるで告白のような事を言った俺を見て彼女は一瞬驚いて、安心したような顔になる。


「そうでありんすか……その言葉通り、わっちを守ってくんなまし」


そう言って頬を赤らめる。


(か、可愛い……)


この時そう思っていた事は言うまでもない。


 その後、彼女の自室に行くことになり一定の魔物か幹部しか使えない空間移動の魔法『空間扉ゲート』で向かうことになった。特に持っていくものも何もなかった為、すぐに行こうという話になったのだが、ここまでお世話になったエルンに挨拶をしていこうと思っていたのに今日一日エルンを一度も見かけなかった。そして彼女の『空間扉ゲート』に入ろうとして背後を見ると、少し遠くで一人のガイコツ兵が親指を立ててその手をこちらに掲げていた。


(ん!? あの決めポーズは……エルンだ!)


しかし気づいたのは遅く、俺は『空間扉ゲート』の中に吸い込まれていった。


(最後にカッコよく決めやがって……)


 そして一瞬の闇を経て暖かい光に包まれる。そこで見たモノに対して一言、


「Oh my God!」


ついつい英語で言ってしまったのも、目の前に広がっているのが元の世界で何度か目にした日本庭園のような庭に、立派な武家屋敷が建っていたからだ。全体的には薄暗く、赤い灯籠とうろうが主な光となっていて桜のような花が舞い散る幻想的な風景を創り出していた。彼女の格好から予想できなくもなかったが、まさかこういう場所もあったとは。


(っていうか、ここって魔王城の中だよな!?)


そう思い天井を見てみるが、薄暗くてよく見えない。そうしてキョロキョロしていると隣にいた彼女が、


「どうでありんすか? わっちの魔性空間エリアは、気に入って頂けんしたか?」


そう言って様子を伺ってきていたので、


「は、はい! なんか安心すると言うか、引き込まれるような風景ですね」


その返答で安心したのか笑みを浮かべながら、


((これからは、ぬしとわっちの魔性空間エリアでありんす……))


彼女は少し照れながら小声でそう言っていた気がするが、気のせいか……。


「ここがこの世界での俺の居場所になるのか……」


そう思い、ここまで考えないようにしていた元の世界のことが頭をよぎるが、覚悟を決めたのだと心に言い聞かせて桜のような花が舞い散るなか、第二の家となる屋敷に向かって歩み出す……。

読んで頂きありがとうございます。

次回は遂に魔王様と御対面!?

是非また読んで頂ければと思います。

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